面会交流を拒否する正当な理由とは?制限が認められるポイント

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  

面会交流

面会交流は基本的には実施すべきものとされていますが、子どもの利益に反する事情がある場合は、正当な理由があるとして実施を拒否することも認められます

ここでは、具体的にどのような場合に正当な理由があると認められるかについて解説していきます。

面会交流を拒否できる正当な理由とは?

家庭裁判所の実務では、基本的には面会交流を実施する方向で手続きが進められるのが実情であり、子どもの利益に反する事情がない限りは拒否することはできません。

参考裁判例 東京高裁平成25年7月3日決定
面会交流の重要性や考え方について、次のように示しています。

「子は、同居していない親との面会交流が円滑に実施されていることにより、どちらの親からも愛されているという安心感を得ることができる。したがって、夫婦の不和による別居に伴う子の喪失感やこれによる不安定な心理状況を回復させ、健全な成長を図るために、未成年者の福祉を害する等面会交流を制限すべき特段の事由がない限り、面会交流を実施していくのが相当である。」

もっとも、子どもの利益に反する事情がある場合は、正当な理由があるとして面会交流を拒否することができます。

正当な理由があるかどうかは、以下の面会交流の制限に関する5つの要素を踏まえ事案ごとに個別具体的に判断されることになります。

  • ︎子に関する要素(子の意思、子の年齢、子の心身に及ぼす影響、子の生活環境に及ぼす影響等)
  • ︎監護親に関する要素(監護親の意思、監護親の監護養育への影響、監護親の生活状況など)
  • ︎非監護親に関する要素(非監護親の生活状況、非監護親に問題がある場合など)
  • ︎子と非監護親の関係に関する要素
  • ︎監護親と非監護親との関係に関する要素(別居・離婚に至った経緯を含め、現在の両親の関係がどうであるかなど)
参考裁判例 大阪高裁平成23年5月12日決定
面会交流の実施が子どもの利益を阻害することが明らかな場合の例示として、次のようなものを挙げています。

「子と非監護親との面会交流を実施した機会に子が非監護親に連れ去れらたり、暴力や脅迫を受ける危険性が高い場合、非監護親が面会交流の機会に監護親を不当に非難して子と監護親との離反を図り、あるいはその間の精神的安定を阻害することが明らかな場合など」

 

 

面会交流の拒否に正当な理由が認められる具体例

面会交流の拒否に正当な理由が認められる具体例

 

① 子どもが面会交流を拒否しているケース

子どもが面会交流を拒否していることは、子どもの年齢や背景事情などによっては、正当な理由として認められます。

子どもが10歳程度に達している場合は、一般的には子どもの意思は十分に考慮されるべきとされています。

子どもが本心から拒否をしており、裁判所においても子どもの意思をしっかりと確認できれば、正当な理由として認めてもらえる可能性は高いです。

子どもの意思を伝える方法としては、裁判所に調査官調査を促し、子どもの意向調査を行ってもらうようにするとよいでしょう。

調査の結果は「調査報告書」にまとめられ、裁判所の判断にも大きな影響を与えることになります。

裁判例1 名古屋高裁平成29年3月17日決定
子ども(11歳)が面会交流を拒否していることやストレス反応を起こしていることなどを理由に、母親(監護親)が面会交流の禁止を求めた事案です。子どもが8歳の頃に審判で面会交流が認められていたという経緯があったため、母親が子どもを全力で説得して面会交流に臨んだものの、子どもは面会交流に向かう途中で「頭が痛い。気持ち悪い。」と訴え泣き出したり、面会交流場所近くの駐車場に到着しても車から降りようとせず抵抗したりしました。

父親(非監護親)と会った後も、子どもは拒否的な態度を終始貫き、父親と口を聞こうとせず、席を離れて居なくなったり、トイレにこもって面会交流が終わるまでここにいる旨を泣きながら訴えるなどしました。

