再婚したら養育費を免除・減額できますか?【弁護士が解説】
再婚した場合、養育費を免除または減額できる可能性があります。
目次
養育費とは
養育費とは、子どもが社会人として独立自活ができるまでに必要とされる費用です。
養育費の内容としては、子の衣食住の為の費用・健康保持のための医療費・教育費が含まれます。
離婚する際、養育費の取り決めを行うことが通常です。
この場合、義務者(通常は夫側)は、権利者(通常は妻側)に対し、一定期間(通常は成人するまで)、養育費を支払い続ける義務があります。
再婚して養育費をもらい続けることは問題がある?
例えば、元妻が再婚した場合、夫(実父)の養育費の支払い義務は消滅するのでしょうか。
この場合、当然に支払い義務がなくなるわけではありません。
養育費の支払い義務は、「事情変更」といえる場合に初めて影響を受けます。
第八百八十条 扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。
引用元:民法|電子政府の窓口
元妻の再婚の場合は、再婚に加えて、子供を再婚相手と養子縁組をすることで、通常は事情変更に該当します。
この場合は、基本的には養育費の支払い義務は免除されると考えられます。
再婚相手が養子縁組をすることで、子供の扶養義務について、第一次的には再婚相手が負うと考えられるからです。
ただし、実父の収入が高額な場合や、実父が当初から元妻の再婚を想定していたような場合は、上記の場合でも、養育費の減免を認めない可能性もあるので注意してください。
原審は、申立人が高額所得者であったことから、努力すれば支払い可能であるとして、減額を認めなかった(熊本家裁平成26年1月24日)。ところが、抗告審(高裁)は、抗告人(原審申立人の父親)が高額所得者の医師であり、同人や相手方(抗告人の元妻)の再婚、養子縁組や新たな子の出生等の事情がある場合において、事情変更に該当するとして、いわゆる標準算定方式による算定を行った上で養育費の減額を認めた(福岡高裁平成26年 6月30日)。
夫が再婚して子供ができた場合はどうなる?
夫(実父)側が再婚して、その再婚相手の女性との間に、子供ができると被扶養者の数が増加します。
このような場合、当初合意した養育費を支払い続けることが金銭的に難しくなることが多いです。
そのため、このようなケースでも、通常は、民法880条の事情変更に該当すると考えられます。
もっとも、元妻の再婚、養子縁組のケースと異なり、養育費の免除ではなく、減額となる場合が多いです。
この場合は、実父の扶養義務が第1次的なものであることには変更がなく、ただ、被扶養者の数が増加したにすぎないからです。
養育費の免除と減額の違い
養育費の免除が認められれば、支払い義務がゼロとなります。
これに対して、減額とは、例えば1ヶ月間の養育費の金額が20万円の場合に、これを15万円などに減らす場合です。
上述したとおり、基本的には、元妻が再婚して子供を養子縁組した場合は免除、夫(実父)が再婚して子供ができた場合は減額が多い傾向です。
もっとも、元妻が再婚して養子縁組したケースでも、夫(実父)が会社経営者や医師などの高額所得者の場合、減額のみ認める事例もあります(前掲の参考判例)。
再婚相手の収入について
元妻が再婚して養子縁組した場合
このケースでは、基本的には夫(実父)の扶養義務は第2次的なものとなるため、元妻の再婚相手の収入の額にかかわらず、養育費は免除される可能性があります。
もっとも、元妻の再婚相手が病気などのために稼働能力がなく、収入ないなどの事情があれば、夫(実父)が扶養すべきですので、養育費の免除は認められないでしょう。
夫(実父)が再婚して子供ができた場合
具体的な減額の金額については、様々な見解があり、算定方法も異なります。
特に、夫(実父)の再婚相手を被扶養者とすべきか否か、再婚相手の基礎収入を合算すべきか否かが問題となりますが、この点について、事案に即して実質的に判断すべきでしょう。
例えば、前掲の参考判例では、夫の再婚相手について、被扶養者ではないが、子供を扶養していないとみなしています。
養育費と再婚の問題点
養育費を合意した後、再婚する事案においては共通して見られる傾向があります。
ここでは、養育費の合意後の再婚に関して、問題点について解説いたします。
問題点① 事情変更の該当正判断が難しい
養育費の減免については、まず、「事情変更」の要件を満たすか否かの判断が難しいという点が問題です。
例えば、上述のとおり、基本的には、権利者側(養育費をもらう側)が再婚し、子供を再婚相手の養子に入れた場合、免除が可能と考えられます。
もっとも、再婚相手の所得が少ないなどの事情があれば、なお、養育費の支払い義務が認められる可能性もあります。
また、再婚を想定した場合や、夫(実父)が高額所得者の場合、養育費の免除が認められない可能性もあります。
このように、具体的な状況によって結論が異なる可能性があるため、養育費に詳しい専門家に相談されることをお勧めします。
問題点② 養育費を減免する意思表示が必要
養育費の減免が認められる事情の変更があったとしても、養育費を減免するには、その意思表示が必要となる可能性があります。
すなわち、養育費は、いつの時点から減免が認められるかについては争いがあり、過去の審判例には「事情変更の事情が発生したとき」と判断したものもあります(東京家審昭34年4月13日)。
しかし、過去に遡って精算するのは権利者側に酷な場合もあり、事情変更の意思表示があったときとする見解が合理的であると考えられます。
そして、養育費の減免の意思表示としては、「養育費変更の調停申立て」や「内容証明郵便による通知」が考えられます。
もっとも、調停申立ての場合、裁判所を利用するため解決まで長期間を要する可能性があります。
また、内容証明郵便の場合、記載内容に不備があると、減免の効果が認められない可能性があるため、専門家にご相談されることをお勧めいたします。
問題点③ 再婚はわからない場合が多い?
