財産分与を離婚後に請求できる?弁護士がわかりやすく解説
財産分与は離婚後でも請求することができます。
ただし、財産分与は、離婚後2年を経過すると請求することができなくなります。
そのため、離婚後に財産分与を請求する場合は、期限切れにならないよう注意する必要があります。
ここでは、離婚後の財産分与について、請求期限や、請求の手続きの流れ、必要な費用などについて、解説していきます。
目次
財産分与とは
財産分与とは、離婚に伴い、夫婦が結婚生活の中で協力して築いた財産を分け合うことをいいます。
どちらの収入を原資にしたか、どちらの名義で取得したかにかかわらず、夫婦が結婚生活の中で取得した財産(「共有財産」といいます。)は、基本的に2分の1(半分ずつ)の割合で分け合うことになります。
財産分与は離婚後でも請求できる?
財産分与は、離婚前に、離婚と共に請求するケースが多いです。
もっとも、財産分与の取り決めをしないまま先に離婚を成立させ、その後に財産分与を請求するということもできます。
ただし、財産分与には請求できる期限があります。
そして、この請求期限のカウントダウンは離婚後にスタートするので、離婚後に財産分与を請求する場合は期限切れにならないよう注意する必要があります。
財産分与の時効とは?
財産分与は、離婚の成立時から2年が経過すると請求できなくなります(民法768条2項但書※)。
参考:民法|e-Gov法令検索
この制限期間は、厳密には「時効」ではなく、「除斥期間(じょせききかん)」と考えられています。
※この制限期間は5年に改められる見通しとなっていますが、本記事では2024年5月1日現在の現行民法を前提に解説していきます。
除斥期間とは?
除斥期間とは、権利を行使しなければならないとされる期間のことです。
除斥期間とよく似た制度に「消滅時効」というものがあります。
消滅時効とは、一定期間の経過によって権利を喪失する制度のことです。
いずれも請求期限を定めるものであるという点は共通しています。
しかし、消滅時効にはその期間を延長できる手段がある(猶予・更新の制度)のに対し、除斥期間には延長できる手段はありません。
また、消滅時効は相手が「時効が完成している」との主張(これを「時効の援用」といいます。)をしなければ、権利の消滅という効果は生じません。
したがって、消滅時効の期間を経過していても、相手が時効を援用しなければ裁判で請求することも可能です。
これに対して、除斥期間は相手が除斥期間が経過しているとの主張をしなくても権利は消滅します。
したがって、除斥期間を経過してしまうと、相手の意思にかかわらず裁判で請求をすることはできなくなります。
時効(消滅時効) | 除斥期間 | |
---|---|---|
期間を延長できるか | できる | できない |
援用の要否 | 必要 | 不要 |
財産分与の請求期限の起算日
財産分与の請求期限である2年のカウントダウンが始まるのは、「離婚の時」とされています。
「離婚の時」とは、正式に離婚が成立した時のことであり、離婚の方法により次のように異なります。
離婚の方法 | 離婚成立時 | |
---|---|---|
協議離婚 | 当事者同士で話し合い離婚届を出して離婚した | 離婚届が役所に受理された日 |
調停離婚 | 裁判所で話し合って離婚した | 調停が成立した日 |
裁判離婚 | 離婚裁判で離婚の判決をもらった | 判決が確定した日 |
裁判上の和解離婚 | 離婚裁判をしたが和解(話し合い)によって離婚した | 和解が成立した日 |
正式に離婚が成立するまでは、たとえ夫婦関係が破綻し、別居しているような状態であっても、請求期限のカウントダウンは始まりません。
財産分与を離婚後に請求する流れ
財産分与の請求をする
まずは相手に直接請求し、裁判外での話し合いによる解決を目指すのが一般的です。
いきなり裁判所の手続き(調停)を申し立てて請求することもできますが、裁判所の手続きは解決までに時間がかかるため、まずは裁判外での協議からスタートさせることを基本的にはおすすめします。
もっとも、離婚後は相手と疎遠になり、協議がなかなか進まないという場合も多いです。
そのような場合は、弁護士に依頼し、内容証明郵便を送付するなどして請求してもらうとよいでしょう。
弁護士名義で通知が行くことで相手にプレッシャーをかけることができますし、適切な請求内容にすることができるため、相手が協議に応じやすくなるという効果が見込めます。
