労災なのに健康保険を使ってしまったら?弁護士が解説

労災事故の通院なのに健康保険を誤って使用してしまった場合には、労災保険での対応に切り替える手続を速やかにする必要があります

労災事故の通院の場合は、健康保険を使用できません。

しかし、知らず知らずのうちに労災事故なのに健康保険を使ってしまっていたケースもあります。

これから、労災事故の通院なのに健康保険を使用してしまった場合の対処法について解説いたします。

労災では健康保険はNG

そもそも、どんなものが労災になるの?

労災とは、労働災害の略称で、従業員が、業務中または、通勤途中に、怪我、病気、死亡にかかる事故を指します。

労災が起こってしまった場合には、労災の被害を受けた従業員は、労災保険給付を受けることができます。

労災保険給付にはさまざまな項目がありますが、代表的なものとして治療費(治療そのもの)や休業の補償があります。

なお、労災保険給付では慰謝料などの支給がありませんので、労災保険給付でカバーできない部分については、会社に対して損害賠償請求を行うことも考えられます。

労災について詳しくは、こちらをご覧ください。

 

なぜ健康保険を使えないのか?

労災事故に遭って通院をする場合は、労働者災害補償保険法に基づく保険が適用されることになります。

一方、健康保険は、健康保険法に基づく、病気・ケガを補償する制度になります。

健康保険法では、労災保険から給付を受けることができる場合には、健康保険での対応は行わない旨の規定があります(健康保険法55条1項)。

そのため、健康保険は、労災事故による治療をカバーしていないことになり、結果として、労災の場合には、健康保険を使用することができません

 

誤って健康保険を使用したらどうなる?

労災事故の治療なのに誤って健康保険を使用することは法律上できません。

そのため、誤りに気づいた段階で、速やかに労災保険への切り替える手続きをする必要があります。

健康保険から労災保険に切り替える手続きの中で、治療費の全額を一時的に立て替える可能性があります。

治療開始から時間が経過すると、その分立て替える治療費も高額になりますので、誤りに気づいたら、早めに手続きを行うべきです。

 

 

労災なのに健康保険を使ったときの対応方法

労災なのに健康保険を使ったときの対応方法は、労災保険への切り替えです。

労災保険に切り替えるために、まずは、受診した病院に、健康保険から労災保険へ切り替えることができるかどうかを確認しましょう。

なお、治療開始から時間が経過していると、病院での労災保険へ切り替えができなくなる可能性が高まりますので、誤って使用してしまったことに気が付いたら、早めに病院へ切り替えが可能かを確認した方が良いです。

病院で切り替えの手続きができるかどうかによって流れが変わりますので、これから、それぞれ説明いたします。

簡単な流れは、以下のフローチャートのとおりです。

病院での労災保険への切り替えができるかどうか
可能 不可能
労災保険の様式第5号または様式第16号の3の請求書を受診した病院に提出 全国健康保険協会などの保険者へ労災での通院なのに健康保険を使ってしまったことを申告
病院で支払った自己負担金(原則3割)の返金を受けられます。 全国健康保険協会などの保険者から送付された返還通知書を元に、返還額を支払う

※立替が難しい場合には労災保険と健康保険で調整を行う手続きもあります。

労災保険の様式第7号又は第16号の5を記入の上、返還額の領収書と病院の窓口で支払った金額(一部負担金)の領収書を添えて、労働基準監督署へ請求
労災保険から治療費の支給を受けられます。

病院で労災保険への切り替えができる場合

病院での労災保険への切り替えができる場合、労災保険の療養給付の請求書を提出することによって、労災保険への切り替えが可能です。

業務中の労災事故の場合には、労災保険の様式5号を提出することになり、通勤中の労災事故の場合には、労災保険の様式16号の3を提出することになります。

この2つの様式の雛形は厚生労働省のHPからダウンロードすることが可能です。

引用元:主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)|厚生労働省

手続きが無事に終わると、病院から、すでに手出しした自己負担部分(多くの方の場合は3割)が返還されます。

 

病院で労災保険への切り替えができない場合

病院で労災保険への切り替えができない場合は、原則として、これまでに健康保険を使用して通院した全額を負担することになります。

その後、手続きが無事に完了すると、自己負担をしていた部分も含めて返金を受けることができます。

流れは以下のとおりです。

全国健康保険協会などへ労災であることを申告

まずは、全国健康保険協会など、被害者の加入している健康保険の保険者(健康保険の運営組織のことを言います。)に労災事故の治療なのに誤って健康保険を使用した旨を連絡します。

ご自身の保険者は、ご自身の健康保険証の「保険者名」もしくは「保険者名称」として記載されていますので、まずは保険証をご確認ください。

保険証に保険者の電話番号の記載がない場合には、「保険者名」もしくは「保険者名称」として記載されている組織の名前でインターネット検索をすると、電話番号が見つかると思われます。

保険者に連絡するときに、いつの治療か、どこの病院での治療か、どのような診断を受けたか、を申告して、その治療について、労災事故が原因であったことを申告します。

保険者から送付された返還通知書を元に、返還額を支払う

保険者に対して、労災事故について健康保険を使ってしまったことを申告すると、保険者から切り替えの手続きに関する指示があります。

その手続きに従って健康保険で受診した治療費のうち、保険者負担分(原則7割分)返納を行います。

保険者から受診医療機関(薬局)のレセプト(診療報酬明細書)の要否を聞かれた場合は「必要」と回答してください。

後ほどご説明します、労災申請の際に必要になります。

その後、保険者から、返納に関する返還通知書と振込用紙が送付されますので、返還額を支払います

また、返還通知書とともに、受診医療機関(薬局)のレセプト(診療報酬明細書)も同封されますので、絶対に開封しないでください

労災申請の際には、レセプトの入った封筒を開封しないまま、労働基準監督署に送付する必要があります。

労災申請を行う

健康保険負担部分(多くの場合は7割)について、保険者に返還を支払うと、健康保険の自己負担部分(多くの場合は3割)と、返還金額の合計が、治療費全額と同額になります。

