労災で後遺障害の13級と認められていると、入通院慰謝料として100万円から200万円程度、後遺障害慰謝料として180万円を請求できる可能性があります。
ただし、入通院慰謝料については、同じ13級の認定であっても、通院期間・入院期間やケガの内容・程度によって金額が異なります。
さらに、後遺障害逸失利益として、就労可能期間に応じた金額を会社に対して請求できる可能性もあります。
後遺障害逸失利益についても、後遺障害の内容や症状固定時の年齢等によって金額が変動する可能性があります。
この記事では、労災で後遺障害13級に認められた場合に給付される費目や金額、計算方法などについて、弁護士が解説します。
目次
労災で後遺障害13級|取得できる損害費目
労災に遭った場合、法律の定めるところにより労災給付を受けることができます。
また、労災で後遺障害が残った場合は、認定された後遺障害の等級に従った給付を受けられます。
このほか、労災による補償とは別に、会社に対して損害賠償をすることも考えられます。
請求できる費目はそれぞれの中でもさらに細分化して考えることができますが、大枠では、労災からの給付と会社からの賠償の2本立てになるといえます。
それぞれの詳細な費目は、次のとおりです。
- 療養(補償)等給付(治療費等)
- 休業(補償)等給付(休業損害の一部)
- 障害(補償)等給付(後遺障害に関する賠償の一部)
- 傷病(補償)等年金
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 後遺障害逸失利益
以下では、これらの損害費目について詳細を解説します。
後遺障害13級の労災保険からの支給
後遺障害13級に認定されるケースでは、労災保険から以下の給付を受けることができます。
療養(補償)等給付
療養(補償)等給付は、労災事故を原因とする怪我や病気の治療費等に対する給付です。
労災で被った怪我や病気の治療費が従業員の個人負担とならないよう、労働災害を原因とする怪我や病気の治療費は、労災による給付対象となっているのです。
具体的には、次のような費用が療養(補償)給付の対象とされています(労働者災害補償保険法13条2項)。
- 病院での診察代、リハビリ、入院、手術などに要する治療費
- 処方された薬代
- 整骨院での施術費用
- 松葉杖や、義足・義手・義眼・義歯、コルセット、ギプス等の器具代
- 療養に伴う看護費
- 一定範囲の通院費
労災が業務災害(業務が原因の災害)の場合は「療養補償給付」、通勤災害(通勤や退勤時の災害)の場合、「療養給付」と呼び、労災の原因によって名称が異なっています。
これらは労災の原因が業務災害か通勤災害かによる区別ですが、特に両者を区別する必要のないときは、双方を指す意味で「療養(補償)給付」のように表記されることが多いです。
なお、療養(補償)給付は治療に対する給付ですので、治療が終了したことが前提となる障害(補償)給付と同時には支給されません。
休業(補償)等給付(休業損害の一部)
休業(補償)等給付とは、労災事故によって仕事を休業した場合に、休業による収入減を補填するための補償のことをいいます。
休業(補償)等給付には、本体部分の「休業(補償)給付」と、これに上乗せして支給される「休業特別支給金」の2種類があります。
支給される金額は給付基礎日額(給与を1日あたりに換算したもの)をベースに計算され、休業(補償)給付は給付基礎日額の60パーセント、休業特別支給金は20パーセントが支給されます。
休業(補償)給付の具体的な計算については、以下の記事をご覧ください。
傷病(補償)等年金
傷病(補償)等年金とは、療養を開始して1年6ヶ月が経過しても怪我等が治らない場合において、その怪我等の程度が国の定める「傷病等級表」にあたる際に支給されるものです。
なお、傷病(補償)等年金が支給される場合には、休業(補償)等給付が支給されなくなる点に注意してください。
休業(補償)給付を受給している場合には、治療開始から1年6ヶ月の時点で傷病等級表に該当するかの判定が行われ、傷病の等級に該当する場合は傷病(補償)等年金に移行し、等級に非該当であれば引き続き休業(補償)等給付を受けることになります。
傷病の等級には第1級から第3級まであり、傷病等級表は下記の参考サイトでご確認ください。
障害(補償)等給付(後遺障害に関する賠償の一部)
障害(補償)等給付とは、労災事故によって後遺障害が残り、その後遺障害が国の定める等級表の基準に該当する場合に支給されるものです。
等級は、症状の重い方から順に1級から14級までの14段階があり、給付は1級から7級までは年金、8級から14級までは一時金の形で支給されます。
一時金は一回きりの支給であり、後遺症がより重い等級である1級から7級までに該当するときは、年金の形で毎年支給になるということです。
後遺障害13級に該当した場合は、労災保険から障害補償一時金が支給されるとともに、社会復帰促進等事業から障害特別一時金及び障害特別支給金が支給されます。
具体的には、次のような一時金が支給されます。
障害補償一時金 | 障害特別一時金 | 障害特別支給金 | |
---|---|---|---|
支給額 | 給付基礎日額(※1)の101日分 | 算定基礎日額(※2)の101日分 | 14万円 |
※1「給付基礎日額」は、労災事故の直近3か月における1日あたりの平均給与額のことをいいます(労働者災害補償保険法8条1項)。
※2「算定基礎日額」は、労災事故により怪我や病気を発症した日の直近1年間において、従業員が会社から受けたボーナスなどの特別給与(臨時に支払われた賃金は除く)の総額を365日で割った金額のことをいいます。
労災の後遺障害の等級や補償金額等の詳細については、こちらをご覧ください。
労災の後遺障害13級の慰謝料はいくら?
