母親が親権を取れない事例とは?弁護士が解説

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  

母親が親権を取れない事例とは?

母親が子どもを虐待している場合など、親権者としてふさわしくない場合は、母親は親権を取れません。

また、母親が父親に対してDVを行っている場合や、その他適切に親権を行使することができない事情がある場合も、母親が親権を取れない可能性があります。

親権は、子どもの利益の観点から決められるため、母親が子どもの利益を害する場合や、母親と父親が親権を共同して行使することが難しく、かつ、父親の方が親権者としてふさわしいと判断される場合は、母親でも親権を取ることはできません。

ここでは、母親が親権を取れない事例について、解説していきます。

なお、親権を定める民法は、離婚後も共同親権を選択することができるという内容等を含む改正案が成立し、改正後の法律は2026年までに施行されます。

そこで、ここでは、共同親権の施行後の場合を前提に解説していきます。

親権はどうやって決まるのか?

親権とは、子どもの世話をしたり、子どもの財産を管理したりするためにその父母に認められる権利や義務のことをいいます。

子どもの父母の婚姻中は原則として父母の双方が親権を持ちます(共同親権)。

父母が離婚する場合は、改正後の法律のもとでは、父母の双方又は一方が親権を持ちます(共同親権又は単独親権)。

離婚する場合に共同親権とするか・単独親権とするか、及び単独親権とする場合に父母のどちらが親権を持つかは、父母の協議によって定めることができます(改正後民法819条1項)。

父母の協議によって定めることができない場合は、裁判所が定めることになります(改正後民法819条2項)。

そして、裁判所は、「子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない」ものとされています。

そして、次の①②のいずれかに該当するときその他の共同親権とすることにより子の利益を害すると認められるときは、必ず単独親権となるとされています(改正後民法819条7項)。

  1. ①父又は母が子の心身に害悪を及ぼす恐れがあると認められるとき
  2. ②父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受ける恐れの有無、父母の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき

①は父又は母が子どもを虐待している事案、②は父母間でのDV(ドメスティック・バイオレンス)があるような事案が想定されます。

引用元:引民法等の一部を改正する法律|法務省

【参考:共同親権施行前の場合】

共同親権施行前の民法では、離婚後は必ず単独親権となるとされています。

父母は離婚する際、必ずどちらを親権者にするか決めなければならず、協議で決められない場合は裁判所が子どもの利益のためにはどちらを親権者にするのが良いかという観点から決めることになります(民法819条1項2項)。

参考元:民法|電子政府の窓口

裁判所が決める場合、父母側の事情としては、監護能力、監護に対する意欲、健康状態、資産・収入、住居・教育環境、子に対する愛情の程度、実家の資産、親族・友人等の援助の可能性などが考慮されます。

子どもの側の事情としては、年齢、性別、兄弟姉妹の関係、心身の発育状況、従来の環境への適用状況、環境変化への対応性、子自身の意向などが考慮されます。

また、裁判所は、監護の継続性(現状尊重)の原則を重視する傾向にあります。

これは、これまでの監護状況に問題がなければ、できるだけそれを継続させた方が子どもの利益になるという考え方です。

この考え方に基づくと、これまで主として子どもの監護を担当してきた側が優先されます。

 

 

母親が親権を取れない3つの事例

共同親権の施行後において、母親が親権を取れない事例(父親が単独で親権を取る事例)としては、主に以下の3つが考えられます。

母親が親権を取れない3    つの事例

 

1 母親が子どもに虐待を行っている場合

母親が子どもに虐待を行っている場合は、「父又は母が子の心身に害悪を及ぼす恐れがあると認められるとき」に該当し、単独親権とすべき事案とされます(改正後民法819条7項1号)。

引用元:民法等の一部を改正する法律案|法務省

虐待(児童虐待)とは、保護者がその監護する子どもに対して加える暴行等のことであり、殴る・蹴る等の身体的なもののみならず、言葉による脅しや無視などの心理的なもの、子どもへの性的行為などの性的なもの、そして食事を与えないなどのネグレクトも含まれます。

虐待をする親は親権者として不適格であるため、虐待を行っている母親は親権を取ることはできず、通常は父親が単独で親権を取ることになります。

 

2 母親が父親にDVを行っている場合

母親が父親にDVを行っている場合で、共同で親権を行うのが困難であると認められ、かつ、父親の方が親権者にふさわしいと判断された場合は、母親は親権を取ることができません。

共同で親権を行うのが困難な場合

まず、母親が父親にDVを行っているケースは、「父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動」を受ける恐れがある場合に該当するでしょう(改正後民法819条7項2号)。

