相手が離婚調停後に養育費を払わない場合の対処法【弁護士解説】
養育費は、子どもの健やかな成長のために、必要不可欠です。
離婚調停を申し立てた場合、調停調書に養育費についての取り決めが記載されています。
しかし、調停調書に記載されたにもかかわらず、何らかの理由で相手方が養育費を支払わないケースも少なくありません。
調停で取り決めた養育費について相手が支払わない場合は、履行勧告や履行命令を活用するなど適切な方法で対応しましょう。
今回の記事では相手が養育費を払ってくれない場合の具体的な対処法や、支払いをしてもらうためのポイントについて、離婚問題に詳しい弁護士が解説いたします。
養育費の調停の効力
調停は、話し合いによる解決であって、裁判のような命令ではありません。
しかし、調停が成立すると、合意内容は調停調書(調停の合意内容を記載した書類のことです。)によって書面化されます。
また、調停調書の記載は、確定判決と同一の効力があります(家事事件手続法268条)。
したがって、調停の後、相手が養育費を支払わない場合、調停調書をもとに強制執行が可能となります。
このように調停であっても、その効力は裁判における判決と異ならないと言えます。
離婚調停について、失敗しないための10のポイントを解説しています。離婚調停については以下をご覧ください。
もっとも、強制執行は後述するように様々な問題があります。
そこで、履行勧告や履行命令といった方法を検討することになります。
離婚調停で決まった養育費の回収手段
履行勧告をする
履行勧告とは、家庭裁判所が支払い状況を調査し、きちんと支払われていないことが判明した場合、相手方に支払いを指導(勧告)する制度です。
履行勧告は、手続が比較的簡単で、手数料もかかりません。
しかし、この制度は、強制的に支払わせることはできないという欠点があります。
履行命令をする
履行命令とは、家庭裁判所が、一定の期間内に支払いを行うよう相手方に命令する制度です。
履行勧告とは異なり、違反した場合、制裁(10万円以下の過料処分)の対象となります。そのため、履行勧告よりは相手にプレッシャーをかけることができると考えられます。
しかし、この方法も、履行勧告と同じで、強制的に支払わせることはできません。
強制執行をする
履行勧告や履行命令でも、相手が支払いを拒む場合、債務名義(相手が養育費を支払うことが記載された調停調書など)に基づき、給与の差し押さえなどの強制執行をすることも考えられます。
また、給与請求権などの定期金債権(一定の期間ごとに金銭の支払いを請求することができる権利)は、将来支払われる予定の養育費のために差し押さえておくこともできます。
例えば、離婚の調書に、「養育費として、月額10万円を支払う」旨の記載があったとします。相手の月額給与が20万円であったと仮定します。
この場合、相手方の給与を差し押さえることで、養育費を確保することができます。
また、養育費は子どものための重要な債権ですので、法律上、特に保護されています。
すなわち、通常、債権差押は、4分の1の金額まで差押えができませんが、養育費については2分の1の金額まで差押えることができるのです。
上記の例ですと、相手が月額20万円の給与でも、半分の10万円全額、差押えることができます。
さらに、強制執行は、通常の場合、期限が到来していないと、差押えることができません(民事執行法30条)。
しかし、養育費については、相手方が支払わない場合、定期金債権(給与のこと)のうち、期限が到来していないものについても、差押えることが可能です(民事執行法151条の2)。
すなわち、上記の例では、相手方が支払ってくれない場合、一度給与を差押えてしまえば、それ以降、何もしなくても、会社から、毎月10万円が自動的に送金されることとなります。
相手が支払ってくれるか不安でも、支払い者が会社であれば、ほぼ確実に支払ってくれますので、子どもを育てる方は安心することができます。
養育費の履行確保のための各種方法について、詳しくは以下をごらんください。
調停後の養育費未払いの問題点
養育費の調停が成立しているのに、相手方(通常は父親側)が養育費を支払ってくれない場合、理論上(法律上)は給与差押え等の強制執行があります。
しかし、強制執行は、現実的には、以下のような問題があります。
問題点①申立て方法がわからない
給与差し押さえは、管轄の地方裁判所に対して、債権執行の申立てを行わなければなりません。
まず、そもそも管轄の地方裁判所を調べるだけでも、自分で行うのは大変だと思います。
なお、債権執行の場合、管轄は、原則として債務者の住所地を管轄する地方裁判所となります。
また、提出する書類は、執行力のある債務名義の正本、当該債務名義の送達証明書、確定証明書、資格証明書など、多くのものが必要となります。さらに、素人の方は聞いたことがないような難しい名称の書類です。
申立書自体も、専門的な文章を記載する必要があり、素人の方が自力で申立てを行おうとすると、本当に大変です。
債権差押申立書の書式は以下よりダウンロード可能ですので、参考にされてください。
強制執行については弁護士にご依頼される方が多いかと思いますが、その場合、弁護士費用を支払う必要があります。
