休業補償とは?支給条件や給付額をわかりやすく解説

休業補償とは?

休業補償とは、労働者が業務上の事由による負傷や疾病により働くことができず、賃金を得られない場合に労災保険から支給される給付のことです。

業務災害のために休業する場合、療養に専念するためにも、経済的に十分な補償を受けることは重要です。

そのため、労災によって休業する場合は、休業補償の支給条件や申請手続きについて正しく知っておくことが欠かせません。

そこでこの記事では、休業補償について、その意味や支給の条件、金額や期間、申請方法やポイントなどについて、弁護士がわかりやすく解説します。

休業補償を受給することは職場への復帰を目指す上でとても重要ですので、休業補償についてお困りの方は、ぜひ最後までお読みください。

休業補償とは?

休業補償とは、労働者が業務上の事由による負傷や疾病により働くことができず、賃金を得られない場合に労災保険から支給される給付のことです。

労働には、どのような職種であれ多かれ少なかれ何らかの危険が伴います。

その意味では、すべての労働者が、潜在的に労働災害の危険と隣り合わせの状態で働いているといっても、過言ではありません。

このため、労働者が安心して働ける環境を整え、仮に労働災害によって休業が必要な状態となったとしても、経済的な不安を抱えることなく療養に専念できるよう、休業補償が法的な制度として整備されているのです。

休業補償は、本来的には会社によって行われるものですが、実際には労働者災害補償保険法に基づいて、労災給付の一種として給付されます。

休業補償と労災保険の関係

休業補償と労災保険の関係を簡略化すると、本来は会社が負担すべきものであるが、労災保険として公的な制度が設けられているということができます。

休業補償は法律上、次のように定められています。

  • 従業員が業務上負傷し又は疾病にかかった場合、必要な療養を行い、そのために従業員が労働できず賃金を受け取ることができないときは、会社は「休業補償」を行わなければならない(労働基準法76条1項)。
  • ただし、労災から休業補償給付が支給されるときは、会社はその賠償責任を免れる(労働基準法84条1項)。

参考:労働基準法|電子政府の総合窓口

従業員が業務上負傷した場合、本来的には、従業員を雇用する会社が使用者として休業補償を実施すべきなのですが、会社まかせにしておくと、従業員が十分な補償を受けられないケースが出てくるおそれがあります。

そこで、労災保険という公的な給付制度の一種として、休業補償の給付が設けられているのです。

実際には、従業員をひとりでも雇用している事業は労災に加入する義務があるため(労働者災害補償保険法3条1項)、多くの場合は会社ではなく労災から休業補償の給付を受けることになります。

参考:労働者災害補償保険法|電子政府の総合窓口

この記事においても、原則として労災による休業補償制度を解説の対象としています。

休業補償と休業手当との違い

休業補償と休業手当との違い

休業補償と休業手当は、似ているようで異なる制度です。

休業補償は上述のように、本来は会社によって補償されるものではありますが、実態としては、労災保険から支給される給付です。

一方、休業手当は、使用者の都合により労働者を休業させた場合に、使用者が支払う賃金の一部のことを指します。

休業手当は「手当」ですので、営業手当や管理職手当などと同じく、賃金の一種と位置づけられます。

休業手当については労働基準法26条に規定されており、使用者の責任で支払われるものです。

根拠条文
(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

引用元:労働基準法|電子政府の総合窓口

休業補償が労災保険からの給付であるのに対し、休業手当は会社からの支払いという点が大きな違いです。

また、休業補償は業務上の負傷による休業に対して支給されますが、休業手当は上記のとおり「使用者の責に帰すべき事由による休業」、すなわち会社都合による休業に対して支払われます。

休業手当では、休業補償のように従業員が負傷している必要はなく、たとえば会社の不手際によって工場の操業を止めざるを得ないような場合でも、条件を満たせば支給されます。

