労災とは?
労災とは、仕事や出退勤中の事故が原因となって、ケガをしたり、病気になったり、あるいは死亡することです。
仕事が原因となる労災は業務災害といい、従業員の出退勤途中の事故が原因となる場合は通勤災害と呼ばれています。
例えば、建設現場で作業中に落下物に衝突して骨折したような場合には業務災害となります。
また、自転車で通勤途中に車に衝突されてケガをしたような場合には通勤災害となります。
業務災害について詳しくは以下をご覧ください。
通勤災害について詳しくは以下をご覧ください。
なお、労災は、正確には「労働災害」といいますが、一般的には簡略化して「労災」と呼ばれることが多いです。
労災のときに支給されるものとは?
労災に遭った場合には、労災保険を利用することができます。
労災保険で支給されるものとしては、休業補償給付、療養補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、傷病補償給付、介護補償給付、葬祭料・葬祭給付があります。
休業(補償)等給付
労働災害によって、以下の3つの要件に該当することとなった場合には、休業4日目以降から休業補償の支給を受けることができます。
- ① 療養のため労働できないこと
- ② 労働不能であること
- ③ 賃金を支給されていないこと
上記の要件を満たす場合には、休業補償給付と休業特別支給金が支給されます。
休業補償給付は給料の60%支給され、特別支給金は給料の20%分が支給されるものです。
つまり、労災保険の休業補償により、給料の80%をカバーすることができます(1〜3日目は労災保険では補償されません)。
なお、通勤災害の場合には、休業給付と呼ばれますが、中身は休業補償給付と同じです。
休業の初日から3日目までは、会社が休業補償を支給することになります。
労災保険の休業補償における特別支給金は損益相殺の場面で例外的な扱いを受けます。
損益相殺とは、労働災害などの事故にあった場合、事故に遭ったことで得た利益については、賠償額から差し引くという考え方です。
例えば、休業損害として30万円の損害が発生している場合に、労災保険から、通常の休業補償として60%である18万円、特別支給金として6万円が支給されたとします。
この場合、損益相殺の原則どおり考えると、18万円+6万円はすでに補償されているので、会社が負担すべき金額は残額の6万円と思われます。
しかし、特別支給金部分は損益相殺の対象とならないので、会社が負担すべき金額は12万円ということになります。
つまり、従業員としては、100%を超える休業補償を受け取ることができるのです。(※会社が労災について責任を負う前提の話です。)
療養補償給付
労災によるケガや精神疾患の治療をするために要した治療費は、療養補償給付として支給をうけることができます。
療養補償給付で補償される内容は以下のとおりです。
- 診察
医師、歯科医師の診察の費用 - 薬剤の支給
薬の処方や投与の費用 - 治療材料の支給
ガーゼ、包帯、コルセットなどの費用 - 処置
注射、酸素吸入、包帯の交換、患部の洗浄などの費用 - 手術
- その他の治療
整骨院での施術などの費用 - 居宅における療養上の管理およびその療養に伴う世話その他の看護
在宅の患者に対する医師の医学的管理や訪問看護の費用 - 病院または診療所への入院およびその療養に伴う世話その他の看護
- 移送
災害現場や自宅等から医療機関への移送、転医などのための費用
障害補償給付
障害補償給付は、労災保険に後遺障害等級の認定を受けた場合に請求することができるものです。
後遺障害等級には1〜14等級があり、それぞれ症状に合わせて◯級1号、2号、3号、、というように認定表に定められています。
障害補償給付は、治癒(症状固定)した後に、労働基準監督署に障害補償給付の申請をすることで審査してもらうことができます。
審査は、提出された書類(医療記録など)に加えて、従業員が労基署に出頭して面談の上、最終判断されることになります。
ただし、労基署において判断ができない障害(目の障害、胸腹部臓器の障害など)については、労災病院等で認定が行われることもあります。
給付額は、認定された等級によって変わります。
1級〜7級は年金として支給され当該障害が残存する期間について支給されます。
また、年金に加えて特別支給金も支給されます。
1級〜7級の給付内容は下表のとおりです。
等級 | 年金として給付される内容 | 特別支給金 |
---|---|---|
第1級 | 給付基礎日額の313日 | 342万円 |
第2級 | 給付基礎日額の277日 | 320万円 |
第3級 | 給付基礎日額の245日 | 300万円 |
第4級 | 給付基礎日額の213日 | 264万円 |
第5級 | 給付基礎日額の184日 | 225万円 |
第6級 | 給付基礎日額の156日 | 192万円 |
第7級 | 給付基礎日額の131日 | 159万円 |
