別居後に返済した住宅ローンを財産分与で主張できる?
別居後も住宅ローンを返済している場合、財産分与において考慮される可能性があります。
別居後の返済分について、相手方はなんら寄与・貢献していないことになります。
そのため、財産分与において、返済分を調整しないと不公平となることがあります。
以下、具体例によって解説します。
具体例
Aさん(夫)とBさん(妻)は、20年前に結婚しました。
10年前に、居住用のマンションをAさん名義で 3000万円購入し、一緒に生活していました。
購入の際、Aさんは銀行から 2500万円を借り入れしています。
AさんとBさんは、しだいに仲が悪くなり、5年前から別居し、以降、それぞれ経済的に独立して生活するようになりました。
Aさんは別居後、Bさんに生活費(婚姻費用)を支払い、マンションの住宅ローンや管理費等の支払いもしていました。
AさんとBさんは、別居期間が長くなったこともあり、離婚することにしました。
3000万円で購入したマンションの評価額は別居時において 2800万円、現在は 2500万円となっています。
住宅ローンは、別居時は 2000万円ありましたが、現在、 1500万円まで減っています。
※事案をわかりやすくするために、他には財産がないものとします。
財産分与でマンションはどう評価される?
まず、マンションの評価が問題となります。
本件マンションは 3000万円で購入しましたが、別居時で 2800万円、現在は 2500万円となっています。
このような場合、財産分与の対象財産の評価は、現在時(離婚時)の価額とするのが実務の傾向です。
したがって、本件マンションは 2500万円の価値があるものとして、財産分与の算定をします。
別居後の住宅ローンの返済分はどう考える?
次に、住宅ローンについて解説します。
本件では、住宅ローンは購入時は 2500万円ありましたが、別居時に 2000万円、現在 1500万円にまで減っています。
財産分与の対象財産の基準時について、家裁実務は別居時と見る傾向にあります。
なお、財産分与の基準時などくわしい解説は以下をご覧ください。
そうすると、自宅の評価は、時価から別居時の住宅ローン残高を控除した 500万円となるのが原則です。
ところが、本件では、別居時に 2000万円あった住宅ローンが 1500万円まで減少しているという事情があります。
このことは、逆にいえば、夫婦の積極財産が 500万円増加したといえます。
また、Bさんは、別居後、Aさんと婚姻共同生活を営んでいないので、この 500万円の債務の減少、つまり、積極財産の 500万円の増加については、寄与・貢献していません。
この 500万円は、Aさんの特有財産から支出されたということになります。
したがって、この 500万円は積極的財産分与の対象財産とはなりません。
具体的な処理方法
AさんとBさんのどちらがマンションを取得するかで変わってきます。
具体例 Aさんがマンションを取得する場合
この場合、別居後のローン減少分(500万円)は、財産分与の対象から除外すべきです。
夫婦共有財産:2500万円(時価)− 1500万円(残ローン)- 500万円(ローン減少分)= 500万円
それぞれが取得できる価額:500万円 ÷ 2 = 250万円
AさんがBさんに交付する代償金:500万円 − 250万円 = 250万円
以上から、AさんがBさんに対して、250万円を渡すこととなります。
なお、残りの住宅ローンはAさんが負担します。
もし、別居後の住宅ローンの返済分を考慮しない場合は、以下のようになります。
夫婦共有財産:2500万円(時価)− 1500万円= 1000万円
それぞれが取得できる価額:1000万円 ÷ 2 = 500万円
AがBに交付する代償金:1000万円 − 500万円 = 500万円
上記のとおり、住宅ローン返済分を考慮しないと、AさんはBさんに 500万円支払うこととなり、考慮した場合と比べて 250万円も損をしていることとなってしまいます。
具体例 Bさんがマンションを取得する場合
この場合、マンションの評価額に 500万円を加算して 3000万円にする方法があります。
夫婦共有財産:3000万円 − 1500万円 = 1500万円
それぞれが取得できる価額:1500万円 ÷ 2 = 750万円
BさんがAさんに交付する代償金:1500万円 − 750万円 = 750万円
もし、別居後の住宅ローンの返済分を考慮しない場合は、以下のようになります。
夫婦共有財産:2500万円(時価)− 1500万円 = 1000万円
それぞれが取得できる価額:1000万円 ÷ 2 = 500万円
BがAに交付する代償金:1000万円 − 500万円 = 500万円
上記のとおり、Bさんがマンションを取得する場合も、住宅ローン返済分を考慮しないと、AさんはBさんから 500万円しかもらえないこととなり、考慮した場合と比べて 250万円も損をしていることとなってしまいます。
なお、相手方がマンションを取得する場合、特有財産の考慮方法には諸説あります。
ここでは、Aさんがマンションを取得する場合とのバランスを考えて、上記のような計算方法を採用しています。
詳しくは、財産分与に詳しい専門家にご相談の上、ご検討されてください。
財産分与の算定方法などくわしい解説は以下をご覧ください。
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