面会交流が終わり帰宅した後には、発疹、不眠、食欲不振、発熱等の身体症状が生じ、ストレス反応、退行状態と診断されるに至りました。

このような事情を踏まえ、裁判所は、「面会交流をこれ以上実施させることの心理学的、医学的弊害が明らかになったものと認められ、それが子の利益に反することが明白になったというべきである」として、直接的面会交流をしてはならないとの判断を下しました。

裁判例2 東京高裁令和元年8月23日決定
父親(非監護親)が子どもたち(19歳、16歳、14歳)との面会交流を求めた事案です。面会交流の際、父親が当初の約束や子どもたちの意思に反して実家(父方の祖父母の家)に子どもたちを連れていくなどしたため、子どもたちの父親に対する信頼が崩壊し、面会交流を拒否するようになりました。

裁判所は、子どもたちの年齢や理解能力にも照らすと、面会交流の実施に際しては、子どもたちの意向を十分に尊重する必要があると考えられるし、その明確な意思に反して、直接の面会という負担の大きい面会交流を強制することも相当でないと判断しました。

客観的に面会交流を禁止・制限する事由があるとはいえないものの、一定の年齢・理解能力を有する子どもたちが面会交流を明確に拒否する意思を有している以上は母親(監護親)に直接の面会の実施等を義務付けるべきではないとされたものです。

なお、父親は、子どもたちの拒否は母親の影響によるものだと主張していましたが、裁判所はこれを認めず、子どもたちの年齢や判断能力にも照らすと、子どもたちの拒否は自発的な意思に基づくものと見るのが相当と判断されました。

 

② 監護親の心理的負担が大きいケース

父母間におけるDV等が原因で、面会交流の実施が監護親に大きな心理的負担となり、その結果、子どもの利益が害される場合は、面会交流を拒否する正当な理由が認められることがあります。

面会交流により母子(父子)の生活や心情が害される事情を示すことがポイントとなります。

そこで、DVの証拠(ケガの写真、診断書、警察等への相談記録など)を示したり、現在の生活状況や子どもの心情について、調査官調査を実施してもらうようにするとよいでしょう。

裁判例 東京家裁平成14年5月21日審判
父親(非監護親)による母親(監護親)に対する暴力が原因で離婚に至った経緯がある中で、父親が面会交流を求めた事案です。母親はPTSDと診断されており、安定剤等の投与を受けてきたほか、心理的にも手当てが必要な状況にあり、母子の生活を立て直し、自立するために努力しているところであって、面会交流の円滑な実現に向けて、父親と対等な立場で協力し合うことはできない状況にあることが認められました。

そして、現時点で面会交流を実施することは母親に大きな心理的な影響を与えることになり、その結果、母子の生活の安定を害し、子どもの福祉を著しく害するおそれが大きいとして、面会交流を認めることは相当でないとされました。

 

③ 非監護親がルール違反をしたケース

非監護親が面会交流のルールに違反する場合も、違反の程度や頻度、子どもに与えた影響等によっては、面会交流を拒否する正当な理由が認められることがあります

どのようなルール違反があり、どのような影響が生じたのかを具体的に示すことがポイントとなります。

裁判例 横浜家裁相模原支部平成18年3月9日審判
父母の間で月1回の面会交流を認める旨の調停が成立したものの、母親(非監護親)が調停条項を遵守せず、勝手に子どもたちに会いに行くなどしたことから、父親(監護親)が面会交流の取りやめを求めた事案です。母親は、本件事件の係争中も子どもたちに無断で会いに行くなどし、子どもたちを連れまわして逮捕されるに至りました。

裁判所は、こうした背信的な行動を重ねる母親には今後ルールを守って子どもたちと面会交流をしたり、子どもたちの心情や生活状況に配慮した適切な面会交流を実施することを期待することは困難であって、こうした状況のもとでの面会交流は子どもたちの福祉に適合しないとして、面会交流を全面的に禁止しました。

 

④ 子どもが非監護親から暴力を受け恐怖心を抱いているケース

暴力等が原因で子どもが非監護親に対して恐怖心を抱いている場合は、面会交流により被害がより深刻になったり、被害回復が遅れる恐れがあるため、通常は正当な理由が認められます。

