養育費は相手が再婚しても払うべき?離婚に強い弁護士が解説
養育費は相手が再婚した場合であっても支払い義務が当然になくなるわけではありません。
しかしケースによっては養育費の支払い義務がなくなる可能性があります。
再婚は、離婚時からの「事情変更」といえますので、これを主張して新たな合意ができる可能性があります。
このページでは、具体的にどのような条件を満たせば支払い義務がなくなるのか、また、その注意するポイントなどについて、離婚問題に精通した弁護士が解説します。
養育費とは
養育費とは
養育費とは、子を育てている人(「監護者」)が、子を育てていく上で、子を育てていない人(「非監護者」)から支払いを受ける金銭をいいます。
この養育費の中から、子の生活にかかる費用(衣食住、教育費、医療費など)の一部をまかなっていくことになります。
養育費の合意の効力
離婚に際しては、養育費の合意をすることが多いです。
合意の内容は、金額、始期と終期(いつからいつまで支払うか)、特別の費用(医療費、学費など)の負担方法など様々なものがあります。
そして、一度養育費の合意をすると、基本的には終期までそのとおりに支払いを行っていくことになります。
ただ、離婚時に取り決めをした養育費では、都合が悪くなることもあります。
例えば、収入が大きく変わった、再婚したという場合です。
こうした場合を、取り決め時から事情が変わったということで「事情変更」と言ったりします。
「事情変更」の事実そのものがあったとしても、ただちに合意の効力に影響を及ぼすことはありません。
ただ、事後的にこれを主張するなどして新たな合意をすることも多々あります。
そういった意味で、「事情変更」は、養育費の合意の効力に影響を及ぼす可能性があるといえます。
特に、再婚のケースでは、合意の効力に影響を及ぼすことが多いという印象です。
相手が再婚したときの養育費の支払い義務
相手が再婚したときであっても、養育費の支払い義務が当然になくなるわけではありません。
上記のとおり、一度合意をしているため、基本的にはその合意が有効に働いているためです。
そのため、この以前の合意を見直して新たな合意をしない限りは、基本的には養育費の支払い義務やその内容が変わることはないと考えておいた方がよいといえます。
再婚をしたことは、離婚時からの「事情変更」といえますので、これを主張して新たな合意ができる可能性があります。
そのため、相手が再婚したときは、状況によっては養育費の支払い義務に影響を及ぼすことがあります。
以下では、再婚したケースで、「相手が権利者(通常女性)の場合」「相手が義務者(通常男性)の場合」に分けて説明を続けていきます。
相手が権利者(通常女性)の場合
相手が権利者(通常女性)の場合の典型例は、次のようなケースです。
- 権利者(通常女性)と義務者(通常男性)は、子供の養育費を取り決めて離婚した。
- 離婚した後、権利者が再婚をして、その再婚相手と子供が養子縁組を行った。
離婚した段階では、義務者は子供の扶養義務(第一次的な扶養義務者)を負っており、養育費を支払うことになります。
しかし、権利者が再婚をして、再婚相手と子が養子縁組をすると、義務者はこの第一次的な扶養義務者であった立場ではなくなり、養親(再婚相手)が第一次的な扶養義務者になります。
そのため、義務者は、養育費の支払い義務がなくなる(免除)と考えられます。
養子縁組制度は、その子の養育を全面的に引き受けるという暗黙の合意が含まれているため、養親(再婚相手)が実親(元義務者)に優先して、子の扶養義務を負うことになるからです。
これが原則となります。
ただし、実親の年収が高額な場合、養親の資力や収入がほとんどない場合、元々離婚時に再婚が想定されていたような場合は、この原則が当てはまらないことに注意が必要です。
相手が義務者(通常男性)の場合
相手が義務者(通常男性)の場合の典型例は、次のようなケースです。
- 権利者(通常女性)と義務者(通常男性)は、子の養育費を取り決めて離婚した。
- 離婚した後、義務者が再婚した。
