養育費の新算定表とは?【弁護士が考える旧算定表との違い】
養育費の新算定表とは、2019年12月に最高裁判所が発表した、これまでの算定表に代わる新しい算定表です。
なお、日本弁護士連合会も2016年に独自に算定を作成し、提言していますが、これは家裁の実務では取り入れられていません。
目次
養育費の算定表とは
養育費は、親権者が子どもを監護養育していくために必要となるお金です。
養育費は、子どもの生活のための金銭であるため、簡易・迅速に算出される必要があります。
このようなニーズから、父母の収入金額や子どもの数と年齢だけで、迅速に確認できる早見表が家裁実務において活用されています。
これが算定表と呼ばれるものです。
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算定表が改正された経緯
従来の算定表は、2003に公表されたもので、家裁実務ではこの算定表を基に、養育費や婚姻費用の額を判断していました。
ただ、旧算定表が公表されてから15年余りが経過し、近年は「社会情勢が変化し、現在の生活実態にあっていない」などと指摘が出ていました。
また、改正法による成年年齢の引き下げによる影響(養育費の終期の問題)も検討する必要がありました。
そこで、最高裁判所は、昨年から見直しの研究に着手していました。
新算定表の特徴〜旧算定表との違い〜
新算定表も、従来のものと基本的な枠組みは同じで、いわゆる収入按分型が採用されています。
また、旧算定表と同様に、権利者(養育費をもらう側・多くの場合は母親)と義務者(養育費を支払う側・多くの場合は父親)の収入、子供の数と年齢をもとに、早見表によって、簡易迅速に算出することが可能です。
収入については、旧算定表のときと同様に、給与所得者の場合と、自営業者の場合に分けて、算出するようになっています。
このように、新算定表になっても、旧算定表と基本的な枠組みが変わらないので、早見表の見方は変わりません。
しかし、統計資料等については、最新のものをもとに更新されています。
そのため、具体的な金額は異なることがあります。
新算定表で養育費は増える?
では、新算定表に変わったことで、養育費は増えることになるのでしょうか?
以下、具体例をもとに、旧算定表と新算定表を使ってシミュレーションを行いたいと思います。
- 妻:給与所得者(前年度年収 125万円)
- 夫:給与所得者(前年度年収 550万円)
- 子ども:小学生(公立学校)7歳
旧算定表の場合 | 新算定表の場合 |
---|---|
5万円程度 |
6万円程度 |
4万円から6万円の幅の中程で調整 | 4万円から6万円の幅の上方で調整 |
- 妻:給与所得者(前年度年収 100万円)
- 夫:給与所得者(前年度年収 650万円)
- 子ども:高校生(公立学校)16歳、中学生(公立学校)13歳
旧算定表の場合 | 新算定表の場合 |
---|---|
10万円程度 |
12万円程度 |
10万円から12万円の幅の下方で調整 | 10万円から12万円の幅の上方で調整 |
- 妻:給与所得者(前年度年収 100万円)
- 夫:給与所得者(前年度年収 1500万円)
- 子ども:高校生(公立学校)16歳、中学生(公立学校)13歳、小学生(公立学校)10歳
旧算定表の場合 | 新算定表の場合 |
---|---|
26万円程度 |
30万円程度 |
24万円から26万円の幅の上方で調整 | 28万円から30万円の幅の上方で調整 |
以上のとおり、新算定表の方が旧算定表よりも養育費の額は高額になりました。
※すべてのケースが高額になるとは限りません。
新算定表による養育費の算定方法について、くわしくはこちらのページをご覧ください。
養育費の増額は可能?
上記のとおり、新算定表は、旧算定表よりも養育費の額が高額になる場合が多くあります。
それでは、過去に養育費を取り決めをした場合、これを増額することは可能でしょうか?
これについて、最高裁判所は、新算定表の公表とともに、次のように発表しました。
「本研究の発表は、養育費等の額を変更すべき事情変更には該当しない」
このことから、新算定表の公表のみを根拠として、養育費の増額変更は難しいと思われます。
もっとも、養育費の増額については、裁判所に判断(審判)してもらう他に、当事者間の協議や調停手続によっても変更が可能です。
したがって、算定表の変更をきっかけとして、当事者間で協議を行い、任意に増額に応じてもらう方向で変更するということが考えられます。
その際、以前の算定表が現在の社会情勢に合っていないことを説明すると、相手にも理解してもらえるかもしれません。
養育費の終期は?
今回の発表では、成年年齢の引き下げによる影響(養育費の終期の問題)についても、最高裁の見解が示されました。
これによれば、改正法によって、成年年齢が18歳になったとしても、協議書や調停調書等の養育費の「成年」は基本的に20歳と解すると説明されています。
したがって、成年年齢の引き下げによって、養育費の終期が想定よりも早くなるということはないと考えられます。
日弁連の新算定表の位置づけはどうなる?
最高裁の公表よりも早く、2016年に、日弁連(日本弁護士連合会)も新算定表を公表しました。
日弁連の提言の全文はこちらから確認できます。
日弁連は、裁判所よりも早く、旧算定表に対する問題点を指摘していました。
しかし、日弁連が発表した新算定表は、家裁の実務ではほとんど活用されていませんでした。
執筆者の個人的な経験となりますが、養育費の権利者側の弁護士から、「新算定表によるべきだ」との主張がなされることは目にしていましが、調停委員会や裁判官が新算定表の適用を認めた事案を目にしたことがありません。
今回の最高裁の新算定表の発表により、今後、家裁実務では、裁判所基準の新算定表が使用される予定です。
そのため、日弁連の新算定表は、これまで以上に実務では使われなくなると予想されます。
なお、日弁連の取り組みによって、旧算定表の問題点が社会に広く認識され、今回の裁判所の新算定表に発表につながったとも考えられます。
そのため、日弁連の取り組みは、重要なものであったと思います。
養育費の算定サポート
今回の算定表の変更に伴い、養育費について、不安に感じている方が大勢いらっしゃいます。
当事務所の離婚事件チームは、新算定表に関し、以下のサポートを行っています。
- 適正額の診断サポート
- 養育費の増額、減額請求
- 調停手続サポート
当事務所の離婚事件チームは、離婚問題に注力する弁護士のみで構成される専門チームです。
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養育費について、くわしくはこちらのページをご覧ください。
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