労災の診断書とは、労災の申請をするにあたって必要となる医師の診断書です。
労災の診断書は、申請する給付の種類によって必要となる診断書の内容が異なるため、診断書が必要となるケースを把握しておく必要があります。
また、労災の診断書の内容によっては、労災の後遺障害等級の獲得に影響するため、注意が必要です。
この記事では、労災の診断書が必要なケースや、診断書のもらい方、診断書作成時の注意点などについて詳しく解説していきます。
目次
労災の診断書とは?
労災の診断書とは、障害(補償)給付や傷病(補償)年金などを受給するにあたって必要となる医師の診断書です。
労災の診断書は、労災の給付内容によって必要となる診断書の種類が異なるため、どのようなケースでどのような診断書が必要になるのかおさえておきましょう。
労災の診断書が必要なケース
労災の診断書が必要なケースとは、以下の給付を申請する場合です。
障害(補償)給付
障害(補償)給付とは、業務上又は通勤による怪我又は疾病が治癒した(症状固定になった)あと、身体に一定の障害が残った場合に支給される給付です。
障害(補償)給付(障害給付)には、後遺障害等級1級から7級までの間で認定された場合に支給される障害(補償)年金と、8級から14級までの間で認定された場合に支給される障害(補償)一時金があります。
必要書類
障害(補償)給付の申請には、業務災害若しくは複数業務要因災害のときは「障害(補償)給付・複数事業労働者障害給付請求書」(様式10号)、通勤災害のときは「障害給付支給請求書」(様式16号の7)が必要となります。
障害(補償)給付の添付書類として、医師または歯科医師が作成した診断書が必要となります。
障害(補償)給付の手続きの流れについて、詳しくはこちらをご覧ください。
給付内容
障害(補償)等給付の支給額は以下のとおりです。
【 障害等級第1級〜第7級まで 】
障害等級 | 障害(補償)等年金 | 障害特別支給金 | 障害特別年金 |
---|---|---|---|
支給方法 | 年金 | 一時金 | 年金 |
第1級 | 給付基礎日額の313日分 | 342万円 | 算定基礎日額の313日分 |
第2級 | 給付基礎日額の277日分 | 320万円 | 算定基礎日額の277日分 |
第3級 | 給付基礎日額の245日分 | 300万円 | 算定基礎日額の245日分 |
第4級 | 給付基礎日額の213日分 | 246万円 | 算定基礎日額の213日分 |
第5級 | 給付基礎日額の184日分 | 225万円 | 算定基礎日額の184日分 |
第6級 | 給付基礎日額の156日分 | 192万円 | 算定基礎日額の156日分 |
第7級 | 給付基礎日額の131日分 | 159万円 | 算定基礎日額の131日分 |
【障害等級第8級〜第14級まで】
障害等級 | 障害(補償)等一時金 | 障害特別支給金 | 障害特別一時金 |
---|---|---|---|
支給方法 | 一時金 | 一時金 | 一時金 |
第8級 | 給付基礎日額の503日分 | 65万円 | 算定基礎日額の503日分 |
第9級 | 給付基礎日額の391日分 | 50万円 | 算定基礎日額の391日分 |
第10級 | 給付基礎日額の302日分 | 39万円 | 算定基礎日額の302日分 |
第11級 | 給付基礎日額の223日分 | 29万円 | 算定基礎日額の223日分 |
第12級 | 給付基礎日額の156日分 | 20万円 | 算定基礎日額の156日分 |
第13級 | 給付基礎日額の101日分 | 14万円 | 算定基礎日額の101日分 |
第14級 | 給付基礎日額の56日分 | 8万円 | 算定基礎日額の56日分 |
請求期限
障害(補償)給付の時効は、症状固定日(これ以上治療しても、症状の改善がなく、治療の効果がないと考えられる時点)の翌日から5年となります。
傷病(補償)年金
傷病(補償)等年金は、業務上の事由または通勤により負傷し、または疾病にかかった労働者が、療養の開始後1年6ヶ月を経過した日またはその日以降において、次の要件に該当する場合に支給されます。
- ① その負傷または疾病が治っていないこと
- ② その負傷または疾病による障害の程度が傷病等級表の傷病等級に該当すること
傷病(補償)等年金の支給がなされると、それまで休業(補償)等給付を受給していれば、以降の支給はされなくなります。
必要書類
「傷病の状態等に関する届」(様式16号の2)に、医師の診断書、厚生年金等の加入及び受給状況等の届などを添付し、提出することになります。
傷病(補償)年金の手続きの流れについて、詳しくはこちらをご覧ください。
給付内容
