養子縁組を理由に養育費を減額できる?【判例で解説】

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者・3級ファイナンシャルプランナー

養子縁組を理由に養育費の減額ができるかについては、①事情の変更があること、②養育費変更の必要性、③養育費変更の相当性があるかの3つの要件を満たす場合に認められます。

判例から、養子縁組は①事情の変更と認められる傾向にありますが、養育費の合意後の養子縁組までの期間や、養育費を支払う本人の努力によるところの判断により、3つすべての要件を満たさず、減額が認められない可能性もあります。

審判例を踏まえながら、弁護士が解説します。

養育費の変更要件

民法766条第3項は、すでに合意した内容や裁判所による審判の内容を変更できる場合として、「必要があると認めるとき」と規定しています。

引用元:民法|e-Gov法令検索

そのため、「必要があると認めるとき」とは具体的にどのような場合であるかが問題となります。

これは以下の3つの視点でみるとわかりやすいです。

  1. ① 事情の変更があること
  2. ② 養育費変更の必要性
  3. ③ 養育費変更の相当性

まず、合意、もしくは審判の内容を維持することができない状況が生じている必要があるため、①事情の変更があること、が1つ目の要件となります。

次に、例えば親権者となった母が再婚し、新たな男性が子の扶養を開始した場合のように、実の父が養育費を支払う必要性が低下することがありえます。

したがって、②養育費支払義務を変更する必要性があること、が2つ目の要件となります。

なお、養子縁組と養育費との関係については、以下をご覧ください。

最後に、故意に収入を減少させたり多数の養子縁組を行ったりすることで、養育費の支払義務を不当に免れることがあっては、信義則に反します。

したがって、③養育費支払義務を変更することが相当であること、が3つ目の要件となります。

 

 

養子縁組を理由に養育費の減額を請求した判例

この問題について判断した例として、熊本家裁平成26年1月24日決定が参考になります。

これは、上記の相談者と同様、養育費を月額40万円支払うと合意した後、自身の再婚、養子縁組をきっかけに、養育費の減額を申し立てた男性の審判例です。

当該審判例では、養育費の減額事由たる再婚や養子縁組があったことを①事情の変更があったものと認定しています。

しかし、いったん調停で合意をして養育費を定めた者が、努力をしさえすれば1人当たり月額20万円を支払うことは可能であるとして、この努力をせずして減額を認めることは相当ではないとして、養育費の減額を認めませんでした。

この事例では、養育費を払っていた者が再婚や養子縁組をしたとしても、元妻の子が養育費を必要とする状況が変わったわけではありません。

したがって、②養育費が変更(減額)される必要性が認められないと判断されたと考えられます。

また、減額を申し立てた元夫が努力すれば、従前の合意内容を履行することも可能であるとして、努力をしないことは③養育費変更の相当性の要件も満たさないと判断されたと考えられます。

 

当該審判のその後

なお、上記の争いは高等裁判所に持ち越され、そこでは、減額が認められました(福岡高裁平成26年6月30日決定、判時2250号25頁)。

高裁では、元夫(義務者)が再婚したのが、養育費に関する合意(調停)をした後2年数ヶ月経過していたことから、再婚や子との養子縁組は、調停のときには想定されなかった事情であることであり、元夫の生活状況が大きく変更しているとして、このような結論になったようです。

前述の3要件に照らすと、③について相当性があるという判断であったと思われますが、原審の判断にも一定の合理性があると思われるため、とても微妙な判断であったと想定されます。

 

 

養育費合意後の再婚までの期間が減額に影響する?

上記高裁の判断は、前述の3要件のうち、特に③の養育費変更の相当性に関わるところですが、合意(調停など)の後、再婚・養子縁組までの期間についても、実務上は考慮に入れられて判断されることを示しています。

この点について、一概にどのくらいの期間があれば、養育費を決めたとき(合意時)には予想できなかった(変更の相当性あり)と判断されるかの決まりはありません。

ただ、少なくとも上記のように、再婚までに2年以上を経過したような案件では、重要な考慮要素として減額の有無に影響があるようです

 

 

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