休業補償 休業手当
法的位置づけ 労災からの給付(労働者災害補償保険法14条1項) 賃金(労働基準法26条)
支給条件 業務災害のために賃金を受けずに休業した場合 使用者の責任により休業した場合
金額 給付基礎日額の60パーセント(休業特別支援金として別途給付基礎日額の20パーセント) 平均賃金の60パーセント

休業補償の給付内容や金額の計算については、以下をご覧ください。

 

 

休業補償の支給の条件

休業補償は、業務のために病気や怪我を負ったために、給料が支給されない場合の補償として給付されるものです。

休業補償の具体的な支給条件は、次のとおりとなっています。

休業補償の支給の条件

業務上の事由による負傷や疾病であること

休業補償は、労災給付として支給されるものですので、休業の原因が仕事中の事故や業務に起因する病気であることが必要です。

会社の業務と関連しない私的な事由による負傷や疾病は、休業補償の対象外となります。

なお、通勤中の事故(通勤災害)の場合は、労災から休業補償給付に類する「休業給付」が受けられます。

労働することができないこと

休業補償を受けるためには、医師の診断により労働不能と認められる状態であることが必要です。

休業補償は「休業」のための補償ですので、当然ながら、休業しない場合には支給されません。

軽度の症状で就労可能な場合は、休業補償の対象とはならないので注意が必要です。

賃金を受けられないこと

休業期間中に賃金を受け取っている場合は、原則として休業補償の対象外となります。

これは、休業補償が「補償」、すなわち受けられなくなった賃金を補うという性質によるためです。

ただし、受け取る賃金が休業前の賃金に満たない場合は、その差額分について休業補償を受けられる可能性があります。

4日以上の休業であること

休業補償が給付されるのは、休業の4日目以降からです(労働者災害補償保険法14条1項)。

参考:労働者災害補償保険法|電子政府の総合窓口

休業期間が3日以内の場合は、使用者が労働基準法に基づく休業補償を行います。
 
 

休業補償の補償期間

休業補償には、補償期間があります。

補償期間は開始日から終了日までであり、次のように考えます。

補償開始日

上記のとおり、休業を開始して最初の3日間は待機期間となるため、4日目が補償の開始日となります。

補償終了日

休業補償は原則として、負傷や疾病のため働くことができない期間まで継続されます。

治療をしている期間、継続して働くことができないということであれば、その病気やけがが「治ゆ」(症状固定)するまで補償が継続します。

一般に「治ゆ」といえば、病気や怪我が完治することをいいますが、労災における「治ゆ」とは「症状固定」の状態を含むとされています。

症状固定とは、症状が残っているものの、それ以上治療を続けても症状の改善が期待できず、症状が安定した状態を指します。

このような状態の場合、病気や怪我は治ったとはいえないものの、それ以上治療を続ける意義に乏しいことから、休業補償は終了するのです。

なお、休業開始から1年6ヶ月経過しても怪我が治ゆしない場合は、傷病補償年金に移行することがあります。

労災の症状固定についての詳細は、以下をご覧ください。


 
 

休業補償はいくら支給される?

休業補償の支給額

休業補償は、従業員の1日の給料に相当する額として計算した「給付基礎日額」をベースに計算され支給されます。

具体的には、労災保険からその給付基礎日額の60%が支給され、さらに休業特別支給金として20%が支給されます。

つまり、合計すると、給付基礎日額の80%に相当する額が支給されるということです。

 

休業補償の計算方法

休業補償は、次のように計算します。

  • 休業補償:給付基礎日額 × 60% ×(休業日数 − 3日)
  • 休業特別支給金:給付基礎日額 × 20% ×(休業日数 − 3日)

給付基礎日額は、その従業員の直近3か月間の総賃金を、その期間の暦日数で割って計算します(労働基準法12条)。

具体例
月給:30万円 〜 50万円
休業期間:7月1日〜30日間給付基礎日額 = 90万円 ÷ 91日(直近3ヶ月の給料 ÷ 4月から6月の歴日数)= 9,890円

