親権と監護権の違いとは?分けるデメリットを弁護士解説
親権とは、身上監護権、法定代理権、財産管理権の3つから成り立ちます。
これに対し、監護権とは、親権の中の身上監護権のことをいいます。
親権と監護権は分けることが可能ですが、戸籍上は非監護親が親権者として記録され、監護権の分属については記録されません。
また、再婚相手がいるときに問題が生じる可能性があるため注意が必要です。
ここでは、親権と監護権の意味、監護権を分ける方法やメリット・デメリットを解説しています。
ぜひ参考になさってください。
目次
親権とは
親権とは、未成年者を監護、教育し、その財産を管理するため、その父母に与えられた身分上および財産上の権利及び義務をいいます。
親権の具体的な内容としては、次の3つがあります。
監護権とは
監護権とは、上記の親権の中の身上監護権のことをいいます。
親権から身上監護権を分けた場合、通常、監護権と呼ばれます。
監護権を取得すると、子どもと一緒に生活をして日常的に世話や教育を行うことが可能です(民法820条・監護教育権)。
民法第820条 親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
監護権について、民法は上記の監護教育権のほかに、次の権利を規定しています。
親権と養育権の関係
養育権とは、監護権と同じ意味です。
すなわち、一緒に生活できる権利ということになります。
財産管理権及び法定代理権
親権を持つ親は、子どもの財産の管理と法律行為の代理を認めています(民法824条)。
例えば、子どもの預貯金などが挙げられます。
通常の場合、子どもが多額の財産を有することはありませんが、祖父母から贈与を受けた、相続を受けた、などの場合は財産管理が重要となってきます。
民法第824条 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。
子どもの行為を目的とする債務については、子どもの本人の同意が必要となります。
また、子どもが成人に達したときは、親権者は管理の計算を行い、財産管理は子どもに移ります(民法828条)。
身分行為の代理権
例えば、15歳未満の子どもの養子縁組の代諾や、相続の承認や放棄などの代理です。
身分行為の代理については、身上監護権に含まれるという見解と、財産管理権に含まれるという見解があります。
親権から監護権を分属した場合、監護権者は親権者ではないため、法定代理人として子どもの身分行為を代理できないため、財産管理権を持つ親が代理します。
親権と監護権の違い
監護権を親権から分離した場合、親権者(監護権を持たない)と監護権者の権利義務の違いは下表のとおりとなります。
項目 | 親権者 | 監護権者 |
---|---|---|
監護教育権 | × | ○ |
居所指定権 | × | ○ |
懲戒権 | × | ○ |
職業許可権 | × | ○ |
子どもの財産管理権 | ○ | × |
財産に関する法律行為の代理権 | ○ | × |
身分行為の代理権 | ○ | × |
親権と監護権を分ける場合はどんなとき?
離婚する場合、日本では、父母いずれか一方を親権者として定めなければなりません。
通常は、親権者として指定されれば、身上監護権、法定代理権、財産管理権の3つのすべてを持つこととなります。
しかし、ときどき、3つの権利のうち、身上監護権のみを他方に分属させることもあります。
例えば、親権は父が持ち、身上監護権のみを母に与えるという場合です。
当事者同士の話し合いで、このように監護権の分属させることも可能です。
これは、親権について争いとなっている場合に、円満かつ早期に解決させるために、行われています。
子どもが小さい場合、親権者の指定においては、これまでの監護実績が重要なウェイトを占めます。
したがって、通常の場合は女性が有利です。日本では、男性が長時間労働し、女性が育児に時間をかけることが多いからです。
したがって、親権について争いとなっていても、裁判まで行けば、女性を親権者とする判決が出されることが多いです。
しかし、訴訟は、長期間を要します(家庭裁判所の平均審理期間は1年を超えています。)。
さらに、訴訟の前には調停も申し立てなければなりません(調停前置主義)。
したがって、調停から判決までは、数年を要することもあります。
そのため、男性が親権を強行に主張している場合、男性側を納得させる方法として、女性が監護者となるけれど、親権は男性に譲るという提案を行って、和解することがあるのです。
女性にとっても一番大事なのは、子どもを実際に育てることですので、冷静に考えると、実際上のデメリットはそれほどありません。
しかし、離婚という係争状態にある夫婦は、相手に対する嫌悪感を持っている方が多いです。
したがって、親権と監護権の分属に抵抗感があり、長期間を要したとしても相手に親権を渡したくないという方が多いように感じます。
当事務所は、離婚問題にくわしい弁護士が対応していますので、お気軽にご相談ください。
監護権を分属したときのメリット・デメリット
監護権の分属が問題となる事案では、共通した傾向が見受けられます。
監護権に精通した離婚弁護士がメリットとデメリットについて解説するので参考にされてください。
メリット
監護親のメリット【早期解決が可能】
上述したとおり、親権について争うと、離婚調停や離婚裁判で戦う必要があり、解決まで数年間を要する可能性があります。
離婚して早く再出発したいと考えている方にとって、解決まで長期間を要することは大きな問題となります。
このような場合、相手に親権を譲り、自分が監護権を分属して取得することで、協議や和解による早期解決の可能性があります。
特に、親権について、現在の監護親(子供を育てている親)側が有利な状況であれば、離婚裁判で争うことは、相手にとっても得策ではありません。
このような場合、監護権の分属を提案すると、相手が協議離婚に応じてくれるかもしれません。
もし、相手が監護権の分属を認めてくれれば、早期の解決が可能となります。
非監護親のメリット【子供とつながる安心感】
監護権を分属した場合、非監護親は普段、子供と一緒に生活しません。
また、親権者として法定代理権や財産管理権は有しますが、現実の生活でこれらの権利を実感できる機会は決して多くないでしょう。
しかし、「親権者」という法的な権利を得ていることは、非監護親にとって大きな安心感を生みます。
親権が不確定な間は、「子供を相手に奪われてしまう」という漠然とした不安がありますが、親権を取得することで、このような不安が払拭されるというメリットがあります。
デメリット
戸籍上の問題
監護権を分属すると、戸籍上は非監護親が親権者として記録され、監護権の分属については記録されません。
そのため、離婚後の戸籍謄本(※)を取得すると、親権については、非監護親の名前が親権者欄に記載されているだけで、監護者の名前は記載されていません。
※戸籍謄本は、かつて、役場に手書きの戸籍原本が保存されていましたが、現在ではコンピューター内にデータとして保存されているので、そのデータを出力した書類のことをいいます。全部事項証明書とも呼ばれています。
戸籍謄本は、人の身分関係(出生日、両親の氏名・続柄、婚姻や離婚の有無など)を公に証明するものですが、その書類に監護権が記載されないということは、監護者によっては不安に感じることもあるでしょう。
監護を継続できる?
