払いすぎた婚姻費用を財産分与で清算できる?

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

私はいま妻と離婚協議中です。

以前、婚姻費用の調停を申し立てられ、その額は毎月10万円と決まりました。

しかし、妻は何かにつけ生活費が足りないと言うので、やむなく貸付名目でお金を渡していました。

しかし、渡していた金額は、婚姻費用以外で毎月11万円にもなっており、実際は婚姻費用の倍以上の金額を渡していたことになります。

私は払いすぎたものを財産分与で清算してほしいのですが、このような主張は認められるでしょうか?

実際に支払った婚姻費用が、算定表に基づいて算定された額を上回ったとしても、直ちに超過分が財産分与の前渡しとして清算対象になるわけではありません。

ただし、裁判所は、当該超過額が公平の観点から著しく不相当な場合は、当該超過分の清算を認めています。

このページでは、払いすぎた婚姻費用は財産分与として精算できるのかについて、弁護士が解説します。

生活費を支払う義務

夫婦には協力扶助義務があり(民法752条)、親は子に対し扶養義務を負います(民法577条1項)

そのため、実際に支払った婚姻費用が、算定表に基づいて算定された額を上回ったとしても、直ちに超過分が財産分与の前渡しとして清算対象になるわけではありません。

もっとも、裁判所は、当該超過額が公平の観点から著しく不相当な場合は、当該超過分の清算を認めています。

過去の裁判例

特有財産と共有財産が混在している場合

①夫婦の一方が婚姻前から有する財産と、②婚姻中自己の名で得た財産は、特有財産(=財産分与の対象にならない)とされています(民法762条1項)。

他方、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定されます(民法762条2項)。

したがって、特有財産と共有財産が混在してしまっている場合、特有財産であると主張する側が特有財産であることを立証しなければなりません。

 

清算が認められた裁判例(東京家裁)

この問題につき、東京家庭裁判所は、超過額を清算対象として認める判断をしました。

その事件では、婚姻費用以外に、住宅費(別居中の妻と子どもの住居)、学費、学資保険、子どものお小遣い、その他妻の求めに応じて支払ったものがあり、これらだけで婚姻費用と同額になっていました。

このような状況下で、学費が月々納入すべきものと定められている金額を超えるものであることを考慮しても、夫の支払いを考慮しないことはやや公平に欠ける、として、超過額の約半額を財産分与の清算対象としました。

 

清算が認められなかった裁判例(大阪高裁)

一方、大阪高裁は逆の判断を示しました。上記東京家裁が判断した夫婦の状況とは異なりますが、超過額は算定表に照らして毎月2~4万円でした。

以上から、裁判所の判断は、超過分が公平の観点から著しく不相当でないと、清算を認めないものといえます。

 

 

相談者の場合

弁護士 本村安宏婚姻費用が決まった場合、支払いを受ける者の生活は基本的にこの婚姻費用額の範囲内で行っていくのが原則です。

そのため、これを超える金額はなるだけ支払わないものとしなければなりませんでした。

もちろん、実生活においては不足するところは多くあると思います。

その際は、貸付であることを明確にしておく(書面化するのが一番ですが、メールで伝えた上で貸付であることを相手が了承する返信をもらっておく。)ことが効果的です。

仮にこれらの準備がなかったとしても、婚姻費用の倍額を支払うことはかなりの超過支払ですので、その分の清算を求めるべきです。

ポイント

必ず押さえておくべきなのは、算定表により算定される婚姻費用額を超過しても直ちに財産分与の清算対象にはなりませんし、支払いをしてしまった場合、超過分の支払いを承諾していると判断される可能性もあります。

婚姻費用を超える金額を求められた場合、それがなぜ必要なのかを確認するとともに、判断が難しい場合は、即断する前に弁護士へ相談すべきです。

 

 

#財産分与

なぜ離婚問題は弁護士に相談すべき?弁護士選びが重要な理由とは?   

続きを読む