労災による給付は、あくまで治療費や休業した場合の補償などが中心であり、慰謝料については支給対象ではありません。
そこで、労災により後遺障害が残った場合は、会社に対して慰謝料の支払いを請求することを検討することになります。
慰謝料として、次のような費目を請求することが考えられます。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
もっとも、後遺障害が認められると無条件に慰謝料が請求できるわけではなく、会社に法的な責任が存在することが慰謝料請求の前提となります。
具体的には、会社は従業員に対して安全配慮義務を負っており、これに違反したと認められれば、上記の慰謝料を請求することができます。
安全配慮義務とは、従業員が会社で働くに当たり、その健康や安全に配慮しなければならないという義務のことをいいます。
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
引用元:労働契約法|電子政府の総合窓口
安全配慮義務についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。
入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、労災事故によって怪我をして、入院や通院を強いられた精神的苦痛に対する慰謝料です。
「入通院慰謝料」という名称からすると、入院や通院に対する慰謝料と考えることもできますが、従業員の精神的苦痛は入院や通院それ自体というより、あくまで原因となった怪我によって生じているといえますので、「傷害慰謝料」と表記されることもあります。
精神的苦痛を賠償金額として公平に計算するため、入通院慰謝料の金額は、入通院の期間や日数、怪我の程度のような客観的な要素に基づいて算定されます。
具体的には、入通院慰謝料の金額としては、以下の表のとおりとなります。
※縦軸が通院期間、横軸が入院期間となります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、労災事故によって従業員に一定の障害が残ってしまった場合に請求できる慰謝料のことをいいます。
後遺障害には程度によって1級から14級までの等級があり、後遺障害慰謝料の金額はその等級に応じて決まっています。
この基準は裁判実務上確立している基準であり、「裁判基準」や「弁護士基準」と呼ばれます。
弁護士基準では、後遺障害13級の後遺障害慰謝料の金額は180万円となります。
労災の後遺障害についての解説は、こちらの記事も参考になさってください。
労災の後遺障害13級の逸失利益はいくら?
