妻の不貞行為で、別居中です。婚姻費用は払わなければならない?
配偶者の不貞によって別居中であっても、婚姻費用は支払う必要があります。
不貞行為による有責性は、婚姻費用では考慮されず、慰謝料として考慮されるべき事項だからです。
ただし、妻が一方的に不貞行為に及んで家を出て行った場合などには、婚姻費用は減額される可能性があります。
相談事例と弁護士の回答
妻の不貞行為が原因で夫婦仲が悪くなり、現在、別居中ですが、妻から婚姻費用の請求を受けました。
不貞行為を行った妻に対しても、婚姻費用は払わなければならないのでしょうか。
また、妻は子どもにピアノを習わせていますが、ピアノのレッスン料は、婚姻費用とは別に支払わなければならないのでしょうか。
婚姻費用とは、婚姻共同生活の維持を差会える費用で、夫婦の収入・財産に応じた生活水準が必要とする生活費・交通費・医療費等の日常的な支出や、配偶者間の子の養育費・学費・出産費等を含む、婚姻から生ずる費用のことをいいます。
そして、民法上、婚姻費用は、配偶者間で分担すべきものとされています(民法760条)。
そして、その適正額の判断においては、「算定表」による算定方式が定着しています。
では、妻が不貞行為を行っていた場合など、有責性がある場合にも、夫は、婚姻費用として算定表上の適正額を支払わなければならないのでしょうか。
婚姻費用は、子どもがいる場合には、妻のみならず子どもの生活費でもあります。
そして、不貞行為を行ったのは飽くまでも妻であり、子どもには何ら非はありません。
そうである以上は、婚姻費用のうち、少なくとも子どもの生活費(いわゆる養育費)相当部分については、減額は認められません。
では、不貞行為を行った妻の生活費の部分については、どうでしょうか。
これも、原則としては、婚姻費用では考慮されません。
というのも、不貞行為等の有責性については、慰謝料で考慮されるべき事項だからです。
とはいえ、例えば、妻が一方的に不貞行為に及んで家を出て行った場合など、主として妻の側に責任があるといえるような場合には、婚姻費用は減額されると解するのが、裁判所の審判例(例えば、札幌高決昭50.6.30)の傾向です。
では、子どもが、ピアノ等の習い事をしている場合は、婚姻費用は、算定表上の額に月謝等をプラスして支払わなければならないのでしょうか。
この点について、ピアノや日本舞踊等、趣味的な要素が強い場合には、養育費に含まないとした裁判例があります。
そうである以上は、習い事の費用は、婚姻費用にプラスして支払う必要はないといえます。
不貞事案の婚姻費用の問題点
最前線で活動している離婚弁護士が感じる、不貞事案の婚姻費用の問題は以下のとおりです。
不貞行為の認定は簡単ではない
上記のとおり、審判例の中には、妻の不貞行為を理由として婚姻費用を減額した例もあります。
しかし、不貞行為を行ったということを裁判所(審判官)に認定してもらうのは、決して簡単ではありません。
というのは、実務では、相手方が不貞行為を認めていないケースが多いからです。
相手方が不貞行為を認めていないケースでは、あなた(不貞行為を主張する側)に立証責任があり、不貞行為の存在を裏付ける証拠の提出が求められます。
ここで、不貞行為を「性交渉」と定義すると、性交渉そのものの存在を裏付ける証拠というものは、なかなかありません。
不貞行為の証拠について、くわしくは以下のページをご覧ください。
また、相手方が不貞行為自体は認めていたとしても、「すでに破綻していた」などと反論して有責性を争ってくる場合も多くあります。
このように、不貞事案で婚姻費用が問題となるケースでは争点が複雑化するため、裁判所がどう認定するか、離婚専門の弁護士でなければ判断は容易ではありません。
婚姻費用は適正額を判断するのが難しい
婚姻費用は、基本的には夫婦双方の年収をもとに判断されます。年収というと、一見簡単そうですが、給与所得者の場合は、税込みの年収を正確に調査しなければなりません。
そのためには源泉徴収票や所得証明書で確認する必要があります。
また、自営業者の場合は確定申告書を確認する必要があります。
確定申告書のどこを確認すべきか、離婚専門の弁護士でなければ判断が難しいと考えられます。
さらに、相手方の住宅ローン、家賃、携帯の料金、保険などの生活費の一部を負担している場合、それらを考慮して婚姻費用を算定します。
これらの判断は専門的知識や経験がないと難しいといえます。
不貞行為がある婚姻費用の事案を解決するコツ
妻が不貞行為を行った事案では共通した傾向が見られます。
上記の問題点を踏まえて、適切な婚姻費用とするためのコツについて、解説するので参考にされてください。
不貞行為の証拠を集めるコツ
妻側が不貞行為を認めている場合、証拠は必要ではありません。
しかし、ご質問の事案では、不貞行為を行った妻が、婚姻費用を請求してきている事案ですので、不貞行為があったと素直に認めてくれない可能性があります。
また、当初、不貞行為を認めていても、裁判等において、否認に転ずるケースもあります。
そのため、不貞行為の証拠はあった方が安心できます。
では、どのような証拠があればよいか。
不貞行為の証拠として、実務上、提出されることが多いものを参考としてご紹介します。
費用はかかるが、不貞行為の証拠として証拠価値が高い場合が多い。
ただし、調査会社の調査能力や具体的な状況によって証明力が異なる。
LINE、Facebook、Twitter、メールなどのやり取りを写真撮影して証拠として提出する。
不貞行為の立証のためには性交渉を裏付けるようなやり取りが望ましい。
不貞行為の立証のためには肉体関係にあること等をうかがわせる内容が望ましい。
不貞行為の証拠の集め方について詳しくは以下ページをご覧ください。
婚姻費用を把握するコツ
ここでは、素人の方が婚姻費用についての適切額を算出するためのポイントをご紹介します。
婚姻費用は、双方の所得と子どもの数・年齢で基本的には算定可能です。
所得の調査
所得については、給与所得者と自営業者の場合で把握する方法が異なります。
給与所得者の場合
年収(税込みのもの)で把握します。
年収は、源泉徴収票であれば、「支払金額」と記載されている欄にある数字です。
源泉徴収票が手元になければ、所得証明書を役場で発行してもらうことで確認できます。
ただし、相手方の分については、基本的に委任状が必要だと思われます。
年収の確認方法については以下ページをご覧ください。
自営業者の場合
基本的には、「課税所得金額」を確定申告書で確認します。
年収の確認方法については以下ページをご覧ください。
適正額の調査
双方の所得がわかったら、それをベースに婚姻費用の適正額を算定します。
正確には、計算式を用いるのですが、やや複雑ですので、「算定表」という早見表を用います。
算定表は、迅速におよその適正額を把握できるので、実務上も活用されています。
算定表については、「婚姻費用算定表」をご覧ください。
上記の算定表は、表10〜表19までありますが、子どもの数や年齢に応じて該当する表を使用します。
「義務者」に婚姻費用を支払う側の年収を、「権利者」に婚姻費用をもらう側の年収を当てはめ、交差する部分の枠内に記載されている金額が適正額となります。
算定表の見方について、詳しくは以下のページもご覧ください。
以上が婚姻費用の把握の仕方となります。
もっとも、婚姻費用については、前記でご紹介したとおり、素人考えはできるだけやめるべきです。
ある程度については素人の方でも把握することが可能ですが、参考程度にとどめてください。
婚姻費用について、適正額を知りたい方は、以下の養育費の自動計算ツールもご参考にされてください。
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