労災で後遺障害の8級と認定されると、入通院慰謝料として100万円から200万円程度、後遺障害慰謝料として830万円を請求できる可能性があります。
ただし、入通院慰謝料は通院期間・入院期間やケガの内容・程度に基づいて金額が計算されるため、同じ8級の認定を受けているとしても、事案によって金額に差が出ます。
また、これらの慰謝料のほかにも、残りの就労可能期間に応じた金額を、「後遺障害逸失利益」として会社に請求していくことも考えられます。
この「後遺障害逸失利益」についても、後遺障害の内容や症状固定時の年齢等によって金額が変動してくるものになります。
この記事では、労災で後遺障害8級に認定された場合に給付される費目や金額、計算方法などについて、弁護士が解説します。
目次
労災で後遺障害8級|取得できる損害費目
労災事故で被災した場合、被災した従業員は、法律の定める基準によって労災給付を受けることができます。
また、労災で治療を継続したものの完治せず、後遺障害が残った場合は、認定された後遺障害の等級に対応した額の給付を受けることもできます。
さらに、このような労災制度からの補償によっても補えない損害があるときは、会社の責任を追及して損害賠償を請求することも考えられます。
一言で労災や損害賠償といっても、請求できる具体的な費目はさらに細かく分かれていますが、大きな枠組としては、労災からの給付と会社からの賠償の2種類と考えることができます。
それぞれから支払われる費目の詳細は、以下のとおりです。
- 療養(補償)等給付(治療費等)
- 休業(補償)等給付(休業損害の一部)
- 障害(補償)等給付(後遺障害に関する賠償の一部)
- 傷病(補償)等年金
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 後遺障害逸失利益
これらの損害費目は支給されるための条件や金額がさまざまですので、以下ではこれらの詳細について解説します。
後遺障害8級の労災保険からの支給
後遺障害8級に認定されるケースでは、労災保険から以下の給付を受けることができます。
療養(補償)等給付
療養(補償)等給付は、労災事故によって負傷した場合に、その治療に要する費用等に対して支給される給付です。
労災を原因とする怪我や病気の治療費を従業員個人の負担としないために、労働災害による怪我や病気の治療費が労災給付の対象となっているのです。
療養(補償)給付では、次のような費用が給付の対象となっています(労働者災害補償保険法13条2項)。
- 病院での診察代や、入院、手術、リハビリなどに要する治療費
- 処方された薬代
- 整骨院での施術費用
- 松葉杖や、義手・義足・義眼・義歯、ギプス、コルセット等の装具代
- 療養に伴う看護費
- 一定範囲の通院費
このような療養に対する給付は、労災が会社の業務を原因とする「業務災害」の場合は「療養補償給付」、通退勤中の事故である「通勤災害」の場合は「療養給付」と呼ばれています。
これらは労災の原因による区別であり、特に両者を区別する必要のない場面では、双方を指す趣旨で「療養(補償)給付」といった表記とされることが多いです。
療養(補償)給付は治療に対する給付であることから、治療が終了したことが前提となる障害(補償)給付と同時に支給されることは基本的にはありません。
休業(補償)等給付(休業損害の一部)
休業(補償)等給付とは、労災事故のために仕事を休業した場合に、休業による収入の減少(休業損害)に対して支給される給付です。
休業(補償)等給付には「休業(補償)給付」と、これに上乗せして支給される「休業特別支給金」とがあります。
休業(補償)等給付の金額は、給与を1日あたりに換算した「給付基礎日額」をベースに算定されます。
休業(補償)給付は給付基礎日額の60パーセント、休業特別支給金は20パーセントが支給される金額となります。
具体的な計算については、次の記事を併せてご参照ください。
傷病(補償)等年金
傷病(補償)等年金とは、療養の開始から1年6ヶ月が経過しても怪我等が治らない場合において、その怪我等の程度が国の定める「傷病等級表」に該当する際に支給される給付です。
傷病(補償)等年金が支給される場合には、休業(補償)等給付は支給されなくなります。
そのため、療養の開始当初は休業(補償)等給付として給付されていたものが、療養の開始から1年6ヶ月が経過すると、傷病(補償)等年金に切り替わるという捉え方もできます。
なお、治療開始から1年6ヶ月経過した時点の症状が傷病等級表に該当しないのであれば、傷病(補償)等年金は支給されず、引き続き休業(補償)等給付が給付されることになります。
傷病(補償)等年金の支給要件である傷病の等級には、第1級から第3級まであります。
傷病等級表については、こちらをご参照ください。
障害(補償)等給付(後遺障害に関する賠償の一部)
障害(補償)等給付とは、労災事故によって後遺障害が残り、その後遺障害が国の定める等級表に該当する場合に支給される給付です。
後遺障害の等級は、症状の重い方から順に1級から14級までの14段階と定められています。
障害(補償)等給付は、等級の8級から14級までに該当する場合は一時金として支給され、より重い1級から7級までに該当する場合は年金の形で継続支給されます。
後遺障害8級に該当した場合は、労災保険から障害補償一時金が支給されるとともに、社会復帰促進等事業から障害特別一時金及び障害特別支給金が支給されます。
後遺障害8級では、次のような一時金が支給されます。
障害補償一時金 | 障害特別一時金 | 障害特別支給金 | |
---|---|---|---|
支給額 | 給付基礎日額(※1)の503日分 | 算定基礎日額(※2)の503日分 | 65万円 |
※1「給付基礎日額」は、労災事故の直近3か月における1日あたりの平均給与額のことをいいます(労働者災害補償保険法8条1項)。
※2「算定基礎日額」は、労災事故により怪我や病気を発症した日の直近1年間において、従業員が会社から受けたボーナスなどの特別給与(臨時に支払われた賃金は除く)の総額を365日で割った金額のことをいいます。
労災の後遺障害の等級や補償金額等の詳細は、次の記事をご参照ください。
労災の後遺障害8級の慰謝料はいくら?