逸失利益とは、従業員に後遺障害が残ったことによって、将来の労働能力が低下してしまうことに対する補償のことです。
逸失利益は、労働能力が低下することによって稼ぎが減るという観点から、これを一定のルールで計算して補償するものです。
逸失利益は、次のような計算式で計算することができます。
①1年あたりの基礎収入について
「基礎収入」は、逸失利益を計算する際に用いられる、ベースとなる金額です。
基礎収入は、原則として労災事故が発生した日の前の年の収入となります。
②「労働能力喪失率」について
「労働能力喪失率」は、後遺障害によって、被災した従業員の本来の労働能力がどの程度失われたのかを、パーセンテージで表したものです。
労働能力喪失率は、原則として後遺障害の等級に応じて定められた割合となります。
後遺障害13級の場合は、労働能力喪失率は9パーセントとなります。
③「労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数」について
「労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数」は、症状固定の時点以降の従業員の想定稼働期間(原則として67歳まで)に対応した係数です。
逸失利益を慰謝料として今の時点で一括して受け取れると、67歳になるまでの時間をかけて稼いだ場合と比べて利息の点で有利な条件となります。
そこで、単純に67歳までの年数をかけるのではなく、この点を調整した「ライプニッツ係数」という係数をかけるのです。
例えば、以下のような従業員が労災事故にあったとします。
具体例
- 従業員の年齢:45歳
- 労災事故前年の収入:500万円
- 後遺障害等級:13級
計算式
①1年あたりの基礎収入 × ②労働能力喪失率 × ③労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
ライプニッツ係数について詳しくはこちらをご覧ください
計算方法
- ① 基礎収入:500万円
- ② 労働能力喪失率:9パーセント
- ③ 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数:労働能力喪失期間が22年間(67歳 − 45歳)であるため、「労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数」は15.9369
逸失利益 = ①500万円 × 0.09(9%)× 15.9369 = 11,155,830円
※労働能力の喪失期間は、障害の内容によって短くなる場合があります。
労災の後遺障害13級でもらえるその他の賠償金
労災事故では、労災からの給付に加え、上記のように会社に対して賠償金を請求することが考えられますが、それ以外にも次のような賠償金を受け取ることができる可能性があります。
- 休業損害の一部
- 入院雑費
- 入院付添費・通院付添費
休業損害の一部
労災保険では、労災によって休業を余儀なくされた場合、休業(補償)給付が支給されます。
ただし、休業補償は賃金の約60%の補償にとどまります。
そのため、会社に安全配慮義務違反がある場合には、差額の40パーセント分を休業損害として会社に請求することができます。
なお、給与の約20%が休業特別支給金として支給されますが、これは特別に国から支給されるお金なので、損害の補填分としてはカウントされず、受領分として差し引かれることはありません(損益相殺の対象にはなりません)。
入院雑費
入院雑費とは、労災事故のために入院した場合に、入院中に支出した費用のことをいいます。
入院中に使用する衣類や寝具、その他の日用品などのために要した費用がこれに当たります。
入院雑費は、入院1日あたり1,500円を請求することができます。
入院雑費についての詳細は、以下の記事もご参照ください。
入院付添費・通院付添費
入院付添費・通院付添費とは、入院や通院の際にご家族(近親者)の付き添いが必要な場合に、その費用を被災者自身の損害として請求できるものです。
入院付添費は付き添い1日あたり6,500円、通院付添費は、付き添い1日あたり3,300円となります。
労災の後遺障害13級で賠償金を受け取るポイント
労災では、労災給付を受給することはもちろん必要ですが、それだけでは損害の補填としては必ずしも十分ではありません。
そのため、労災で支給されない損害については、適切な賠償金を請求することが重要となります。
労災に強い弁護士に相談する
労災で適切な賠償金を受け取るためには、労災に強い弁護士に相談することが重要です。
一般的な損害賠償の請求においても、法律の専門家である弁護士に依頼することは大切なことではありますが、特に労災の場合は、怪我や病気の治療を進めなければならないという負担もあります。
そのような負担のある中で適切な賠償を受けるためには、労災問題に強い弁護士による、強力なサポートが有効となってくるのです。
労災問題を弁護士に相談するメリットについては、こちらをご覧ください。
労災の後遺障害13級についてのQ&A
労災の後遺障害13級で一時金はいくらもらえる?
- 障害補償一時金:給付基礎日額の101日分
- 障害特別一時金:算定基礎日額の101日分
- 障害特別支給金(一時金):14万円
まとめ
この記事では、労災で後遺障害13級に認められた場合に給付される費目や金額、計算方法などについて解説しました。
記事の要点は、次のとおりです。
-
- 労災事故の被災者は、労災給付として治療費や休業補償が受けられるほか、後遺障害の認定を受けると、障害(補償)給付の対象となる。
- 後遺障害には1級から14級までの等級があり、等級によって給付の内容が変わってくる。
- 労災の給付には慰謝料は含まれておらず、安全配慮義務違反を理由に会社に対して請求することが考えられる。
- 労災で後遺障害13級と認定された場合の慰謝料には、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料がある。
- 労災の後遺障害で適切な補償を受けるためには、労災に強い弁護士に相談することが重要である。
当事務所では、労災問題を多く取り扱う人身傷害部の弁護士が相談から受任後の事件処理を行っています。
また、電話相談、オンライン相談(LINE、Zoom、Meetなど)により、全国対応が可能ですので、お気軽にご相談下さい。