傷病(補償)年金の支給額は以下のとおりです。
傷病等級 | 給付額 | 傷病特別支給金 | 傷病特別年金 |
---|---|---|---|
第1級 | 給付基礎日額の313日分 | 114万円 | 算定基礎日額の313日分 |
第2級 | 給付基礎日額の277日分 | 107万円 | 算定基礎日額の277日分 |
第3級 | 給付基礎日額の245日分 | 100万円 | 給付基礎日額の245日分 |
請求期限
傷病(補償)年金は、労災発生後、1年6か月を経過しても、症状固定となっていない場合に支給される年金のため、この請求には、時効はありません。
遺族(補償)給付
遺族(補償)給付は、労働者の死亡によって、その当時、その収入によって生計を維持していた配偶者、子・父母・祖父母等に対して、遺族(補償)年金または遺族(補償)一時金という形で支給されます。
配偶者以外の遺族が受給するためには、労働者の死亡の当時に一定の高齢または年少であるか、あるいは一定の障害の状態にあることが必要となります。
遺族(補償)年金は、受給資格者のうちの中から一番優先される順位の人に対して支給されます。
必要書類
遺族(補償)給付の申請には、「遺族(補償)年金・複数事業労働者遺族年金支給請求書」(様式12号)または「遺族年金支給請求書」(様式16号の8)が必要となります。
また、遺族(補償)給付の添付書類として、死亡診断書、死体検案書、検視調書またはそれらの記載事項証明書など、労働者の死亡の事実及び死亡の年月日を証明することができる書類が必要となります。
遺族(補償)年金の手続きの流れについて、詳しくはこちらをご覧ください。
給付内容
遺族数(受給権者および受給権者と生計を同じくしている受給資格者の数)などに応じて、遺族 (補償)等年金、遺族特別支給金、遺族特別年金が支給されます。
なお、受給権者が2人以上あるときは、その額を等分した額がそれぞれの受給権者が受ける額となります。
遺族(補償)給付の支給内容について、詳しくは以下もご覧ください。
参考:遺族(補償)等給付 葬祭料等(葬祭給付)の請求手続|厚生労働省
請求期限
遺族(補償)給付の時効について、一時金、年金ともに、被災労働者が死亡した日の翌日から5年間になります。
葬祭料の給付
葬祭料は、葬祭の費用の補填を目的として、葬祭を行う者に対し支給されます。
葬祭料(葬祭給付)の支給対象となる方は、必ずしも遺族とは限りませんが、通常は葬祭を行うにふさわしい遺族が該当します。
必要書類
葬祭料の申請には、「葬祭料又は複数事業労働者葬祭給付請求書」(様式16号)もしくは「葬祭給付請求書」(様式16号の10)が必要となります。
また、葬祭料の給付の添付書類として、死亡診断書、死体検案書などの書類が必要となりますが、遺族(補償)給付と同時に申請する場合は、重ねて死亡診断書等を添付する必要はありません。
支給内容
葬祭料(葬祭給付)から支給される額は以下のとおりです。
(この額が給付基礎日額の60日分に満たない場合には、給付基礎日額の60日分が支給額となります。)
葬祭料の給付の手続きの流れについて、詳しくはこちらをご覧ください。
請求期限
葬祭料の給付の時効は、被災労働者が死亡した日の翌日から2年となります。
介護(補償)給付
介護(補償)給付とは、障害(補償)等年金または傷病(補償)等年金の第1級の方すべてと第2級の精神神経・胸腹部臓器の障害を有している方が現に介護を受けている場合に支給されるものです。
介護(補償)給付の支給要件としては、以下のものがあります。
- ① 一定の障害の状態(常時介護・随時介護)に該当すること
- ② 民間の有料の介護サービス、親族または友人・知人により、現に介護を受けていること
- ③ 病院または診療所に入院していないこと
- ④ 十分な介護サービスを提供されている施設(老人保健施設、障害者支援施設(生活保護を受けている)、特別養護老人ホームなど)に入所していないこと
必要書類
介護(補償)給付を請求するときは、「介護補償給付・複数事業 労働者介護給付・介護給付支給請求書」(様式第16号の2の2)が必要となります。
また、初回時における請求のみ、障害の部位・及び状態並びにその障害を有することに伴う日常生活の状態に関する医師または歯科医師の診断書が必要になります。
介護(補償)給付の手続きの流れについて、詳しくはこちらをご覧ください。
支給内容
介護(補償)給付は、介護の状況や、誰に介護を受けているかによって、支給内容が異なります。
介護(補償)給付の内容について、詳しくは以下もご覧ください。
請求期限
介護(補償)給付の時効は、介護を受けた月の翌月1日から2年間となります。
労災の診断書はどこで手に入れる?
