別居している子どもを保育園から連れ帰ってもいいですか。
私には、妻と子どもがいますが、現在は別居しています。
以前、他の弁護士さんに相談した際に、「親権を獲得したいのであれば子どもを保育園から連れ帰るしかない」とアドバイスされました。
このような行為に問題はないのでしょうか。
現在の監護親に同意なく連れ帰るべきではありません。
非監護親が子どもを連れ帰った場合、別居している妻(監護親)から法的請求がある場合があります。
離婚が成立後に相手方が親権者となった場合、面会交流を求めていくことになるため、相手方との関係を良好にしておくことが大切です。
考えられる法的請求
非監護親が子どもを連れ帰った場合、別居している妻(監護親)からの法的請求として、以下3つのことが考えられます。
①離婚調停を申し立てて親権者を決める
②子の監護者の指定、引き渡しの審判を申し立てる
③人身保護請求を申し立てる
子どもを連れ去られた妻側の視点に立った場合には、②の方法(「子の監護者の指定、引き渡しの審判を申し立てる」)が良いです。
詳しくは以下ページをご覧ください。
子の引渡しの審判
子の監護に関する処分として、子の引渡しを求めることができます。
もっとも、別居中の夫婦が子の引渡しを求める場合には、子の引渡しの前提として、いずれの監護が子どもの利益となるかを判断して、監護について適格者に子を引き渡すことになります。
保全処分
緊急性を要する場合には、子の引渡し・監護者指定の審判の申立てに加えて、審判前の保全処分も申し立てます。
保全処分は迅速性が求められますが、他方で、適格者としての判断が終局判断と一致することも重要ですので、保全処分といっても、家庭裁判所調査官の調査も行われます。
人身保護請求手続
人身保護請求が認められるためには、次のイからハの要件が必要です。
ロ 拘束が法律上正当な手続によらないで行われていること。
ハ ロの違法性が顕著であること。
ニ 人身保護請求によるほかに方法がないこと。
人身保護請求がなされると、請求日から1週間以内に審問期日が開かれ(人身保護法12条4項)、拘束者が被拘束者を審問場所に出頭させないと、勾引、勾留、過料の規定があり(同法18条等)、被拘束者の釈放の判決に従わない場合には懲役又は罰金の刑罰が課されます(同法26条)。
実務の傾向としては、家庭裁判所で子の引渡しの審判、審判前の保全処分の手続を優先し、その上で、引渡の執行の手段として人身保護請求が例外的に利用されています。
子の引渡しをめぐる紛争では、まず家庭裁判所での手続を踏むことが必要といえます。
しかしながら、その手続を侮辱するような行為によって子を拘束した者に対しては、人身保護請求も認められると考えられています。
親権者の判断基準は?
親権者指定の際に考慮すべき具体的事情としては、父母の側では、監護に対する意欲と能力、健康状態、経済的・精神的家庭環境、居住・教育環境、子に対する愛情の程度、実家の資産、親族・友人等の援助の可能性などであり、子どもの側では、年齢、性別、兄弟姉妹関係、心身の発育状況、子ども本人の意向などがあげられています。
親権者指定の判断基準については、以下のページをご覧ください。
判断基準の一つに「違法な連れ去り」が考慮されることがあります。
違法な連れ去り行為によって有利な地位を獲得することを許すことは違法行為の助長となる上、法律や社会規範を無視するものには監護者としての適格性が疑われるのであるから、これを不問にすることはできないと考えられています。
(もっとも、違法性が低い場合等には、原状回復が子の福祉のためにならないとして、原状回復は認めることができないとした事例はあります。)
したがって、親権者の判断にあっては、連れ帰る行為は非常にリスクのある行為であることがわかります。
面会交流
離婚が成立し、相手方が親権者となった場合、相談者としては面会交流を求めていくことになります。
まずは、面会交流の実施条件等を協議し、これが定まれば協議内容に従って、面会交流を実施していくことになります。
このような一連の協議・実施の上で、実務上重要なことは、相手方である監護親との関係を良好にしておくということです。
面会交流の実施条件を定める際にも、連れ去ったことのある非監護者に対しては、面会交流をすることについて消極的な心理が働くと思います。
場合によっては、面会交流の禁止・制限事由として主張することも考えられます。
そのため、充実した面会交流の交渉が難航する可能性があるといえます。
また、面会交流を実施していく上でも、相手方の協力が不可欠です。
連れ去りを行った相手方との面会交流はやはり消極的になることも想定されます。
面会交流を求めていく法的手段はありますが、法的手続を採ると時間もかかりますので、相手方と良好な関係を築いておくことが大切になります。
したがって、面会交流の観点についても連れ去るという行為はデメリットが多いといえます。
未成年者に対する略取行為について
母の監護下にある子どもを別居中の共同親権者である父が有形力を用いて連れ去った略取行為について、最高裁判所は未成年者略取(刑法224条)の構成要件に該当すると判断しています。
すなわち、刑事罰にも該当しうる行為といえます。
子どもの引き渡しは弁護士へお任せください
本件のような場合には、相談者としては、まず、相手方に対して、子どもを引き渡すように求めていきます。
相手方が、引渡しに応じない場合には、早期に子の監護者の指定、引き渡しの審判を申し立て、合わせて、保全処分を申し立てるべきです。
すなわち、家庭裁判所の手続の中で、子どもの引渡しを求めていくことになります。
以上で説明したとおり、監護している親に無断で子どもを連れ去る行為は、非常にリスクの高い行為ですので、差し控えるべきでしょう。
なお、監護者指定及び子の引き渡しの審判は、専門家のサポートがなしではとても難しいと思います。
くわしくは、離婚問題に精通した弁護士にご相談ください。
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