離婚時の誓約書通り、親権者は、元妻に変更されてしまうのか?
離婚時、元妻は無職だったのですが、なかなか親権を譲ってはくれませんでした。
そのため「元妻が就職して生活が安定し、子Aを引き取ることを願い出たときは、子Aを引き渡す。」という誓約書を書き、なんとか私を親権者としたうえでの協議離婚が成立しました。
離婚から1年がたち、元妻がその誓約書を理由に、子Aの親権者を変更する申立て行ってきたのですが、親権者は元妻に変更されてしまうのでしょうか?
結論からいえば、誓約書を書いていたとしても、親権者の変更が認められない可能性はあります。
親権者の変更は子に多大なる影響を与えますので、裁判所は子の福祉の観点から慎重に判断します。
そのため、自分が親権者のほうが子の福祉に適うと思われるのであれば、その旨を主張して適切に争うことで、裁判所に親権者の変更を認めないという判断をしてもらえる可能性は相当程度あると思われます。
誓約書に基づく親権者変更の可否
当然のことですが、本事例のような誓約書は安易に書くべきではありません。できるだけ、離婚時に紛争の火種を摘んでおくことが重要です。
しかし、親権の問題は財産分与等のお金の問題より、当事者が固執すると全く離婚協議が進まず、最後は離婚判決で裁判所に決めてもらうほかありません。
それには、長い時間と費用がかかります。
そこで、事例のような誓約書が書かれることもしばしばあります。
では、このような誓約書の効力を裁判所はどのようにみているのでしょうか。
この点、札幌高裁決定(昭和61年11月18日)が参考になります。
判例 親権者を元妻に変更するという原審の判断を破棄した判例
なお、原審である家裁は、誓約書の内容を前提に、元妻が就職し生活が安定している現時点において子の福祉の点から元妻が親権者となっても問題がないと見込まれることを重視し、親権者の変更を認めました。
それに対し、元夫が抗告したのが、この裁判例になります。
札幌高裁は、次のように判断して、親権者を元妻に変更するという原審の判断を破棄しました。
【要約】
「元妻の健康状態、性格、愛情、監護養育に対する意欲、経済力など親権者としての適格性において、元夫との間にそれほど優劣の差はなく、事件本人の養育態勢についても真剣に配慮していることが認められる。しかし、元夫の事件本人に対する監護養育の現状をみるに、元夫が実家に戻ってからは、子は、祖父母の家において、父、祖父母及び叔母という家族構成のなかで、それぞれの人から愛情をもって大事に育てられ、心身ともに健全に成長して、安定した毎日を過ごしており、その生活環境に何ら問題がはなく、経済面においても祖父母の協力によって不安のない状態に置かれていることが明らかである。そうすると、親権者を変更するかどうかは、専ら親権に服する子の利益及び福祉の増進を主眼として判断すべきところ、まだ3歳になったばかりで、その人格形成上重要な発育の段階にある事件本人の養育態勢をみだりに変更するときは、同人を情緒不安定に陥らせるなど、その人格形成上好ましくない悪影響を残すおそれが大きいものと予想されるから、元妻において元夫から(事例のような内容の)誓約書を交付された事情を考慮しても、将来、再度検討の余地は残されているものの、なお現段階においては、子のために親権者を元夫から元妻に変更することは相当でないと言わざるを得ない。」
【札幌高裁決定 昭和61年11月18日】
親権についての誓約書は親同士で交わされるものですが、内容は子に多大なる影響を与えます。
そこで、誓約書の内容を絶対視することはせず、子の福祉の観点から、慎重に判断したものと思われます。
したがって、本事例のような場合、誓約書があるからといって、その内容にしたがって子の親権を元妻とするよりも、自分にしておいた方が子の福祉に適うと思われるのであれば、きちんとその旨を主張し、適切に争うことで、裁判所に、親権者の変更を認めないという判断をしてもらえる可能性は相当程度あると思われます。
このような事例では、家庭裁判所と高等裁判所で判断が分かれていることからもわかるとおり、法的にも非常に難しいところがあります。
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