養育費の取決めに懈怠約款(けたいやっかん)はつけられますか?
懈怠約款(けたいやっかん)とは、相手方から支払ってもらう金銭を、ある期間にわたって分割で受け取る約束をした場合に、この支払いを怠ったときのことを予め定めておく条項のことをいいます。
つまり、懈怠約款は、金銭を支払ってもらう側が、金銭の不払い等のリスクをカバーするために付ける条項になります。
例えば、分割金の支払いを怠った場合は、一括での支払いをすることや、遅延損害金の発生などについての取決めをすることも多いです。
養育費において、事者間で合意できれば懈怠約款を付けることは可能ではありますが、養育費は懈怠約款にはなじまない性質の支払義務であると考えられており、実務的には、懈怠約款を付けることは困難です。
このページでは、懈怠約款を付ける方法や、養育費における懈怠約款などについて、弁護士が解説します。
懈怠約款(けたいやっかん)とは
懈怠約款とは、支払うべき金額をある期間にわたって分割して支払う約束をした場合に、この支払いを怠ったときのことを予め定めておく条項のことをいいます。
例えば、慰謝料300万円の支払いを毎月10万円ずつ分割して支払う約束をした場合に、途中で支払いを止めたり支払いが遅れたりしたときにどうするかを予め定めておいたものが懈怠約款なのです。
つまり、懈怠約款は、金銭を支払ってもらう側が、金銭の不払い等のリスクをカバーするために付ける条項になります。
懈怠約款の条項例
条項例としては、「分割金の支払いを怠り、それが○回○○円に達した場合には、当然に期限の利益を失い、残金を直ちに支払う。」等があります。
また、この後に、「また、期限の利益を喪失した日の翌日から支払済みに至るまで、年○%の遅延損害金を支払う。」といった遅延損害金についての取決めをすることも多いです。
分割払いの示談書の一例として以下の書式集をご覧ください。
懈怠約款を付ける方法
仮に分割払いでの解決をする場合、必ずしも懈怠約款を付けなければならないというわけではありません。
そのため、懈怠約款は、懈怠約款を付けることを希望する者が積極的に懈怠約款を付けることを相手方に要求していく必要があります。
具体的には、相手方から分割払いの提案を受けた際に、分割払いを受け入れる交換条件として懈怠約款を付けることを積極的に主張していくことになります。
なお、このことは、裁判所の手続きを利用した場合でも同様です。
例えば、調停での合意を成立させる場合や訴訟で和解をする場合等、分割払いを前提とした解決をするときには、支払いを受ける側が積極的に懈怠約款を付けることを主張しなければなりません。
懈怠約款に限ることではありませんが、裁判所はあくまで中立な立場であり、当事者の一方にとって不利になるような場合でも積極的に助言をしてくれるわけではないからです。
離婚事件における懈怠約款
離婚事件において、どのような場合に懈怠約款が必要になるのでしょうか。
懈怠約款が必要になるのは、相手方から支払ってもらう金銭を分割で受け取るような場合です。
当然のことながら、相手方から金銭の支払いを受ける場合、基本的には一括で支払ってもらう方が望ましいと考えられます。
しかしながら、離婚事件においては、慰謝料や解決金等の支払いが高額になるケースや、財産分与において本来取得すべき金額以上の価値のある不動産を取得し、その代価として一定の金銭を相手方に支払わなければならないといったケースが多々あります。
このようなケースにおいて、金銭を支払う側に現金や預金がある場合には一括での支払いを要求することが可能ですが、相手方に一括払いの支払能力がない場合には分割払いを受け入れざるを得ません。
そのため、慰謝料や財産分与等の分割払いの要求を受け入れざるを得ない場合には、忘れずに懈怠約款を付けるようにしなければなりません。
なお、分割払いは、支払う側に支払能力に応じた支払い方ができるというメリットがあるだけでなく、支払ってもらう側にも、一括払いよりも総額として大きい金額を受け取れる可能性があるというメリットもあります。
また、分割払いは当事者の合意によって定まるところ、支払う側の支払能力に応じた方法で合意をすることにより、相手方が任意に支払いやすいというメリットもあるでしょう。
養育費・婚姻費用における懈怠約款
養育費や婚姻費用においても、当事者の合意があれば懈怠約款を付けることも可能と考えられます。
しかしながら、養育費や婚姻費用は、配偶者や子どもが生活をするために必要な費用として、その時々に発生するものであること、父母の収入状況や生活状況の変化によって支払義務が変更、消滅する可能性があることから、懈怠約款にはなじまない性質の支払義務であると考えられています。
そのため、裁判所は、養育費や婚姻費用の取決めに懈怠約款を付けることについて非常に消極的な姿勢です。
実際に、「養育費は、定期金としての本質上、毎月ごとに具体的な養育費支払請求権が発生するものであって、期限の利益喪失約定に親しまない性質のものである。」とした審判例もあります(東京家裁平成18年6月29日審判)。
また、当事者の合意があれば懈怠約款を付けることが可能だとしても、裁判所が判断を下す場合には月毎の支払いしか命じられないため、そもそも支払う側が懈怠約款を受け入れる可能性も低いでしょう(なお、慰謝料や財産分与について裁判所が判断を下す場合には、一括払いが原則となります。)。
以上から、実際には、養育費や婚姻費用の取決めに懈怠約款を付けることは困難といえるでしょう。
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