労災の後遺障害8級となった場合、以上のような労災給付を受けられますが、労災からの給付はあくまで治療や休業などに対する補償が中心となります。
慰謝料については労災給付の対象ではないため、労災によって後遺障害が残った場合、会社に対して慰謝料の支払いを請求することを検討する必要があります。
後遺障害の慰謝料請求では、次のような費目が対象となります。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
ただし、会社に対して慰謝料を請求できるのは、労災で後遺障害が残ったことに加え、労災の発生について会社に法的な責任が存在することが必要です。
すなわち、会社は従業員に対して安全配慮義務を負っており、これに違反したと認められれば、上記の慰謝料を請求することができます。
安全配慮義務とは、従業員が会社で働くに当たり、その健康や安全に配慮しなければならないという義務のことをいいます。
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
引用元:労働契約法|電子政府の総合窓口
慰謝料請求は会社の法的責任を追及するものですので、会社の側にこのような義務を怠ったという「過失」が存在することを立証しなければならないのです。
安全配慮義務についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。
入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、労災事故による怪我のために、入院や通院を強いられたことに対する慰謝料です。
「入通院慰謝料」という名称ですので、入院や通院に対する慰謝料ともいえますが、従業員の精神的苦痛は、入院や通院それ自体もさることながら、根本的には労災による怪我のために生じているといえます。
そのため「傷害慰謝料」と呼ばれることもありますが、これは「入通院慰謝料」と同じものを指しています。
慰謝料は精神的苦痛という目に見えない損害に対する賠償であり、金額を適切に算定するため、入通院の期間や日数、怪我の程度といった客観的な情報に基づいて金額を計算します。
具体的な入通院慰謝料の金額としては、次の表のようになります。
※縦軸が通院期間、横軸が入院期間となります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、労災による怪我に対して治療をしたにもかかわらず、完治に至らず一定の後遺障害が残ってしまった場合に支払われる慰謝料のことです。
後遺障害は症状の程度によって1級から14級までの14段階の等級があり、後遺障害慰謝料の金額は等級に応じて決まります。
各等級に対する賠償額の基準は裁判実務において確立しており、「裁判基準」や「弁護士基準」と呼ばれています。
この基準では、後遺障害8級の後遺障害慰謝料の金額は830万円となります。
労災の後遺障害についての解説は、こちらの記事もご参照ください。
労災の後遺障害8級の逸失利益はいくら?