上記のとおり、戸籍謄本には監護権が記載されていないため、万一、相手が監護権を争ってきた場合に、戸籍謄本を根拠として監護権の分属を証明できないという問題があります。
すなわち、離婚した後、親権者である相手が子供の引き渡しを求めてきた場合、「監護権は自分にある」と主張しても、それを公に証明できないため、相手に子供を奪われてしまう可能性があります。
再婚相手がいるときに問題が顕在化する
離婚した後、再婚して子供を再婚相手の養子にすることがよく見受けられます。
しかし、親権を相手に譲って監護権のみを取得した場合、子供を再婚相手の養子にするときトラブルが発生しがちです。
子供が15歳未満の場合、養子縁組には、法定代理人の承諾が必要となるからです(代諾養子縁組、民法797条1項)。
すなわち、親権を相手が取得している以上、法定代理権は相手にあります。
相手が再婚相手との養子縁組を快諾してくれれば問題はありませんが、承諾に消極的な場合がほとんどです。
相手としては、自分が「親として子供とつながっている」と期待していたのに、それを裏切られたような感覚に陥ります。
そのため、養子縁組に承諾しないという事態が予想されます。
面会交流は保障されていない
親権者となったとしても、当然のように面会交流が行われるわけではありません。
監護者側が子供との面会交流を拒否すると、面会交流の実施が難航することがあります。
監護者が正当な理由なく面会交流を拒否していれば、離婚後も面会交流の調停の申立てが可能です。
しかし、面会交流の調停は一般的に長期間を要する傾向です。
したがって、親権を取得しても、子供と会えない状態が長期間継続する可能性があります。
以上のメリットとデメリットを整理すると下表のとおりとなります。
監護者 | 非監護親(親権者) | |
---|---|---|
メリット | 早期解決が可能となる。 | 子供とつながる安心感がある。 |
デメリット |
|
面会交流ができない可能性がある。 |
監護権を取得するポイント
上記の問題点を踏まえて、監護権を取得するポイントを解説いたします。
監護権を証明できる書面を作成
監護権を分属する場合、口約束は止めるべきです。
監護権を分属しているという事実を証明できるようにしておく必要があります。
そのため、監護権を分属する場合、親権・監護権についての合意書を離婚専門の弁護士に作成してもらうことをお勧めしたします。
公正証書の必要性
監護権を分属する合意書を作成する際、公正証書の方がよいでしょうか?という質問をよく受けます。
公正証書を作成するためには、公証役場に手数料を支払う必要があります。
そのため、離婚問題に精通した弁護士が合意書を作成するのであれば、特に公正証書は必要ないでしょう。
なお、公正証書は、相手が養育費を支払わない場合などの際、別途債務名義(養育費の審判など)を準備しなくても、強制執行が可能となるという点でメリットがあります。
そのため、養育費等、継続的な給付等があるケースでは公正証書を作成することをお勧めしたしますが、監護権についての証明であれば公正証書にする必要はないと考えます。
再婚予定の場合は相手に伝えておく?
親権を協議する際に、すでに再婚を予定している場合、相手に再婚予定であることを伝え、養子縁組のことも相談しておけば、後日のトラブルは防止できるでしょう。
その際、相手が養子縁組に反対する意向であれば、監護権の分属を止めて親権を争うという選択肢も考えられます。
ただし、再婚予定であることを伝えると、相手から、不貞行為の主張がなされる可能性があります。
離婚裁判において、不貞を行った配偶者からの離婚請求は認められない可能性があるので注意が必要です。
面会交流の合意を作成する
上記のとおり、親権を取得したとしても、相手が監護権を持っている場合、当然に面会交流ができるわけではありません。
そのため、親権を取得する側としては、面会交流についての取り決めも行っておくべきです。
すなわち、面会交流について、頻度、時間、方法等について、事前に話し合っておき、その結果について合意書を締結すると良いでしょう。
親権と監護権についてのQ&A
親権と監護権はどちらが強いですか?
親権とは、身上監護権、法定代理権、財産管理権の3つから成りますが、監護権は、身上監護権だけです。
したがって、親権の方が権利としては強力ということになります。
親権と監護権は何歳まで?
まとめ
親権と監護権が問題となるケースでは、上記のような問題点があるため、解決するためには専門的知識やノウハウが必要となります。
問題点やポイントについて、一通り解説しましたが、具体的な状況に応じてとるべき戦略は異なります。
そのため、離婚専門の弁護士に具体的な状況を伝えて、適確なアドバイスを受けるようにされてください。
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