  • 休業補償 = 9,890円 × 60% × 27日=160,218円
  • 休業特別支給金 = 9,890円 × 20%× 27日 = 53,406円

 

スマホで簡単!休業補償給付の自動計算機

休業補償の支給金額は以上のようにして計算できますが、計算方法がやや複雑です。

そこで、休業補償給付の支給額を計算したいときは、「休業補償自動計算ツール」の利用をおすすめします。

このツールを使用することにより、休業補償のおおよその支給額を素早く把握することができます。

計算結果はあくまで概算であり、実際の支給額とは異なる可能性がある点に注意は必要ですが、目安を知るためのツールとしては非常に使い勝手がよいといえます。

休業補償の自動計算ツールは、以下をご覧ください。


 
 

休業補償を受け取るための手続き

休業補償を受け取るためには、所定の手続きを行う必要があります。

以下に、その手続きの流れと必要書類について説明します。

休業補償の手続きの流れ

休業補償を受けるための手続きは、下記のような流れとなっています。

休業補償の手続きの流れ

①申請に必要な書類の準備と作成

休業補償給付を受けるためには、所定の書式を用いて申請する必要があります。

書式の詳細は後にご説明しますが、休業補償を申請する場合は、「様式第8号」という様式を使用する必要があります。

また、労働することができないことの証明として、医師による診断を記載してもらう必要があります。

 

②労働基準監督署に申請書類の提出

必要な書類がそろったら、事業所を管轄する労働基準監督署に、休業補償の給付を申請します。

 

③労働基準監督署の審査

休業補償の申請を受理すると、労働基準監督署による審査が開始されます。

審査は通常、申請を受けてから1ヶ月程度で完了するとされますが、精神疾患のように、業務との関連性がはっきりしないものについては、審査に時間を要することもあります。

また、初回の申請と2回目以降の申請では処理期間も変わってきます。

初回はどうしても時間がかかりますので、早めに書類の準備を進めるようにすべきでしょう。

④休業補償の支給

審査の結果、労災と認定され、休業補償の条件も満たしていると判断されれば、休業補償給付が受けられます。

労働基準監督署から支給決定通知が郵送されるとともに、補償金が支給されます。

 

休業補償の必要書類

上記の手続きの流れでご説明したとおり、休業補償を申請するには必要な書類があります。

休業補償を請求する際に必要となる主な書類は以下の通りです。

休業補償給付支給請求書(様式第8号)

休業補償を請求するための申請書です。

これは「休業補償給付支給請求書(様式第8号)」という決められた書式を使用する必要があります。

様式は厚生労働省ホームページから入手することができます。

参考:主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)|厚生労働省ホームページ

 

医師の診断

休業補償は、労災のために休業を余儀なくされる場合の給付です。

そのため、就労が不可能な状況であることについて、医師の診断が必要となります。

様式8号の下の方に医師に記載してもらうことになります。

休業証明書

休業補償の支給条件でご紹介したとおり、休業補償は単に労災の療養のために休業しているだけでなく、その間に賃金を受けていないことが条件となります。

このため、休業期間や支払賃金額などを証明するための書類を会社が作成します。

労災の必要書類の書き方や手続きの流れについては、以下をご覧ください。


 
 

休業補償の2つのポイント

療養に専念するためにも休業補償を受けることは重要

休業補償を適切に受給することは、療養に専念するために重要となってきます。

労災による負傷からの回復を目指しながら、給料の支払いが途絶えるという経済的な不安まで抱えるとなると、重い負担を二重に背負うこととなります。

そのため、労災で休業にまで至るようなケースでは、適切に休業補償を受け、治療に専念できる環境を整えることがポイントとなってくるのです。

労災において適切な休業補償を受けることは非常に重要ですが、計算や手続き面など、複雑な点もありますので、この記事なども参考にしつつ、必要に応じ専門家の助言を受けるとよいでしょう。