それによって、裁判所の手続きによらずともスムーズに協議を開始することができるようになることがあります。
協議のポイント
先にも述べたとおり、財産分与には請求期限があり、離婚の成立時から2年が経過すると請求できなくなります。
ここで注意したいのは、期限内に裁判外で請求を出しても、それで期限のカウントダウンがストップするわけではないということです。
裁判外で協議をしている途中で離婚の成立時から2年が経過してしまうと、その後に裁判所の手続きで財産分与を請求することができなくなってしまいます。
そのため、離婚の成立時から2年を経過する前に合意を成立させることができない場合は、期限切れになる前に裁判所に財産分与の調停を申し立てる必要があります。
協議によって合意が成立した場合は、その合意内容について、きちんとした書面を作成しておくようにしましょう。
口約束や不適切な書面しかない場合は、合意の存在の証明が難しく、合意が「なかったこと」にされてしまう恐れもあります。
そうなった場合、また一から取り決め直しをしなくてはなりませんが、その時点で財産分与の請求期限を経過してしまっていると、改めての請求ができなくなってしまいます。
財産分与に関する交渉は、弁護士に代理人として行ってもらうことをおすすめします。
まず、弁護士が間に入って交渉することで、当事者同士では話し合いができないような場合でも話が進みやすくなり、早期解決につながる場合があります。
また、弁護士のサポートを受けることで、対象となる財産の洗い出し不足や、不適切な財産評価によって損をしてしまうことを防ぎ、適切な内容で財産分与を実現させることにもつながります。
さらに、合意が成立した場合は、合意書の作成も弁護士に任せることができるため、将来のトラブルを防止することにも役立ちます。
また、必要な場合は速やかに調停申立ての対応もしてくれるため、協議をしている間に期限切れになってしまう事態も回避することができるでしょう。
財産分与の調停を申し立てる
協議による解決ができない場合は、家庭裁判所に財産分与の調停を申し立てます。
「調停」とは、裁判所において、調停委員会を仲介に話し合い、合意による解決を目指す手続きです。
財産分与の調停の手続きでは、お互いに自分が把握している財産を開示し、財産分与の対象や分け方などについて話し合いを進めます。
調停での話し合いで合意ができた場合は、その内容で調停は成立します。
一方、調停で話し合っても合意ができなかった場合は、調停の手続きは「不成立」として終了し、その後は自動的に「審判」という手続きに移行します。
審判は、裁判官が当事者の言い分や提出資料を踏まえて結論を出す手続きです。
審判まで行けば、争いがあって合意ができない場合であっても決着をつけることができます。
財産分与を離婚後に請求する場合の注意点
なるべく早く請求する
請求期限に注意する
先ほど述べたように、財産分与は、離婚が成立した時から2年が経過すると請求することができなくなります。
そのため、離婚後はできる限り早く請求し、裁判外での解決が難しい場合は速やかに財産分与の調停を申し立てるようにしましょう。
財産の費消や隠匿に注意する
離婚後、財産分与の請求をするまでの期間が長くなればなるほど、その間に相手に共有財産を費消される可能性は高くなります。
そうすると、もらえるはずの財産を回収できなくなる恐れがあるので注意しましょう。
財産分与の対象となるのは、離婚時(別居が先行している場合は別居時)に存在した共有財産ですから、離婚後(又は別居後)に相手が共有財産を費消したとしても、それによって財産分与の金額が減少することはありません。
しかし、相手の手元に財産が全くないような状態になると、たとえ審判で「財産を渡しなさい」との命令が相手に下ったとしても、ないところからは回収することができません。
例えば、離婚時に夫名義の預金口座に100万円(唯一の共有財産とします)が存在していたものの、離婚後に夫がこれを全て使い、残高が0円となったとします。
その後、妻が夫に対して財産分与を請求した場合、財産分与の対象となるのは離婚時に存在した100万円ですから、財産分与の内容としては、夫が妻に50万円を渡すというものになるでしょう。
