平成28年6月10日に、関税法違反などで起訴された暴力団幹部の50代の男性について、大阪地裁は5月10日、警察官と弁護人の付き添いを条件に、挙式当日の午後0時半から午後6時までに限り、大阪府内のホテルで行われた娘の結婚式に参列することを認めていたことが一斉に報道されました。
これに対して大阪地検は異議を出しましたが、結果的に大阪府警の警備態勢などが整ったとして地裁の決定を受け入れることとなりました。
いったいなぜこのようなことができたのかというと、「勾留の執行停止」という制度を利用したのです。
①定まった住居を有しない場合
②罪証隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある場合
③逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある場合
に裁判所は勾留できるものと定められています(刑事訴訟法60条1項)。
そして勾留の執行停止の制度は、刑事訴訟法95条に規定されています。
すなわち、
「裁判所は、適当と認めるときは、決定で、勾留されている被告人を親族、保護団体その他の者に委託し、又は被告人の住居を制限して、勾留の執行を停止することができる。」
とされているのです。
この条文からすると、裁判所が「適当と認めるとき」には勾留の執行停止が認められるとされています。
この「適当と認めるとき」について過去の裁判所の決定では「勾留の執行を停止する緊急かつ切実な必要性がある場合」をいうとされていますが、そのような緊急性や必要性と、そもそも勾留されていた上記①から③の事情とを比較して、親族などに委託したり、条件をつけるなどすれば、勾留の執行停止を認めてもよいかという観点から判断されます。
本件のように、娘の結婚式という親族の出席が重要視され、かつ娘にとっては人生に一度しかない(であろう)ものであったため、「緊急かつ切実な必要性」が認められるための一要素となったのではないでしょうか。
他には、お葬式の場合なども考えられます。
もっとも、同じ結婚式の場合でも、被告人の弟の結婚式に参列しようとした被告人について、勾留の執行停止が認められなかったケースもあります(大阪高決昭和60年11月22日判時1185・167)。
このケースでは、被告人が父といさかいを起こして家を出て、その後、定職に就かず、暴力団組員の手伝いをし、生活費を稔出していたもので、住居地もそのころから定まらず、友人宅を転々としてきたものであること、また、被告人はかつて、妻子がいたものの、離婚し、以後単身でぶらぶらしていたところ、逮捕される半月前から女性と同棲するに至っており、一応住居はあるものの、特に資産がある訳でもなく、生活状況は不安定そのものでした。そして同人には余罪が多くあり、これまで犯罪で共謀してきた他人のもとへ逃亡する恐れが高いことが考慮されました。
本件の場合には、あくまで推測ですが、被告人の住居も安定し、共犯関係がないか、あるとしても捜査がほとんど終了しており罪証隠滅のおそれがない、といった事情があったのではないでしょうか。また、警察の警備の体勢が確保できるということも理由の一つかもしれません。
このような報道を聞くと、「本当に大丈夫?」というような疑問を誰もが持たれると思います。
しかし裁判所も、すべて結婚式やお葬式だから勾留の執行停止を認めているというわけではなくて、そのケースごとに詳細に事実を検討したうえで判断しているのですね。
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