労働基準監督署に労災として、上記の図の治療費の総額を負担したことを申請して、治療費の総額の返還を受けます。

労災を申請をするためには、お勤め先の会社の労働基準監督署へ、以下の4点の書類を提出する必要があります。

  • 療養(補償)給付たる療養の費用請求書
    労働災害の場合には様式7号、通勤災害の場合は様式第16号の5を提出します。
  • 病院の自己負担分(原則3割分)の領収書
    ※紛失した場合は療養費等領収書紛失届を提出します。
  • 保険者に返還した(原則7割分)の領収書
  • 保険者から送付された診療報酬明細書(レセプト)
    封をしたまま送付する必要があります。

労働基準監督署が上記の書類を確認すると、労災保険から、治療費全額の返還を受けることができます。

また、上記の書類①を提出することにより、労災保険を使用した治療へと切り替わります。

治療費の立替が難しい場合

病院で、健康保険から労災保険への切り替えができない場合には、一時的に治療費の全額を負担する必要があるとご説明しました。

もっとも、すでに長期間治療している場合など、経済的な事情で一時的にでも治療費の全額を負担することが難しいケースがあると思います。

その場合には、先に労災申請を行い、労災の認定を受けた後、労働基準監督署へ「治療費の全額を負担することが難しい」ことをお伝えください

その後、労働基準監督署が健康保険の保険者と調整を行います。

調整が終了すると、保険者から、返還通知書等が届きますので、「療養(補償)給付たる療養の費用請求書」(様式第7号・第16号の5)と一緒に、労働基準監督署に提出します。

以上の流れで、治療費の一時的な手出しを回避することができます。

 

 

労災なのに健康保険を使ってしまったときの知恵袋

労災であることがバレますか?

労災なのに健康保険を使ってしまった場合、労働基準監督署にバレる可能性はあります。

例えば、労災被害者が、病院で事故の経緯について問診されたときに、医師から「実際は労災ではないか」と疑われてバレるケースがあり得ます。

会社側が労災かくしを行おうとするケースでは、労災被害者が適切な補償を受けるために、労働基準監督署に労災申告をすれば、労災事故が発生したことがバレます。

また、第三者の行為が原因となっている事故で健康保険を使用する際には、「第三者行為による傷病届」を提出する必要がありますが、その書類には、負傷の原因や労災事故でないことを記載する項目がありますので、労災被災者が素直に記載すれば、労災事故が発生したことがバレる可能性があります。

もし、労災事故の発生が労働基準監督署にバレて、労災かくしと認定されたら、50万円以下の罰金が科せられます(労働安全衛生法120条)。

 

労災と健康保険はどっちが得ですか?

労災事故の場合には、労災保険のみ使用ができ、健康保険の使用はできませんので、得かどうかを比較できるものではありません。

もっとも、労災保険の方が補償が手厚いということはいえます。

まず、治療費の自己負担部分で見ますと、労災の自己負担部分は0に対し、健康保険では、原則3割となります。

労災認定された事故で、後遺障害が認定された場合、一時金や年金を受領することもできます。

さらに、労災であることをしっかり認定されている場合には、労働災害で休業している期間と休業期間が終了した後30日間は、労災被害者を解雇することができませんので、その意味でも労災保険の方がお得と言えるでしょう。

 

労災保険への切り替えをすれば、十分な補償は受けられますか?

健康保険から労災保険へ切り替えを行っても、十分な補償を受けられるとは限りません。

労災保険は、治療費の自己負担なく治療をできる手厚い保険であることは間違いありません。

しかし、労災保険からは慰謝料(精神的な苦痛に対する賠償金)や壊れた物に対する補償や給付はありません

労災事故の発生について会社に問題があるようなケース、第三者の行動が原因で事故が発生したようなケースの場合には、その会社や第三者に慰謝料や壊れたものや精神的苦痛に対する補償を請求できます。

そのような補償をしっかりと受けるためにも、会社や第三者が原因の労災事故の場合には、労災事故に詳しい弁護士に相談することを強くお勧めします。

 

 

まとめ

ここまで、労災の場合に健康保険を使ってしまった場合の対処法について解説いたしました。

労災の場合には、健康保険を使用することができませんので、もし、労災の場合に健康保険を使ってしまった場合には、速やかに労災保険対応の治療へ切り替える手続きをすべきです。

労災の原因が、第三者や会社に非のある場合は、会社に賠償請求をすることができる可能性があります。

そのため、労災事故に遭った場合には、労災への対応について詳しい弁護士に相談をすべきです。

デイライト法律事務所では、人身障害部を設け、労災事故をはじめとする人身障害に特化したチームを編成していますので、ご相談から事件解決までの力強いサポートをすることができます。

また、zoomやLineでの相談についても初回無料で対応しており、ご相談の予約は24時間受け付けております。

労災被害に遭った方は、お気軽にご相談いただければと思います。

 

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