しかし、夫の手元に全く財産がない(収入もない)ような場合、夫は50万円を渡すことはできないし、仮に審判で夫に対して「50万円を妻に渡せ」との命令が出されたとしても、妻は夫から50万円を回収することができません。
夫がお金を使い果たしたのではなく、引き出して、どこかに隠したような場合も同様です。
離婚前でも同じようなリスクはありますが、離婚後は、相手が「財産分与は請求されないだろう」と思い込んで費消してしまうケースや、相手がどこに隠匿したのか分からなくなるケースもあるので特に注意が必要です。
財産分与に強い弁護士に相談する
財産分与の請求をお考えの場合は、離婚問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。
財産分与を適切に行うには、対象財産の把握や評価額の算定などが重要になりますが、これらは専門知識や財産調査のノウハウがないと難しい場合が多いです。
また、離婚後は、期間制限があるので早く対応しなければならない一方、相手と疎遠になるため協議が滞りがちになったり、相手名義の財産を調査することが難しくなったりする場合も多いです。
そのため、離婚後は弁護士のサポートを受けて適切に進めていくことがより重要なポイントとなるでしょう。
財産分与請求にかかる弁護士費用
離婚後の財産分与の請求を弁護士に依頼する場合は、弁護士費用がかかります。
弁護士費用は、依頼する弁護士(法律事務所)によって異なりますので、具体的な金額については相談の際に確認されることをおすすめします。
依頼内容や得られた結果によっても異なります。
協議のみの場合よりも、調停対応まで必要になる場合の方が弁護士の労力も増すため費用は高くなるのが一般的です。
また、弁護士費用には、依頼時に必要となる「着手金」と解決時に必要となる「報酬金」があります。
このうち報酬金の方は、財産分与によって得られた金額の数パーセントという形で定められている(成功報酬制)ところが多いです。
財産分与の弁護士費用については、下記のページでくわしく解説しています。
くわしくお知りになりたい方はご覧ください。
離婚後の財産分与に関するQ&A
離婚が先か財産分与が先かで結果は異なる?
分与対象にお金以外のもの(不動産、有価証券など)がある場合、その時価の変動によって対象財産の評価額の総額が変わる可能性はあります。
財産分与は、離婚時(別居が先行している場合は別居時)に存在した共有財産を分け合うものですから、離婚が先か(離婚後に財産分与を請求するか)、財産分与が先か(離婚と共に財産分与を請求するか)で結果が異なることは基本的にはありません。
ただし、不動産や有価証券など、金銭以外の財産の評価は、原則として財産分与請求権が行使された時点(分与時)を基準に行います。
そのため、離婚時と離婚後で時価が変動する場合は、対象財産の評価額総額が変わる可能性があります。
例えば、対象財産の不動産について、離婚時の時価は1000万円だったけれども、離婚時から1年経過後の時点では900万円になったとします。
この場合、離婚と同時に財産分与をする場合は不動産の評価額は1000万円となりますが、離婚の1年後にする場合は900万円となります。
離婚後の財産分与で税金はどうなる?
財産分与では税金は基本的にはかかりませんが、対象財産に不動産などがある場合、状況によっては不動産取得税や譲渡所得税がかかることもあります。
税金がかかるかどうかは、対象財産の種類や評価額、その他の状況等により異なりますので、具体的な判断や試算については、税務に詳しい弁護士にご相談されることをおすすめします。
まとめ
以上、離婚後に財産分与について、請求期限や、請求の手続きの流れ、必要な費用などについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。
財産分与は、離婚後一定期間2年が経過すると請求できなくなるので、期限切れにならないよう注意する必要があります。
必要な手続きや適切な解決方法は事案により異なりますので、財産分与についてお困りの場合は、離婚問題に強い弁護士に相談されることをおすすめします。
当事務所には離婚事件に注力する弁護士で構成される専門チームがあり、財産分与でお困りの方を強力にサポートしています。
LINE、Zoomなどを活用したオンライン相談も行っておりますので、お気軽にご相談ください。
なぜ離婚問題は弁護士に相談すべき?弁護士選びが重要な理由とは?