子どもに対する暴力の実態や、現在の子どもの状態を明らかにすることがポイントとなります。

暴力の証拠(ケガの写真、診断書、児童相談所への相談記録等)を示したり、子どもの意向調査等を実施してもらうようにするとよいでしょう。

裁判例 大阪高裁平成30年10月11日決定
父親(非監護親)が子ども(10歳)との面会交流を求めた事案です。子どもは、父親から包丁等で脅されたり、土下座させられたり、殴られたりしたことから、面会交流を拒否していました。

裁判所は、子どもの父親に対する恐怖心は相当強く、面会交流を拒否する意向は大変強固なものであると認め、現状において面会交流を実施することはかえって、父親に対する否定的な感情をさらに強化しかねず、子どもの健全な成長に支障をきたすとして、面会交流を禁止するべき特段の事情があると判断しました。

 

⑤ 父母の感情対立が激しいケース

父母の間に対立があるというだけでは、面会交流を拒否する正当な理由とは通常なりません。

しかし、父母の感情対立が激しく、その状態で面会交流を実施すると、子どもが両親の板挟みとなり苦しんだり、精神的に不安定になる恐れがあるような場合は、正当な理由が認められる可能性があります

父母間の紛争の経緯、紛争に対する子どもの認識や現在の子どもの生活状況等を明らかにすることがポイントとなるでしょう。

裁判例 東京家裁平成14年10月31日審判
父親(非監護親)が子ども(2歳)との面会交流を求めた事案です。母親(監護親)が父親による暴力等を理由に提起した離婚訴訟が係属しているのみならず、保護命令が発令されており、父母が極めて深刻な紛争・緊張状態にある状況でした。

裁判所は、このような状況下で面会交流を行えば、父母間の緊張関係の渦中に巻き込まれた子どもに精神的な動揺を与え、子どもの福祉を害するとして、面会交流を認めませんでした。

 

 

面会交流を拒否し続けたらどうなる?

面会交流を拒否し続けたらどうなる?

 

養育費が支払われなくなる可能性がある

面会交流を拒否し続けると、養育費が支払われなくなったり、一方的に減額されたりする可能性があります。

面会交流を実施しないからといって、養育費の支払義務がなくなるわけではありません。

しかし、実際上は、子どもに会えないことに対する不満や、モチベーションの低下などを理由に、非監護親が養育費を払わなくなることも多いです。

これに対しては、面会交流とは別問題として、弁護士から内容証明郵便を送付したり、養育費の調停や強制執行(公正証書や調停等での取り決めがある場合)の申立てを行うことにより、対処することができます。

お困りの場合は離婚問題に詳しい弁護士にご相談ください。

 

損害賠償請求を受ける可能性がある

面会交流を拒否し続けると、相手が子どもと交流する機会を失い精神的苦痛を被ったことなどを理由に、損害賠償(慰謝料)を請求してくる可能性もあります。

面会交流の拒否に正当な理由が認められる場合は、慰謝料の支払いが命じられることはありません。

しかし、請求を無視したり、不適切な対応をすると不利益を受ける可能性もあるので、請求を受けた場合は、弁護士に相談し然るべき対応をするようにしましょう。

 

親権者等の変更を申し立てられる可能性がある

面会交流を拒否し続けると、親権者としてふさわしくないとして、相手が親権者変更を申し立てる可能性があります

また、離婚前のケースや共同親権で一方が子どもを監護しているケースでは、監護権者の変更のリスクもあります。

面会交流の拒否に正当な理由が認められる場合は、その他の事情(監護状況等)に問題がない限り、親権者又は監護権者として不適切と判断されることはありません。

しかし、損害賠償請求の場合と同様、裁判所からの呼び出しを無視したり、不適切な対応をすると不利益を受ける可能性があるので、申立てを受けた場合は、弁護士に相談し然るべき対応をするようにしましょう。

 

子どもに悪影響が及ぶこともある

面会交流は、一般的には子どもの健全な成長にとって有益と考えられています。

そのため、正当な理由なく面会交流を拒むと、子どもに悪影響が及ぶ可能性があります

例えば、子どもが「非監護親に見捨てられた」と思って喪失感や孤独感を抱き、短期的には不登校や問題行動が起き、長期的には対人関係や人格形成にマイナスの影響が及ぶこともあります。