具体的な弁護士費用については、ご相談される際に、お尋ねになられてください。
裁判所にも、印紙代などの実費を支払う必要がありますが、これは通常、1万円未満で可能と思われます(第三債務者の数などで金額が上る可能性もあります。)。
問題点②相手方が転職している
強制執行の方法がわかったとしても、差し押さえるものがなければ意味がありません。
給与を差押える場合は、相手方の会社がわからなければ、給与への強制執行は不可能です。
結婚していた夫婦ですから、通常、相手方の会社は知っています。
しかし、別居や離婚の後、長期間が経過している場合、相手方が転職するなどして会社が変わっている可能性もあります。
そのような場合、まず、相手方の現在の会社を調査する必要があります。
調査方法としては、
- 相手方に電話して聞く
- 相手方の知人や親族に確認する
- 調査会社に依頼する
などの方法が考えられます。
このうち、①は期待できません。今から強制執行をしようとする相手には教えてくれない可能性が高いからです。
②についても、相手方側の人間なので、高い期待できないでしょう。
調査会社に依頼する場合、判明する可能性はありますが、費用がかかるため、最後の手段とすべきでしょう。
強制執行等の履行確保手続については以下もごらんください。
調停の後に養育費を支払ってもらう5つのポイント
上記の問題点を踏まえて、調停が成立した後に養育費を支払ってもらう5つのポイントについて、解説いたします。
養育費については、そもそも、不払いを防止することが最も重要です。
そこで、まずは、不払い回避のポイントについてご紹介します。
POINT①子供との面会交流を充実させる
調停が成立しているにもかかわらず、養育費を支払わなくなる理由として最も多いのは、子供との面会交流がうまくいっていない場合です。
この場合、相手としては、「子供と会えないのに、お金だけ奪われている」という感覚に陥り、養育費の支払いをストップするのです。
面会交流がうまくいかない原因としては、「親権者が子供と会わせないようにしている場合」と「相手が面会交流を求めてこないから会わせていない場合」があります。
後者については、親権者に悪気はないのですが、相手としては不満に感じているケースがあります。
また、面会交流は、非親権者だけではなく、子供のための制度でもあります。
面会交流を実施していない場合、相手との面会交流を積極的に実施するとよいでしょう。
また、相手が求めてこない場合、こちら側から面会交流を提案することで、実現できる可能性があります。
POINT②相手とのコミュニケーション
離婚した相手とコミュニケーションを取ることに対しては抵抗がある方もいらっしゃいます。
しかし、調停が成立すると、離婚が成立し、当事者間の係争状態は解消されます。
調停成立をきっかけとして、相手とコミュニケーションを取れるようになれば、養育費の不払いを防止できる可能性があります。
コミュニケーションといっても、子供の近況について、LINEなどでメッセージを送ったり、子供の写真を送付したりするものであれば、抵抗感は少ないのではないでしょうか。
POINT③協議を試みる
いきなり強制執行に進むのではなく、まずは相手との協議を試みることをお勧めします。
相手と協議を行えば、なぜ養育費の支払いがストップしたのか、原因がわかるかもしれません。
例えば、「調停が成立した後、相手が体調を崩して休職したため給与が下がってしまった」という原因であれば、復職するまで養育費の支払いを待ってあげて良いでしょう。
POINT④第三者に間に入ってもらう
離婚した相手との協議が困難という方は大勢いらっしゃいます。
特に、相手からDVやモラハラを受けた事案ではその傾向が顕著です。
このような場合、第三者に間に入ってもらうという方法を試してみても良いでしょう。
第三者としては、弁護士などの専門家のほか、家族や共通の知人などが考えられます。
POINT⑤迅速な強制執行
相手と協議しても、誠意を見せてくれない場合や、協議が難しい場合、強制執行を検討せざるを得ません。
養育費は、子供の生活のために必要不可欠なものです。
したがって、強制執行については、迅速に行うべきです。
強制執行については、素人の方では難しいと思われるので、まずは離婚専門の弁護士等のご相談されることをお勧めいたします。
離婚調停については、くわしくは以下もご覧ください。
まとめ
以上、相手が調停の後、養育費を払わない場合について解説しましたが、いかがだったでしょうか?
養育費は子供の将来のための必要不可欠なお金です。
したがって、できるだけ早期に、かつ、複雑化させずに回収できるかがポイントとなります。
早期解決のためには、まずは離婚問題に精通した弁護士にご相談されることをお勧めします。
当事務所には、離婚問題に精通した弁護士で構築される離婚事件チームがあります。
離婚事件チームの弁護士が相談者の方の具体的な状況に応じて、最適な解決方法をご提案させていただきます。
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ご相談の流れについては、以下をご覧ください。
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