再婚の事実はわからない場合が多くあります。
そのため、本来、減免できる養育費を支払い続けるという事案が散見されます。
もちろん、再婚したことを認識した上で、子供のために、あえて養育費を支払い続けるのであれば、問題はありませんし、実際にそのようなケースもあります。
しかし、再婚を隠して後から発覚したような場合、騙されたような気分となり、義務者(養育費を支払う側)としては面白くないはずです。
問題点④ 当事者間で話し合いにならない
養育費の減免は、一度決めた養育費を変更するため、権利者側(養育費をもらう側)の理解を得にくいという問題があります。
相手が納得してくれない場合、当事者間での話し合いでの解決は難しいため、養育費の変更の調停を申立てる必要があります。
元妻が再婚した場合のポイント
上記の問題点を踏まえて、養育費を合意した後に、元妻が再婚した場合のポイントについて、解説いたします。
POINT①養育費の免除を書面で通知する
上記のとおり、養育費の減免の意思表示は内容証明郵便を活用することが望ましいです。
また、内容証明郵便を出す際、「配達証明」を合わせて申し込むようにされてください。
この配達証明をつけると、いつ、その文書が相手に届いたかを証明する文書を入手することができます。
弁護士は内容証明郵便を活用しますが、素人の方の場合、慣れていないため、内容に不備がないよう注意しなければなりません。
当事務所では、養育費を免除する通知書の雛形をホームページ上に公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。
POINT②再婚を知るポイント
養育費を取り決める際、公正証書を作成したり、調停で成立させることが一般的です。
公正証書や調停条項の中で、「再婚した場合、その事実を通知しなければならない」などの条項を加えておくと、再婚したことを知らなかったという事態を防止できる可能性があります。
再婚時の通知義務は、相手が守らない可能性もあり、万全ではありません。
面会交流を通して子供の状況の変化を感じとってもらうという方法があります。
もちろん、面会交流は、子供の健やかな成長が目的であって、再婚を知るのが目的ではありません。
しかし、継続的にコミュニケーションを取っていれば、およその生活状況は感じることが可能となるでしょう。
POINT③第三者に間に入ってもらう
養育費の減免について、相手の理解が得られない場合、最終的には養育費変更の調停を申し立てることとなります。
しかし、解決まで長期間を要する可能性があるため、可能であれば調停手続は避けたいところです。
そのため、当事者だけでの解決が難しい場合、第三者に間に入ってもらうことも検討して良いでしょう。
第三者には、共通の知人や、弁護士、親兄弟などが考えられます。
まとめ
以上、養育費について、再婚した場合の減免の可否やポイントについて解説しましたが、いかがだったでしょうか?
養育費を取り決めた後に、再婚した場合、「事情変更」に該当すれば、当初の養育費の額を減免できる可能性があります。
しかし、事情変更に該当するか否か、減額の場合の具体的な金額などは、事案に即して判断しなければなりません。
また、減免する場合の意思表示や交渉も一般の方が自分で行っていくこと難しいと予想されます。
そのため、養育費の減免でお困りの方は、離婚を専門とする経験豊富な弁護士への相談をお勧めします。
この記事が、養育費でお困りの方にとって、お役に立てば幸いです。
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