公正証書には養育費を減額させない効果がある?

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

公正証書を作成していたとしても、支払義務者が会社を解雇された・病気になった・子供ができた、などの場合に養育費の減額が認められる場合があります。

しかし、それでも養育費を受け取る方であれば、公正証書の作成をお勧めいたします。

養育費の権利者(通常母親側)としては、公正証書後に減額させたくないと考えていらっしゃるでしょう。

ここでは、公正証書作成後の養育費の減額が認められるケースや問題点について、離婚問題に注力する弁護士が解説していきます。

公正証書を作成される方はぜひ参考になさってください。

公正証書には養育費を減額させない効果がある?

公正証書の中で、養育費について明記していたとしても、その後、予想していなかったような状況の変化(これを裁判所は「事情の変更」といいます。)があれば、養育費の減額が認められる傾向です(東京家裁平成18年6月29日等)。

 

事情の変更とは?

事情の変更というのは、合意の際から現時点にかけて、判断の前提となる事情が変更されたという場合です。

つまり、あの時とは状況が変わったというイメージです。

そして、養育費の場合において、事情変更があったとして修正すべきではないかを判断する際には、次の諸事情を総合的に考慮することになります。

  • 客観的事情に変更があったこと(例:年収が変わったこと)
  • その変更を、予想できなかったこと
  • その事情変更が、当事者の責任により生じたわけではないこと
  • 元々の合意どおりの内容を維持することが、公平に反すること

具体的には、次のようなケースが考えられます。

 

支払義務者が再婚して、再婚相手との間に子供ができた

この場合、支払義務者の扶養家族が増えることになるため、子供一人あたりに支払われる養育費を減額することとなります。

 

支払義務者が会社を解雇された

この場合、支払義務者の収入が無くなります。

 

仮に再就職して以前の会社と同じかそれ以上の収入であれば問題ありません。

しかし、再就職後の収入が大幅に減少した場合、養育費の減額が認められる傾向です。

 

支払義務者が重病となった

支払義務者が重い病気を患い、休職した場合、収入が減少します。

そのため、養育費の減額が認められる傾向です。

上記は典型的なケースであり、これ以外にも事情の変更が認められる可能性があります。

どのような場合に養育費の減額が認められるかは、専門的な判断が必要となります。

ご不安な方は離婚問題に強い弁護士に相談なさることをおすすめいたします。

 

公正証書は作成すべき?

上で解説したように、公正証書があれば、養育費の減額が完全に防げるというわけではありません。

しかし、筆者としては、それでも公正証書を作成するメリットはあると考えています。

公正証書を作成しておくことで、支払義務者に心理的なプレッシャーを与える効果があり、それによって養育費の不払いを事実上防ぐことが期待できるからです。

すなわち、公正証書を作成し、支払義務者が養育費を支払わない場合、権利者は支払義務者の給与を差し押さえるなどの強制執行を行うことができます。

このことは支払義務者も理解していると思われます。

支払義務者は「もし養育費を払わないと、強制執行されるかもしれない」というプレッシャーを感じます。

これにより、養育費の不払いを事実上防止できることが期待できます。

公正証書を作成すべきメリットについて、くわしくは以下を御覧ください。

平成18年決定について

この決定における元夫は、算定表の2倍近い養育費の支払に合意して、離婚をしていました。

一方、元夫は、離婚の際に蓄えもなかったので、引越費用が貯まるまでは同居を続けてよいとされていました。

しかし、離婚後の同居生活は思いのほか辛く、耐えられなくなった結果、別居後の生活費がどれだけになるか十分に認識できないまま別居を開始してしまいました。

その結果、両親の援助を受けながらでなければ養育費を支払うことができなくなりました。それだけでなく、実はその両親も他人から借金をして援助をしており、その負債を元夫が負担しなければならなくなってしまいました。

家庭裁判所は、①そもそもの合意内容に無理があったこと、②公正証書作成時、離婚後も当分は同居生活を継続できると考えていたこと、③両親からの援助が他人からの借金であったことを踏まえ、養育費の減額を認めました。

