認知した子どもの養育費の支払の始期はいつになる?
私には、子どもがいますが、いわゆる「未婚の母」です。
子の父親に対して、認知してもらい養育費を支払ってもらいたいのですが、養育費の支払時期はいつからになるのでしょうか?
養育費の支払の始期には、争いがありますが、出生時に遡って支払い義務を認めた裁判例があります。
一般に、養育費は、権利者(多くは離婚後の母)が、請求の意思を明確にしたときから、支払い義務が生じます。
「請求の意思を明確にしたとき」とは
「請求の意思を明確にしたとき」という基準の具体的な中身ですが、例えば、弁護士からの内容証明を送付して養育費の支払を求めたときや、養育費の調停申立ての時が、典型的な請求の意思が明確になった場合といえます。
この基準にならうのであれば、認知請求(申立て、提訴等)を行ったときまでしか遡ることができないように思えます。
しかし、平成16年5月19日の大阪高裁決定は、原審が養育費の支払を認知申立・提訴時に遡求するとしたのを破棄し、認知の身分効果は出生時に訴求する(民法784条)ので、養育費支払も出生時に遡求すると結論づけました。
なぜ、このような判断になったのでしょうか。
それは、以下の理由があると思われます。
裁判所の判断理由
この事例のようなケースで、母が養育費を請求するには、どうしても認知が先行する必要があります。
認知とは
認知というのは、未婚の母が産んだ子について、父が自分の子と認めることで、法律上の親子関係を認めるという手続のことです。
認知がなされているかどうかは、戸籍謄本の提出で証明することになりますが、認知がないと戸籍にのりませんので、そもそも養育費の請求に関する事件を家裁が受け付けてくれないのです。
通常の養育費の請求事件の場合
この点、通常の養育費の請求事件は、母は父に対して子の養育費の請求権を当然に保有しているのに、申立前は、自らの責任で養育費を請求しなかっただけで、養育費の支払がなくても子の監護はできたものとみなされるため、離婚時には養育費の支払い義務は遡求せず、申立時にしか遡求しないことになります。
そもそも法律には、「権利の上に眠る者は保護しない」という一般法理があります。
養育費の支払い義務が(離婚時ではなく)申立時にしか遡求しないというのはこの一般法理に基づくものともいえるでしょう。
認知後の養育費請求の場合
しかし、認知子の場合、子が非監護親に認知されその身分関係が確定した後に、はじめて、養育費の請求権が発生するために、上記の一般法理が適用されません。
認知子をもつ母親は、認知前は「権利の上に眠」っているわけではないからです。
更に上記案件では、以下の時系列だったという事情がありました。
平成13年12月10日 | 母、未成年者を出産→ その後、母、認知の申し立てを行う |
平成15年3月21日 | 認知に関する家事審判が確定し、未成年者が相手方(父)の子であることが認知される |
平成15年4月2日 | 未成年者の認知に関する戸籍の届出 |
平成15年4月19日 | 母、相手方(父)に対して養育費の分担を求める家事調停の申し立てを行う。 |
上記の時系列を確認いただいても分かるとおり、本件では、母は、未成年者を出産した後に、比較的早い段階で認知の申し立てを行い、かつ認知に関する戸籍の届出のすぐ後に養育費の分担を求めたという事情がありました。
母は、決して権利の上に眠っておらず、できる限り早めに行動に移していたということです。
こういった配慮が働き、前述の大阪高裁は、出生時に遡り養育費の支払い義務を認めたのでしょう。
しかし、この点は、原審が異なる判断をしているとおり、裁判所の判断も分かれているところです。
裁判所の判断からの教訓
上記裁判所の判断から、未婚の母は、できる限り早く養育費の請求、(父が認知や養育費の支払いを拒否している場合は)できるだけ早く裁判上の手続きをとることが重要であるといえるでしょう
まとめ
母親が監護親が認知を事実上求めた時期、認知を請求できなかった事情、認知を請求しないという約束の有無等を総合的に勘案して判断するのが妥当と思われます。
このように、認知子と養育費の問題には特殊な考慮が必要になりますので、弁護士に相談することをおすすめします。
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