労災に強い弁護士に相談する

休業補償の申請や受給に関して疑問が生じた場合、労災に詳しい弁護士に相談することも有効な選択肢です。

休業補償をスムーズに受けられればよいのですが、労災では、会社や労基署との間で問題が生じることもあります。

たとえば、休業補償の申請に際して会社側の協力が得られない場合や、会社側と見解の相違がある場合に、弁護士に交渉を依頼することができます。

また、労災事故の原因が使用者の安全配慮義務違反にある場合など、休業補償とは別に損害賠償請求を行うことを検討すべきケースもあります。

このような請求を検討する際には、弁護士の専門的なアドバイスが不可欠です。

また、会社に対してだけでなく、労基署との関係でも、弁護士に相談することは有効です。

精神疾患のように、疾病と業務との因果関係がはっきりしない場合など、労災認定で思ったような結論が得られない、具体的には、休業補償の申請が却下されることもあります。

休業期間が短ければ、それもひとつの結果として受け止めるという選択もありますが、休業が長期間にわたる場合など、補償が受けられないと死活問題ということもあり得ます。

そのような場合、却下の取り消しを求めて、法的な手段を講じる必要があります。

このような場合にも、労災問題に強い弁護士による専門性の高いサポートが必要となってきます。

労災問題における弁護士選びの重要性については、以下をご覧ください。


 
 

休業補償についてのQ&A

休業補償は会社負担ですか?

休業補償と労災の関係の項目でご紹介したとおり、休業補償は、本来的には従業員を雇用している会社が使用者として実施すべきものですが、実際には労災から休業補償給付として給付されます。

このため、労災を使用する場合、休業補償は直接的には会社負担ではありませんが、会社は労災保険料という形で間接的に費用負担していると見ることもできます。

交通事故の休業補償とは何ですか?

交通事故の休業補償は、いくつかの意味があるためしっかり区別する必要があります。

まずは、一般的な交通事故を原因として休業する場合、加害者やその加入する保険会社から補償を受けられることがあります。

ただし、これは「休業損害」を賠償するものであり、「休業補償」とは異なります。

次に、交通事故であっても、「休業損害」ではなく、労災の枠組みで「休業補償」を受けられることがあります。

休業補償は労災の一種ですので、交通事故が労働災害となるケースがこれに当たります。

たとえば、交通事故が業務災害となるケース、営業車の運転中や配送業者の配送中の事故などの場合には、業務との関連性があるとして、交通事故によって休業補償が受けられることがあります。

また、通勤中の交通事故の場合は、業務災害ではありませんが通勤災害に当たり、「休業補償」と同等の「休業給付」が労災から給付されます。

ただし、保険会社から支給される休業損害と労災の休業補償については、両方を受け取ることができません(特別給付の20%を除く)

どちらか一方という点は注意が必要です。
 
 

まとめ

この記事では休業補償について、その意味や支給の条件、金額や期間、申請方法やポイントなどについて解説しました。

記事の要点は、次のとおりです。

  • 休業補償とは、労働者が業務上の事由による負傷や疾病により働くことができず、賃金を得られない場合に労災保険から支給される給付のことである。
  • 休業補償は、本来的には従業員を雇用している会社が使用者として実施すべきものであるが、実際には労災から休業補償給付として給付されるケースが一般的である。
  • 休業補償の支給条件は、従業員が会社の業務上怪我や病気となること、療養のために4日以上休業せざるを得ないこと、その間の賃金を受けないことである。
  • 休業補償の金額は、給付基礎日額の60パーセントであり、これとは別に、休業特別支給金として給付基礎日額の20パーセントが支給される。
  • 休業補償の給付を受けるためには、所定の様式に必要書類を添えて、管轄の労働基準監督署に申請する必要がある。
  • 休業補償に関して疑問や悩みがあるときは、労災問題に強い弁護士に相談することがおすすめである。

当事務所では、労災問題を多く取り扱う人身傷害部の弁護士が相談から受任後の事件処理を行っています。

また、電話相談、オンライン相談(LINE、ZOOM、Meetなど)により、全国対応が可能ですので、お気軽にご相談下さい。

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