引用元:民法等の一部を改正する法律|法務省

DVには、殴る・蹴る等の身体的なもののみならず、「心身に有害な影響を及ぼす言動」すなわち精神的なもの(モラハラ)や性的なもの、経済的なものも含まれます。

もっとも、法文上は、DVがあれば直ちに単独親権になるとはされておらず、DV等の事情を考慮して「父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき」に単独親権となるとされています(改正後民法819条7項2号)。

引用元:民法等の一部を改正する法律|法務省

父母間にDVがあるケースでは、通常は共同で親権を行うのは困難と思われます。

しかし、DVの内容や程度、被害の状況、父母の関係性に与える影響等は事案により様々で、共同で親権を行うのを困難にするものであるかどうかも事案により異なります。

そのため、あくまでも個別具体的な事情をもとに、共同して親権を行うことが困難かどうかが判断されることになります。

共同して親権を行うことが困難であると認められた場合は、単独親権にすべき事案とされます。

父親の方が親権者にふさわしい(母親は親権者にふさわしくない)とされる場合

単独親権にすべき事案とされたとして、父母のどちらが親権者になるかは、子どもの利益の観点から改めて判断されることになると思われます。

その際、DVの加害者であることと親権者としてふさわしいかどうかは、必ずしも連動するものではないと考えられます。

そのため、母親が父親にDVを行っていたという事実が認められただけで直ちに母親の親権者としての適格性が否定されるとは限りません。

例えば、母親による監護に問題がなく、かつ、これまで主として監護を担当してきたのが母親である場合(父親はほとんど監護に関与してこなかった場合)は、母親の方が親権者にふさわしいと判断される可能性があります。

もっとも、父母間のDVが子どもの生活や精神状態に何らかの影響を与えているケースは多いです。

そのため、DVの事実が親権者の適格性判断においてマイナス方向に働くケースは多いと思われます。

また、DVと同時に子どもに対する虐待も起きている場合や、子どもの面前でDVがされているような場合は、先に挙げた「父又は母が子の心身に害悪を及ぼす恐れがあると認められるとき」にも該当し、母親の親権者としての適格性は否定されるでしょう。

なお、母親が単独親権を獲得するために、わざと父親にDVをして親権の共同行使を困難にしたような場合、母親による「母親を単独親権者とするべき」との主張は、権利の濫用として認められない可能性があると考えられます。

 

3 その他、父母が共同して親権を行うことが困難な場合で、かつ、父親の方が親権者にふさわしい場合

虐待やDVがない場合でも、「父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき」は、単独親権となります(改正後民法819条7項2号)。

引用元:民法等の一部を改正する法律案|法務省

そして、子どもの利益の観点から父親の方が親権者にふさわしいとされる場合は、母親は親権を取ることができません。

具体的にどのような事例がこれに該当するか、施行前の現段階では明確ではありませんが、例えば、母親が病気などで適切に親権を行使することができないような事例は該当する可能性があると考えられます。

【参考:共同親権施行前の場合】

現行の法律のもとでは、母親が親権を取れない事例として、次のようなものがあります。

  1. ①母親よりも父親の方が子どもの世話をしてきた場合
  2. ②母親が子どもを置いて別居した場合
  3. ③子どもが父親と暮らすことを希望している場合
  4. ④母親が虐待や育児放棄などしている場合

離婚後は単独親権となる現行の民法のもとでは、親権者を決める際、監護の継続性が重要視される傾向にあります。

そのため、父親が主として子どもの世話を担当している場合は、父親が親権者として離婚後も引き続き監護をするのが望ましいと判断され、母親が親権を取れない可能性があります。

母親が子どもを父親のもとに置いたまま一人で家を出て別居したような場合も、母親が親権を取れないことがあります。

たとえ従来は母親が主として子どもの世話をしていた場合であっても、母親が別居した後、父親が単独で監護する状態が続くと、その現状が尊重され、父親の方が親権者にふさわしいとされる可能性があります。

また、子ども自身が父親を親権者とすることを希望する場合も、父親が親権者に指定され、母親が親権を取れない可能性があります。

子どもの年齢や発達の程度によりますが、子どもの意思は尊重され、場合によっては重視されます。

その他、母親が親権者として不適格である場合は、母親は親権を取ることはできません。

例えば、母親が子どもを虐待していたり、育児放棄をしているような場合です。

他方、母親が家事をしない、不倫(不貞行為)をした、父親に暴力を振るったなどの事情がある場合、それらの事情によって直ちに親権者として不適格とされるわけではありません。

上記のような事情は夫婦の問題として、親権者としての適格性とは基本的に別問題とされます。

もっとも、上記のような事情により、監護に具体的な悪影響が生じている又はその恐れがある場合は、それによって親権者として不適格とされる可能性はあります。

 

 

母親と親権についてのQ&A

親権は母親が優先されるのはおかしい。なぜですか?