本決定は、公正証書作成当時からの事情の変更を認めたうえで相場の倍以上の養育費を支払い続けると、双方の生活を公平に維持していくことができないと考え、養育費変更の必要性、相当性を認めたものといえます。

このように、公正証書を作成したうえで合意していたとしても、その当時想定していた支払予定が大きく変わってしまったり、思わぬ事実の発覚によって自分の生活すら危ぶまれる状況となったりすれば、養育費の減額が認められる可能性がでてくることになります。

相談者のケースの場合

相談者のケースでも、合意当時、相場より高い養育費を支払える可能性があったのか、なぜ払えなくなったのか詳細に検討する必要があります。

また、安易に合意してしまったようなケースであったとしても、現実に支払えない状況であれば、相手と再協議の機会を設けたり、養育費減額の申立てをしたりすることで、自身の生活の立て直しを図る必要があるといえるでしょう。

 

公正証書締結後の養育費減額の問題点

公正証書の中で、養育費の取り決めをした後の養育費の減額では、次のような問題があります。

 

支払わずに放置すると大変なことになる

養育費には適正額があります。いわゆる算定表と呼ばれるもので、これは双方の収入や子どもの数・年齢をベースに養育費を調べるための早見表です。

養育費の算定表については以下をごらんください。

ところが、養育費については算定表のことを知らずに、それを大幅に上回る額で合意する方が散見されます。

そのような合意も、基本的には有効と考えらます。実現不可能な額など、よほどの場合でない限り、法的には支払い義務があり、支払いが滞ると、負債額が膨らんでいきます

また、公正証書を締結している場合、相手方は、公正証書を根拠(債務名義といいます。)として、義務者の給与債権に対して強制執行を行うことが予想されます。強制執行は義務者の方の会社に送達されますので、会社の方に迷惑をかける事になるかもしれません。養育費については、特に保護されており、強制執行でき額は、給与の2分の1程度です。

強制執行について、くわしくは以下ををごらんください。

そのため、養育費は支払えないからといって放置すると、大変な事態になる可能性があります。

 

事情変更の要件の判断が難しい

養育費は、事情変更の要件を満たせば、減額できます。

問題は、どのような場合に事情変更の要件を満たすと言えるかです。

養育費の減額の状況では、以下の場合が典型です。

養育費減額の典型例
  • 重病にかかって休職を余儀なくされており収入が激減した。
  • 会社を解雇されて再就職が難しく、収入が激減した。
  • 相手方が再婚し、かつ、子どもを再婚相手と養子縁組した。

 

 POINT

個別具体的な状況次第ですので、一概にはいえませんが、養育費の合意を締結してからあまり時間が経っていない本件のようなケースでは、よほどの事情がないと養育費の減額は厳しいかと思われます。

 

交渉が難航することが予想

養育費の減額は、相手方(通常、母親側)から激しく反論されることが多い傾向です。

子どもを育てるために必要な費用が減らされるため、監護親は、将来に対する不安、父親側に対する不信感などから簡単には納得してもらえないと予想されます。

特に、本件のように、合意してから1年しか経っていない場合、相手方の理解を得られるのは難しいと思われます。

当事者同士での協議が難しい場合、家庭裁判所に養育費の減額調停を申立てることも検討した方がよいでしょう

養育費について、くわしくは以下をごらんください。

あわせて読みたい
養育費はいくらになるか

 

 

まとめ

以上、公正証書に養育費を減額させいない効果があるかについて、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか。

公正証書を作成していても、事情の変更が認められれば養育費は減額されてしまいます。

しかし、それでも公正証書を作成しておくメリットが大きいです。

どのような場合に事情の変更が認められるかについては、離婚についての専門的な判断が必要となります。

当事務所では、離婚事件チームに所属する弁護士が養育費の問題について親身になってご相談に応じております。

LINE、Zoom等を活用したオンライン相談も行っているので、遠方の方もお気軽にご相談ください。

 

 

#養育費

養育費シュミレーター

なぜ離婚問題は弁護士に相談すべき?弁護士選びが重要な理由とは?   

続きを読む