8級〜14級に認定された場合、障害補償は一時金として支給を受けることになります。
1級〜7級と同様に特別支給金も支給されます。
8級〜14級の給付内容は以下のとおりです。
等級 | 給付される内容 | 特別支給金 |
---|---|---|
第8級 | 給付基礎日額の503日 | 65万円 |
第9級 | 給付基礎日額の391日 | 50万円 |
第10級 | 給付基礎日額の302日 | 39万円 |
第11級 | 給付基礎日額の223日 | 29万円 |
第12級 | 給付基礎日額の156日 | 20万円 |
第13級 | 給付基礎日額の101日 | 14万円 |
第14級 | 給付基礎日額の56日 | 8万円 |
遺族補償給付
従業員が、労災で死亡した場合、その遺族は遺族補償給付を受けることができます。
遺族補償給付には、遺族年金と一時金の2種類があります。
遺族年金を受給できる立場の遺族がいる場合には遺族年金が支給され、いない場合には一時金が支給されることになります。
遺族年金の支給対象者は、死亡した従業員の収入によって生計を維持していた配偶者(内縁関係含む)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹で、最も優先順位が高い人が支給を受けることができます。
ここでいうところの「生計を維持していた」とは、死亡した従業員が大黒柱として生計を維持していなくても、夫婦共働きのような場合などでも認められます。
上記のような遺族年金の対象者がいない場合には、一時金が遺族に支給されることになります。
傷病補償給付
傷病補償給付とは、療養開始から1年6ヶ月経過した日以降に以下の2つの要件を満たした場合に支給されます。
- ① 傷病が治っていないこと
- ② その傷病による障害の程度が傷病等級表の傷病等級に該当すること
傷病補償給付は、休業補償の代わる形で支給されるもので、労働基準監督署長の職権によって行われます。
職権で行うとは、従業員や会社の請求手続きは不要で、労働基準監督署長の主導で手続きを進め支給の可否を決定するということです。
介護補償給付
従業員に介護が必要となった場合には介護補償給付が支給されます。
対象となるのは、障害・傷病等級第1級の認定を受けている者、第2級で精神神経・胸腹部臓器に障害を有する者が対象となります。
民間の介護サービスや親族などに、現に介護を受けていることが必要となります。
病院や老人保健施設、障害者支援施設、特別養護老人ホームなどに入所している場合には、当該施設で十分な介護を受けていると考えられるため、支給の対象にはなりません。
葬祭料・葬祭給付
従業員が労働災害により死亡した場合には、労災保険から葬祭の費用が支給されます。
支給額は、実際の支出にかかわらず、以下の2つの金額を比べて小さい金額の方が支給額となります。
- ① 31万5000円+給付基礎日額の30日分
- ② 給付基礎日額の60日分
例えば、給付基礎日額が1万円の場合には、①は61万5000円、②は60万円となるため、②の60万円が支給額となります。
休業補償の金額の目安
労災休業補償の計算方法とは?
労災保険からは、休業補償給付と休業特別支給金が支払われます。
休業補償給付は「給付基礎日額」の60%、休業特別支給金は「給付基礎日額」の20%が支払われます。
したがって、労災保険の休業補償を計算するにあたっては、以下の3つのステップを踏むことになります。
給付基礎日額は、原則として、労働基準法の平均賃金によって計算します。
労働基準法の平均賃金の計算式は以下のとおりです。
例えば、給与の月額が30万円の従業員が、9月に労働災害に遭って休業した場合の給付基礎日額は以下の計算式で計算します。
30万円 × 3ヶ月 ÷ 92日 = 9783円(1円以下切り上げ)
上記の「92日」は 、6月:30日、7月:31日、8月:31日の合計の日数になります。
保険給付分は、給付基礎日額の60%、特別支給金部分は給付基礎日額の20%です。
従って、上記の例で考えると以下のとおりとなります。
保険給付分 9783円 × 60% = 5869円
特別支給金部分 9783円 × 20% = 1956円
上記の例を前提として、休業日数が30日の場合には、以下の計算式になります。
保険給付分 5869円 × 30日 = 17万6070円
特別支給金部分 1956円 × 30日 = 5万8680円
例えば、6月1日から30日まで休んだ場合には、4日目〜30日目の26日を休業日数としてカウントすることになります。
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計算機は休業補償を簡易迅速に把握するためのものであり、個別の状況には対応していませんので、正確な金額については労災問題に詳しい弁護士へ相談されることをお勧めします。
労災に関するQ&A
休業補償給は、いつ・どういう形で支払われる?