父親よりも母親の方が主として子どもの世話を担当しているケースが多いためです。

これまでは、母親の方が親権を取るケースが圧倒的多数でした。

単独親権制のもとでは、これまで主として子どもの世話をしてきた側が親権者となり、引き続き子どもの世話をするのが望ましいという考え方(監護の継続性の原則)が重視される傾向にありました。

そして、これまで主として子どもの世話をしてきたのは母親であるケースが多いのが実情です。

父親が日中仕事に出かけ、その間の子どもの世話は母親が行っている家庭や、共働きでも父親の方が忙しく子どもと関わる時間が少ないという家庭は多いです。

そのため、母親の方が親権者としてふさわしいと判断されるケースの方が多数でした。

もっとも、共同親権の施行後は、共同親権とする限りは監護の継続性の原則はほとんど問題になりません。

そのため、父親よりも母親の方が主として子どもの世話を担当しているケースであっても、父親が共同親権という形で親権を持つ可能性は大いにあります。

したがって、親権について母親が優先されるという現状は、今後は変わる可能性が高いです。
(もっとも、どちらが子どもを監護するかという点に関しては、引き続き母親が有利になる可能性は高いです。)

なお、乳幼児については母親との結びつきが強いため母親を優先させるべきであるという「母性優先の原則」という考え方があります。

しかし、重要なのは性別ではなく親権者としてふさわしいかどうかです。

父親も積極的に子育てに関わることも多い現在では、母性優先の原則は、現行の離婚後単独親権制のもとでもあまり重視はされておらず、母親であることによって無条件に優先されることはありません。

 

母親が親権で負ける確率は?

10%くらいです。統計によると、離婚する夫婦のおよそ10%は父親が親権を持つとのことです。

したがって、現行の法律のもとで、母親が親権を取れない確率は10%くらいと推察されます。

共同親権の施行後は、父親が子どもを引き取り育てる場合でも、母親も共同親権者として親権を持つことができるようになるため、母親が(共同親権という形でも)親権を取れない確率は下がる可能性があります。

一方、「母親が単独で親権を取れない確率」(父親と共同親権となる確率)は、大幅に上がる可能性があります。

参考元:e-Stat|人口動態調査

 

親権を取れない母親はクズですか?

母親が親権を取れない理由は様々であり、必ずしも母親側に非難されるような事情があるとは限りません。

親権はあくまでも子どもの利益の観点から定められますから、母親に落ち度がなくても母親が親権を取れない事案はあります。

共同親権の施行後は、一方の親に虐待やDVなどがある場合は単独親権になるとされているため、母親が親権を取れない(父親が単独で親権を取る)ケースでは、母親に問題があると思われることもあるかもしれません。

しかし、法文上は、あくまでも共同親権とすると子どもの利益を害すると認められるときは単独親権となるとされているのであって、虐待やDVがある場合に限って単独親権になるとされているのではありません(改正後民法819条7項2号、同項柱書)。

引用元:民法等の一部を改正する法律案|法務省

例えば、母親が病気などのやむを得ない事情で親権を適切に行使することができない場合も、共同で親権を行使することは通常困難ですから、父親による単独親権となる可能性があります。

また、離婚後は単独親権となる現行の民法のもとでは、監護の継続性の原則が重視されるため、父親の方が主として子どもの世話をしている場合は母親が親権を取れないことがあります。

父親の方が主として子どもの世話をしている場合には、父親が専業主夫の場合や、共働きでも母親の方が忙しく、父親が主として育児を担当している場合、あるいは母親が病気などで子どもの監護に当たることができないような場合も含まれます。

このように、母親に何らの落ち度がない場合であっても、子どもの利益の観点からは父親の方が親権者にふさわしいと判断され、母親が親権を取れない場合はあります。

 

 

まとめ

以上、母親が親権を取れない事例について解説しました。

母親が子どもを虐待している場合や、父親に対してDVを行っている場合、その他適切な親権の行使ができない場合は、母親でも親権を取れない可能性があります。

共同親権の施行後においても、親権はあくまでも子どもの利益のためにはどうすればよいかという観点から決められるため、母親側に親権者としてふさわしくない事情や、親権を適切に行使できない事情がある場合は、母親であっても親権を取ることはできません。

もっとも、具体的なケースにおいて、母親が親権を取れない事情があるかどうかの見通しを立てるのは難しいことが多いと思われます。

いま現在は共同親権の施行前であるため、共同親権の導入を見据えて、いまどのように対処したらよいか迷われている方もいらっしゃると思います。

親権の問題にお悩みの方は、離婚問題に強い弁護士に相談されることをおすすめします。

離婚問題に強い弁護士であれば、共同親権の施行後の状況を見据えつつ、具体的な状況に応じた適切な対応方法について助言をしてくれるでしょう。

当事務所には、離婚問題に注力する弁護士のみで構成される離婚事件チームがあり、親権問題にお困りの方を強力にサポートしています。

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