 

 

面会交流を拒否できないときの対処法

弁護士に間に入ってもらう

面会交流を拒否できない場合でも、面会交流の実施に対して大きな不安が残ることは多いと思われます。

そのような場合は、弁護士に間に入ってもらうことをおすすめします。

弁護士に間に入ってもらい、代理人として対応してもらうことで、相手方との交渉や裁判所の手続きにかかる負担感を大幅に減らすことができます

また、あなたの面会交流に対する不安や子どもの生活状況、心情等を踏まえた上で、最適な面会交流の方法等も検討し、調整を行ってくれます。

それにより、より子どもの実情に適した、監護親にとっても負担感の少ない方法での面会交流の実施につながりやすくなります。

 

面会交流のルールを決める

面会交流のルールを決めて遵守を約束することにより、父母の間に最低限の信頼関係が形成され、円滑な面会交流の実施につながりやすくなります

面会交流のルールとは、例えば次のようなものです。

  • 子どもの受渡し・引渡しの際には挨拶をする
  • 子どもにプレゼントを渡す場合は事前に相談する
  • 面会交流時の子どもの写真を勝手にSNSに公開しない

上記のようなことは面会交流を行うに当たっては当然に守られるべきルールともいえますが、敢えて明示的に取り決めておくことで不安感を取り除くことができる場合もあります。

具体的にどのような内容にすればよいかは、父母の信頼関係の程度や子どもの状態等によりますので、詳しくは離婚専門の弁護士にご相談ください。

 

 

面会交流の拒否についてのQ&A

再婚は面会交流拒否の正当な理由となる?

再婚はそれ自体では面会交流を拒否する正当な理由とはなりません。

もっとも、監護親の再婚相手と子どもが養子縁組をした場合、非監護親(実親)には、子どもと養親の良好な関係形成を妨げる言動をしないよう配慮が求められます。

そのため、例えば、非監護親が面会交流の際に子どもの前で養親の悪口を言っているような場合は、そのような非監護親の言動が子どもの利益を害する恐れがあることを理由に、面会交流を拒否することができる可能性もあります。

 

精神不安定は面会交流拒否の正当な理由となる?

監護親の精神不安定が面会交流の実施によって悪化し、これによって子どもの監護に支障が生じたり、子どもの心身に悪影響が生じたりしている場合は、正当な理由として認められることもあります。

 

ストレスは面会交流拒否の正当な理由となる?

面会交流にストレスを感じるということだけでは正当な理由とならないのが通常です。

ただし、ストレスによる身体症状・精神症状が面会交流の実施によって悪化し、それによって監護に支障が生じたり、子どもの心身に悪影響が生じたりしている場合は、正当な理由として認められることもあります。

 

面会交流の拒否に診断書は有効?

暴力の恐れや精神的負担等を理由に面会交流を拒否したい場合は、診断書が有効に働くケースが多いです。

診断書は、非監護親による暴力や子ども又は監護親の心身の不調等を裏付ける証拠の一つとなります。

 

面会交流の要求がしつこい場合に拒否できる?

要求がしつこいことのみを理由に拒否することはできません。

もっとも、相手が求める面会交流の頻度が多すぎる場合は、協議又は調停により適切な頻度について検討又は見直しをする必要があるでしょう。

 

 

まとめ

以上、面会交流を拒否する正当な理由について解説しましたがいかがでしょうか。

正当な理由は、事案ごとに、子どもの利益に反する事情があるかどうか、個別具体的に判断されることになります。

具体的な見通しについては、離婚問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめいたします。

当事務所には、離婚問題を専門的に扱う弁護士のみで構成される離婚事件チームがあり、面会交流の問題にお困りの方を強力にサポートしています。

LINEなどによるオンライン相談にも対応しておりますので、お困りの方はお気軽にご相談ください。

 

 

#面会交流

なぜ離婚問題は弁護士に相談すべき?弁護士選びが重要な理由とは?   

続きを読む