この場合、義務者の子供に対する扶養義務(第一次的な扶養義務)は残ったままになりますので、養育費の支払い義務自体も残ると考えられています。
そのため、義務者の再婚のケースでは、養育費の支払い義務が残ることを前提に、養育費を減額できるかどうかが争点になることが多いです。
具体的には、義務者は再婚をすることにより、再婚相手やその間の子供の扶養義務も負うことになるため、被扶養者の数が増えた、その結果養育費を減額できるかもしれない状況になったといえます。
こうしたケースでは、義務者の再婚相手の資力や年収、再婚相手との子の人数、権利者の資力、年収といったことを考慮して、どれくらい減額するのかを検討していくことになります。
再婚と養育費の免除・減額については、どちらが再婚をしたのか、再婚をしたときの状況はどのようなものか、などによって考慮・検討する事項が異なります。
また、そのときの状況次第で、結論も変わってくるといえます。
再婚と養育費の免除・減額について、より詳しくお知りになりたい方は、こちらもご覧ください。
続いて、権利者(通常女性)、義務者(通常男性)に多い相談をQ&Aの形で俯瞰していきたいと思います。
養育費をもらう側(通常女性)に多い相談Q&A
養育費支払いを受ける人(権利者・通常女性)は、仮に再婚をしたとしても、「できればもらい続けたい」「もらい続けるための方法が知りたい」という気持ちを持っていることが多いです。
以下では、こうした権利者(通常女性)に多いご相談と回答について、Q&Aの形でお示しします。
最近、自分が再婚したのですが、養育費をもらい続けることができますか?
養育費の取り決めをしたときの状況、現在の状況、お子様の年齢・状況、自身の年収、再婚相手の年収など、様々なことをお聞きした上で、見通しを判断していくことになります。
再婚して養育費をもらい続ける方法はないか?
自分が再婚した場合、このまま養育費をもらい続けることができるのか、何かもらい続ける方法があるかと考える方は多くいらっしゃいます。
こうしたケースでは、まずは状況を正確に把握することが肝要です。
つまり、子の年齢・状況(現在、どのような進学先なのかなど)、現在の自分の年収、再婚相手の資力や年収などを考慮に入れなければなりません。
こうしたことを正確に把握した上で、法的にはもらい続けることができそうなのかどうかの見通しを立てていくことになります。
法的にもらい続けることができそうなのであれば、どのくらいの金額になるかを検討していきます。
他方で、法的にはもらい続けることが難しそうな場合は、少しでも負担をお願いできないか、その金額などを模索・交渉していくことが必要になります。
再婚をして養育費をもらい続けることができるかどうかについては、こちらも参考にされてください。
再婚をしても、再婚相手と子どもを養子縁組させなければ、養育費をもらい続けることができますか?
養子縁組という事実は重要ですが、生活実態なども重要となります。
養子縁組に入れないことの是非
自分が再婚をして、再婚相手と養子縁組をした場合に、養育費をもらえなくなるかもしれないという知識をお持ちの方に多いご相談です。
たしかに、養子縁組という事実は、戸籍上にも表記されるため、判断指標としては分かりやすいものといえます。
養子縁組をしなければ、法律上の扶養義務を負っていないため、形式的には、元々の義務者が扶養義務者のままとなり、養育費をもらい続けることができます。
しかし、仮に養子縁組をしなかったとしても、再婚相手との生活の実態、再婚相手が子の養育を引き受けているという実態(一緒に暮らして、毎月の生活費の負担を負っている、あるいは毎月相当の援助をしているなど)がある場合は、実質的に見て扶養義務を負っていると考えられる場合もあります。
そのため、こうした場合は、元々の義務者から養育費の減免の請求があった場合は、認められる可能性もあります。
質問者のように、このまま養育費をもらい続けるために、あえて養子縁組をしないという選択をしたとしても、養育費の金額などに影響が出てくるケースがあるという点に留意が必要です。
養育費をもらい続けたいので、自分が再婚をしたことを相手に知らせたくないのですが、何か問題がありますか?