労災の診断書は、通院されている病院に依頼して作成してもらうことになります。
労災の診断書については、書式が決まっているものもあるため、厚生労働省のホームページから書式をダウンロードしたうえ、持参していくようにしましょう。
労災の診断書のダウンロードはこちらから
労災の診断書については、診断書の様式が決められているものがあります。
労災の診断書について、下記をご参照ください。
労災の診断書の作成方法 ・労災の診断書の書き方
労災の診断書の作成に要する期間
労災の診断書の作成に要する期間については、一般的に1週間から4週間程度を要します。
もっとも、提出する書類や病院によっては、上記期間よりも長くかかる場合もあるため、あらかじめ余裕を持って作成を依頼しましょう。
労災の診断書の提出先
労災の診断書は、各請求書の様式とともに、会社が所在地を管轄する労働監督基準署に提出することになります。
診断書について提出先が不明の場合は、最寄りの労働監督基準署に問い合わせるようにしましょう。
労災の診断書の費用
労災の診断書の費用については、診断書の種類や病院によって料金が異なりますが、一般的には3000円〜1万円前後かかります。
診断書の費用については、診断書を作成してもらう病院にあらかじめ聞いておくとよいでしょう。
また、労災の診断書を作成したときは、後に述べるように4000円まで診断書料の支給を労災から受けることができます。
労災の診断書の注意点
労災の診断書を書いてくれないときの対処法
労災の診断書を書いてくれない理由として、担当医師が後遺障害が残っていないと考えている場合や転院して間もないケースが考えられます。
労災の診断書を書いてくれない場合の対処法として以下の方法が考えられます。
後遺障害が残っていないと考えられた場合
担当医師が後遺障害は残っていないと考えている場合、診断書の作成を拒否する可能性があります。
しかし、労災の請求に対して、後遺障害の有無を判断するのは労働基準監督署です。
また、診断書に記載するのは、診断書作成時における被災労働者の症状や状況です。
そのため、診断書の作成を拒否された場合は、こうした事情を医師に説明して、症状固定時の症状を書いてもらうようにお願いしましょう。
転院して間もない場合
転院して間もない場合、医師は患者の状態を一貫して見ているわけではないため、診断書の作成を拒否する場合があります。
そのため、転院する予定がある場合は、あらかじめ診断書の作成について医師に相談するようにしましょう。
必要な検査を実施し記載してもらいましょう
労災の後遺障害等級の認定について、腕や足の可動域の制限についても後遺障害の対象になります。
一方で、可動域の制限について診断書に記載がない場合は、等級の審査の対象になりません。
したがって、可動域の制限が生じている場合は、可動域に関する検査を受けてから記載してもらうようにしましょう。
記入漏れがないか確認しましょう
記入漏れがあった場合、記入されていない部分の症状については、審査の対象にならないため注意が必要です。
したがって、少しでも痛みや違和感がある場合は積極的に担当医師に症状について伝えるようにしましょう。
専門の弁護士に見てもらいましょう
労災の診断書は、後遺障害等級の認定を受けるうえで、特に重要となる書類です。
診断書の内容によっては、後遺障害があるにもかかわらず、適切な後遺障害等級を受けることができない場合があります。
診断書の内容に不安がある場合は、労災事故を得意とする弁護士に、診断書を見てもらうようにしましょう。
労災の診断書についてのQ&A
労災の診断書は自己負担ですか?
障害(補償)給付を請求するためには、医師の診断書が必要となりますが、診断書の作成には診断書作成費用が発生し、通常、診断書を請求した人が一旦支払うことになります。
もっとも、診断書料を負担した場合には、療養の費用請求書(様式第7号もしくは様式16号の5)を提出することにより、4000円まで診断書料の支給を受けることができます。
その際には、診断書を作成したときの領収書の添付が必要となります。
労災の診断書はどの病院でもらえますか?
労災の診断書は、担当医師に作成してもらうことになります。
労災の診断書については、書式が決まっているため、厚生労働省のホームページから書式をダウンロードしたうえ、担当医師に必要事項を記載してもらいましょう。
まとめ
- 労災の診断書とは、傷病(補償)年金や障害(補償)給付などを受給するにあたって必要となる医師の診断書である
- 労災の診断書の費用については、診断書の種類や病院によって料金が異なるが、一般的には3000円から1万円前後かかる
- 労災の診断書の作成に要する期間について、一般的には2週間から4週間程度を要する
- 労災の診断書の費用については、診断書の種類や病院によって料金が異なりますが、一般的には3000円から1万円前後かかる
- 労災の診断書を書いてくれない理由として、担当医師が後遺障害が残っていないと考えている場合や転院して間もないケースが考えられる
- 記入漏れがあった場合、記入されていない部分の症状については、審査の対象にならないため注意が必要である
当事務所には労災案件に注力する弁護士で構成される人身障害部、労働事件チームがあり、労災事故でお困りの企業や個人をサポートしています。
LINE、MeeT、FaceTimeや電話相談を活用した全国対応も行っていますので、労災事故でお困りの方はお気軽にご相談ください。