労災保険の休業補償の支給を受けるには、所定の様式に必要事項を記載して労働基準監督署に請求しなければなりません。
請求書は、従業員だけで全て作成できるものではなく、医師と会社の証明が必要となります。
労働基準監督署に請求後、審査を経た上で支給決定がなされ、従業員の指定する口座に振り込まれることになります。
労働基準監督署に請求をして受理されてから、支給決定が出るまでの期間は1ヶ月程度要します。
ただし、労働災害の内容によって調査期間も変わるため、支給決定が出るまでに数ヶ月以上要する場合もあります。
従って、休業補償の請求はできる限り早く手続きを進めた方がいいでしょう。
労災を受給途中で退職した場合はどうなる?
「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない。」
ここでいう「保険給付を受ける権利」とは、療養給付や休業補償などを請求する権利のことを指します。
したがって、労働災害発生時に勤めていた会社を退職したとしても、療養給付や休業補償を受ける権利は失わず、引き続き給付を受けることができます。
労災受給中に死亡した場合はどうなる?
労災保険から療養給付や休業補償を受け取っている中で、労働災害とは別の原因で従業員が死亡した場合には、療養給付や休業補償の支給は終了します。
労働災害が原因で死亡した場合には、別途遺族補償の問題となります。
ただし、労働災害発生から長期間経過しているような場合には、労働災害と死亡との因果関係の証明が難しくなり、遺族補償の問題として取り扱ってもらえない可能性はあります。
労災の金額に上限はある?
労災の休業補償の金額に上限はありません。
もっとも、仕事ができるようになった場合や、ケガや病気が治ったときには休業補償の支給も終了となります。
ここでいうところの「治ったとき」とは、傷病に対して現代医学で治療を継続しても症状の軽減が期待できない状態で、症状が一進一退の状態になった場合をいいます。
したがって、完全に痛みが消えた場合のみを指すのではなく、痛みがあっても上記のような状態であれば「治ったとき」と判断されることになります。
なお、通勤災害では、交通事故による負傷が多いですが、自賠責保険への請求は、治療費や休業損害、通院交通費などの損害について120万円までの限度額があります。
コロナの場合も休業補償をもらうことはできる?
コロナが労働災害であると認定されれば、休業補償を受け取ることができます。
医師や看護師などの医療従事者は、業務外で感染したことが明らかでない限りは、原則として労災保険の対象となり休業補償を受けることができます。
医療従事者以外の場合には、個別事情を勘案して業務が原因で感染したかどうかが調査され、業務が原因で感染したと認められる場合には、休業補償を受け取れます。
感染経路が明確に判明しない場合であっても、感染リスクが高い状況下で業務に従事している場合には、潜伏期間内に業務従事の状況や生活状況を調査して、労災保険の対象と認定されることもあります。
まとめ
- 労災とは、業務が原因となる業務災害と、出退勤中の事故による通勤災害の2つの総称であり、正確には労働災害という。
- 労災保険では、休業補償給付、療養補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、傷病補償給付、介護補償給付、葬祭料・葬祭給付の補償がある。
- 休業補償の計算は、給付基礎日額(直近3ヶ月の給料をその3ヶ月の暦日数で除して算出)の60%に休業日数を乗じて計算し、特別支給金は給付基礎日額の20%に休業日数を乗じて計算する。
- 休業日数のカウントについて、労働不能で労働ができず賃金を受け取れない期間は、賃金を会社の所定休日(土日など)も含めて休業日数としてカウントする。
- 休業補償や療養補償を受給中に退職しても、労災保険からの支給は継続する。
- 障害補償の給付額は、等級に応じて決まっており、1級〜7級は年金と特別支給金が支給され、8級〜14級は一時金と特別支給金が支給される。
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