また、後々のことを考えたとき、他の考慮要素との兼ね合いで慎重な判断が必要です。
再婚を相手に知らせいないことの是非
まず、自身が再婚をした場合、これを相手(元配偶者)に知らせるかどうかは、離婚時の個別の取り決め(例:再婚をした場合は知らせるなど)にもよるため、ご相談の際には、まずは合意内容を確認させていただくことになります。
そして、こうした取り決めがない場合は、これを知らせる必要はないと考えられます。
他方で、再婚時に知らせるという取り決めがある場合は、知らせるべきです。
これが、このご質問に対する、一般的な回答になります。
ただし、離婚時には養育費の取り決めだけではなく、例えば、面会交流(子どもと非監護者が定期的に会う)の取り決めがなされている場合も少なくありません。
そして、定期的に面会交流を実施している中で、あるタイミングで再婚をしたことを知るというケースも、よくあります。
この場面で、今後の養育費の問題が噴出することがあります。
そのため、自身が再婚をした場合に、これを相手(元配偶者)に知らせるかどうかの判断にあたっては、こうした複合的な事情を総合的に考えていく必要があると考えます。
少なくとも、こうした事情変更があった場合、専門家に相談されることは有益といえます。
義務者が、私が再婚・養子縁組したことを知り、養育費の支払いを打ち切ってきました。
どうすればいいですか?
そのため、養育費の請求をするとともに、状況に併せて養育費の見直しを行っていくのが得策です
離婚の際に養育費に関して、合意をしているかどうかが重要
こうしたケースの場合、まずは、離婚の際に養育費に関して、何かしらの合意をしているかどうかが重要になります。
合意をしている場合には、仮に再婚・養子縁組の事実があったとしても、その合意はまだ有効です。
そのため、義務者による養育費の未払いが発生しているといえるため、まずは未払いの養育費の請求をすることになります。
※ここでのポイントは、養育費の合意に関して書面(離婚協議書、公正証書など)での合意をしているとスムーズに請求に入っていくことが可能ということです。
離婚時に口約束しかしていないと、本当に養育費に関する合意があったのかどうかの証明も必要になるためです。
また、未払いの養育費を請求すると同時に、養育費に関する見直しも進めていく必要があります。
再婚・養子縁組という事実は、養育費減免を反乱するための重要な事情変更に該当するためです。
ですので、
- 未払いの養育費の請求をする。
- 養育費の新たな取り決めに向けた協議を行っていく。
の2つがポイントになります。
どちらかが再婚した場合に備えて、「再婚した場合であっても、養育費の取り決めは変更しない。」という内容の合意をしておきたいのですが、このような合意もできますか?
ただし、こうした合意をする際には、慎重な判断が必要です。
合意する際には慎重な判断を
まず、結論としては、当事者同士が納得すれば、このような合意を行うことも可能です(契約自由の原則)。
他方で、こうした合意をするかどうかにあたっては、慎重な判断が求められます。
養育費というのは、将来にわたって、義務者に対して子の養育にかかる各費用の支払いを求めるものです。
将来、子がどのような方向に進むのか(進学など)によって、もしかすると取り決めをする養育費以上の金額が必要になるかもしれません。
そのため、多くのケースでは、こうした取り決めをするのではなく、将来に備えて柔軟に対応できる条項を盛り込んでおきます。
養育費を支払う側(通常男性)に多い相談Q&A
養育費支払いをする人(義務者・通常男性)は、再婚をした場合、「養育費を支払い続けるのが辛い」「どうにかして支払いをなくす、あるいは少なくしたい」という気持ちを持っていることが多いです。
以下では、こうした義務者(通常男性)に多いご相談と回答について、Q&Aの形でお示しいたします。
最近自分が再婚をしたのですが、養育費の金額に影響しますか?
義務者が再婚をした場合、養育費に影響を及ぼす事情変更になる
義務者が再婚をした場合も、養育費に影響を及ぼす事情変更になります。
ただし、子に対する扶養義務は残ったままであるため、養育費の支払い義務自体は残り、実際はどれくらい減額できるかどうかが争点になるケースが多いです。
そして、どれくらい減額(場合によっては免除)できるかどうかを判断するにあたっては、再婚相手の資産や年収、扶養する人数、その他、養育費の合意をした時点と現時点とで他にどのような状況の変化があったのかを確認する必要があります。
最近、相手と離婚をしたのですが、もし、お互いに再婚をした場合に、通知させることはできますか?
こうした内容を合意書に盛り込んでおくことが重要です。
相手が再婚したことを通知させることはできる?