労災によって後遺障害が残った場合、将来の労働能力が低下すると考えられます。
このような労働力の低下という損害のことを「逸失利益」といい、補償されるべき損害の一種です。
逸失利益の計算は、以下のように行います。
①1年あたりの基礎収入について
「基礎収入」は、逸失利益を計算するための基準となる金額です。
原則として、労災事故が発生した日の前年の収入を基礎収入とします。
②「労働能力喪失率」について
「労働能力喪失率」は、後遺障害のために失われた従業員の労働能力を、パーセンテージで表した割合となります。
労働能力喪失率の割合は、認定された後遺障害の等級によって決まります。
後遺障害8級であれば、労働能力喪失率は45パーセントとなります。
③「労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数」について
「労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数」は、症状固定の時点以降の従業員の稼働期間(原則として67歳までと想定)に対応した係数です。
67歳までを稼働年齢と想定するわけですので、単純に考えると、67から現在の年齢を引き算した年数分を基礎賃金にかければよいようにも思われます。
しかし、労災事故がなければ67歳になるまでの時間をかけて稼いだはずの逸失利益を、慰謝料として一括で受け取れるとなると、その後利息を得られる点で有利な条件となりすぎてしまいます。
そこで、67歳までの残りの稼働年数をベースにしつつも、時期が早く受け取れる利点を割り引いた数字である「ライプニッツ係数」という係数を用いるのです。
ライプニッツ係数を用いた計算の一例をお示しすると、次のようになります。
具体例
- 従業員の年齢:45歳
- 労災事故前年の収入:500万円
- 後遺障害等級:8級
計算式
①1年あたりの基礎収入 × ②労働能力喪失率 × ③労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
ライプニッツ係数について詳しくはこちらをご覧ください
計算方法
- ① 基礎収入:500万円
- ② 労働能力喪失率:45パーセント
- ③ 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数:労働能力喪失期間が22年間(67歳 – 45歳)であるため、「労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数」は15.9369
逸失利益 = ①500万円 × 0.45(45%) × 15.9369=35,858,025円
※なお、労働能力の喪失期間は、障害の内容しだいで短くなることがあります。
労災の後遺障害8級でもらえるその他の賠償金
労災事故では、労災給付や会社からの慰謝料のほかにも、以下のような賠償金を受け取れる可能性があります。
- 休業損害の一部
- 入院雑費
- 入院付添費・通院付添費
休業損害の一部
労災事故では休業を余儀なくされるケースも多く、労災事故が減収につながることがあります。
労災事故によって収入が減少した場合、これに対する給付として、休業(補償)給付が支給されます。
ただし、休業補償給付の金額は賃金の60パーセントであり、本来受け取れるはずの賃金相当額が満額支給されるわけではありません。
すなわち労災給付では、休業(補償)給付を受給しても賃金の40パーセント相当の損害が発生しているといえるため、この差額分を休業損害として会社に請求することを検討すべきなのです。
入院雑費
入院雑費とは、労災事故によって入院した場合に、入院中に支出した諸費用のことです。
寝具や衣類のような、入院中に要した日用品のための出費が入院雑費に当たります。
入院雑費の金額は、入院1日あたり1,500円となります。
入院雑費についての解説は、こちらの記事もご覧ください。
入院付添費・通院付添費
入院付添費・通院付添費は、入院や通院にご家族などの付き添いが必要な場合に、その費用を損害として請求するものです。
入院付添費は付き添い1日につき6,500円、通院付添費は付き添い1日につき3,300円となります。
労災の後遺障害8級で賠償金を受け取るポイント
労災で後遺障害が残った場合、労災給付の受給だけでは損害の補填として十分ではないことから、労災でカバーできない損害について適切な賠償金を請求することが重要です。
労災に強い弁護士に相談する
労災で適切な額の賠償金を請求していく上では、労災に強い弁護士に相談することが効果的です。
損害賠償請求のような法的問題の処理では、法律の専門家である弁護士の協力を得ることが有効ですが、なかでも労災の事件では、ご本人が怪我や病気を負っているという身体的な負担が伴います。
そのような環境でも適切な賠償を得るためには、労災に強い弁護士のサポートが重要となるのです。
労災問題を弁護士に相談するメリットについては、こちらの記事もご覧ください。
労災の後遺障害8級についてのQ&A
労災の後遺障害8級で一時金はいくらもらえる?
一時金には3種類存在し、給付内容はそれぞれ次のとおりです。
- 障害補償一時金:給付基礎日額の503日分
- 障害特別一時金:算定基礎日額の503日分
- 障害特別支給金(一時金):65万円
まとめ
この記事では、労災で後遺障害8級に認められた場合の給付についての費目や金額、その計算方法などについて解説しました。
記事の要点は、次のとおりです。
- 労災事故の被害に遭った場合、労災の給付から治療費や休業補償といったものが支給されるほか、後遺障害が国の定める等級に該当すると、障害(補償)給付の支給対象となる。
- 労災の後遺障害は、後遺症の重い方から順に、1級から14級までの14段階の等級があり、より重い等級の認定を受けると、給付の内容も手厚くなる。
- 労災給付では慰謝料は支給されないため、会社の安全配慮義務違反を理由として、会社に対して請求するべきである。
- 労災で後遺障害8級と認定された際に請求できる慰謝料には、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料がある。
- 労災の後遺障害で十分な額の補償を受けるためには、労災に強い弁護士に相談することが効果的である。
当事務所では、労災問題を多く取り扱う人身傷害部の弁護士が相談から受任後の事件処理を行っています。
また、電話相談、オンライン相談(LINE、ZOOM、Meetなど)により、全国対応が可能ですので、お気軽にご相談下さい。