離婚の財産分与は財布が別になったとき?弁護士が事例で解説
離婚の財産分与は、基本的には別居日が基準となります。
ただし、別居以降も夫婦の財布が同じ(家計が一つ)だったような場合は、財布が別(家計が別)になったときが基準日となる可能性があります。
財産分与の基準日は、対象財産を確定する基準となるため夫婦に重大な影響を及ぼします。
ここでは、実際の相談事例をもとに、財産分与の基準日について解説していきます。
財産分与でお困りの方は、ぜひ参考になさってください。
財産分与の基準日についての相談事例
私は、2年前から夫と別居しており、現在離婚協議中ですが、財産分与でもめています。
私は、別居をした2年前の時点からだと思うのですが、夫は、1年前の時点からだと主張しています。
というのも、夫とは、別居前からお小遣い制にしており、別居後1年間はその状態が続いていました。
しかし、1年前から夫が給与の振込口座を変更してしまい、毎月定額の生活費を送金してくるようになりました。
私としては、別居をしたときの方が多く財産分与がもらえるため、別居時を基準としたいですし、そうなるのが普通と聞いたのですが、どうなんでしょうか?
財産分与でわけるもの
財産分与でわけるものは、婚姻期間中(別居前)に、夫婦が協働して形成した財産です。
別居の前後で区切るのは、夫婦の協働関係が維持されているのはだいたい同居期間中である、言い換えれば、別居をしてしまえば、夫婦の協働関係は失われてしまうため、別居後に増えた財産は「協働して形成した財産」といえなくなるからです。
いつの時点の財産をわけるのか
原則は「別居時」であり、裁判所もそのように考えています。
もっとも、夫婦の生活実態は様々です。相談者のように、別居をした後も夫の給与を管理し、お小遣い制を前提に生計を立てている家庭もあります。
夫婦の財布が同じ(家計が一つ)場合
この場合、夫が給与を妻に渡すことによって生計が成り立ち、そのうち余剰が出れば貯蓄にまわされることになるわけなので、物理的には離れている夫婦であっても、財産形成においてはいまだ協働関係にある(財布は一つ)といえます。
夫婦の財布が別(家計が別)の場合
一方、妻に給与を管理されていた夫が振込口座を変更し、いわばお小遣い制から脱却し、必要な生活費(いわゆる婚姻費用)を別途送金するようになった場合、夫は夫でお金を管理し、妻は妻でお金を管理して、余剰が出ればそれぞれが自分の物を貯蓄していくという状態(財布が二つ)になります。
したがって、このような場合、財産分与の基準時は「夫が振込口座を変更し、婚姻費用を送金するようになった時」(=夫婦の協働関係が失われた)ということになります。
過去の裁判例
上記の点について、さいたま家庭裁判所が同様の判断を示していました。
当該裁判例では、
①夫は、平成19年7月に単身赴任となり、しばらくは行き来があったが、平成20年8月下旬にはそれもなくなり、関係は悪化して破たんした。
②平成20年9月下旬ころ、夫が離婚調停を申し立てたものの、平成21年2月には不成立となった
③平成21年4月に、それぞれの家族が集まって話合いが行われ、妻が引き続きお金の管理をし、お小遣い制が継続された。
④夫は、あまりに窮屈な生活に耐えきれず、平成21年11月に給与振込口座を変更し、同年12月19日から生活費の送金を始めた。
という事実経緯がありました。
裁判所は、上記事例で、婚姻費用を送金する形にしたのが平成21年12月19日以降であったため、財産分与の基準時を同年12月18日と判断しました。
このように、別居が開始されていても、お小遣い制が継続され、引き続き妻がお金の管理をしているような場合は、別居よりも後の時期が財産分与の基準時とされる場合があります。
相談者の場合
別居時を基準とするのが原則ですが、相談者のケースではその例外に当たる可能性があります。
そのため、別居時が財産分与の計算において有利であったとしても、裁判所はそう判断してくれない可能性があります。
もっとも、財産分与は、それぞれの財産を2分の1にするわけなので、基準時が変わったとしても法的にマイナスになるわけではありません。
どの時点を分与基準時とするかは、協議によって決めることもできますが、裁判所の判断と相談者の希望が異なる場合は、どこまでご自身の主張を維持するか(協議に時間をかけるか)はしっかりと考えなければなりません。
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