こうした取り決めをしたいという方は多くいらっしゃいます。
結論としては、相手が同意をしていれば可能です。
ただし、口約束ではなく、きちんと書面化しておくことが重要です。
離婚の際には、協議書などを作っておくことが重要ですが、内容に穴がないようにするために、事前に専門家に相談されることをお勧めします。
弊所の離婚協議書診断サービスにつきましては、こちらをご覧ください。
私は相手が再婚したことを知らずに、ずっと養育費を支払い続けていました。
再婚を教えてくれなかった相手から支払った養育費を取り戻すことはできますか?
支払った養育費を取り戻せるのか
再婚をしたことを通知してくれれば、養育費の見直しをすることも可能だったのに、知らせてくれなかったばかりに、本当であれば支払わなくてもよかったはずの養育費を支払い続けることになってしまった。
お気持ちとしては、何とかして取り戻したいと思います。
しかし、現実的には、養育費を取り戻すことは難しいと思われます。
養育費を一旦取り決めた場合、その合意は変更されるまで有効だからです。
つまり、「有効な合意に基づく養育費を支払い続けていた」だけということになるのが原則ですので、返還は難しいということになります。
では、養育費の取り決めの際に、再婚したらお互いに通知をするという約束をしていた場合はどうでしょうか?
通知してもらう約束だったのに、通知してもらえなかったばかりに、支払っていた取り戻す機会を奪われたとも考えられます。
実際は、このようなケースであっても、支払った養育費を取り戻すハードルは高いと思われます。
- 相手の通知義務の違反があったこと
- 損害(支払わなくてよかったはずの養育費)
- これらに因果関係がある
- という構成で返還を求める。
ということも考えられなくはないですが、立証のハードルは相当高いというのが率直な印象です。
養育費の支払いが経済的に苦しいので、養育費を打ち切ろうと思っています。
何か、問題はありますか?
養育費に関する新たな取り決めをする方向で進めていくのがよいと思われます。
養育費の支払いを一方的に打ち切れる?
何の連絡もなく、養育費の支払いを一方的に打ち切ることは避けた方がよいです。
養育費に関する合意をしていた場合、その合意は有効のままです。
そのため、仮に養育費を勝手に打ち切ってしまうと、未払い分の養育費を請求されたり、場合によっては強制執行をされる可能性もあります。
とはいえ、経済的に苦しいという事情があるため、養育費に関する新たな取り決めをするという方向で進めていくことになります。
その場合のポイントは、できる限り早く、養育費減額の意思表示をしておくことです。
例えば、内容証明郵便で減額の意思を表明しておく、養育費の減額調停を申し立てるという方法があります。
新たな取り決めをするにしても、減額の意思表示を行った時点にまで遡らせるためです。
こうした対応については、自身で進めていくことが難しいかと思います。
できる限り早い段階で、養育費の専門家に相談されることをお勧めします。
養育費を打ち切ろうと思うのですが、子どもと会えなくなるのではないかと心配です。
養育費を打ち切ったら子供に会えないのではないか?
養育費の問題と面会交流の問題は、ともに離婚に伴う問題ではありますが、基本的に両者は別の問題ですので、養育費を支払わずに面会交流を続けるということも理屈の上では可能です。
※養育費は子の生活を物質的に支えるもの、面会交流は子の生活を精神的に支えるものというイメージです。
しかし、こうした場合、相手からすると「養育費も支払ってくれないのに、子どもと会おうとしてくる。」「養育費を支払ってくれないのであれば会わせたくない。」と考えても不思議ではありません。
もちろん、理屈どおり「養育費と面会交流の問題は別物」ということを押し通すという方針も1つの考えだとは思いますが、養育費に関する取り決めや今後の面会交流の実施方法等についても、きちんと相手と話し合っていくことが、結果として円滑な面会交流に繋がるという側面もあると思います。
いずれにしても、このような場面では、相手と誠実に協議を行っていくことが重要と考えます。
まとめ
以上、養育費に関して、相手が再婚した場合を解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
再婚が絡むケースでは、個別の事情により色々と検討をしなければならないことがあります。
また、お金の問題であるため、感情が絡んでくることも少なくありません。
こうした問題をできるだけ精神的負担を少なく、適切に解決をするためには、まずは専門家のアドバイスが必要と思われます。
養育費に関してお悩みの方は、この問題に詳しい専門家に相談されることをお勧めします。
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