養育費に時効はありますか?【弁護士が徹底解説】

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA


養育費の時効は、毎月の支払日から5年です(民法166条1項1号)。

養育費の時効がいつ成立するかは、養育費をもらう側・支払う側双方にとって、重大な影響を及ぼします。

しかし、法律の規定はとても難しく、具体的にいつ時効が完成するか、不明瞭です。

ここでは、養育費と時効の問題について、離婚問題に注力する弁護士が具体例を示しながら、わかりやすく解説いたします。

養育費でお困りの方は参考になさってください。

養育費の時効とは

養育費の時効は、毎月の支払日から5年です(民法166条1項1号)。

根拠条文
(債権等の消滅時効)
第166条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
②権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
(略)

引用元:民法|e-Gov法令検索

 

ワンポイント:養育費の時効の起算点とは?

上の民法166条を見ると、時効の起算点は「権利者が権利を行使することができることを知った時」と記載されています。

養育費については、通常「毎月月末までに支払う」などの合意がなされます。

なお、裁判や審判の場合は、「毎月月末までに支払え」などの命令が出されます。

養育費については、特別な事情がない限り、養育費をもらう側(権利者)は、毎月支払日(上の例では月末)の到来をもって、「権利を行使できること」を知っているはずです。

したがって、毎月の支払い日から、5年が経過すると、消滅時効にかかると考えるべきでしょう。

なお、何らかの事情で、権利行使できることを知らなかった場合でも、10年間で時効が完成します(民法166条1項2号)。

 

未払いの養育費は取り決めの内容によって時効の期間が異なる

養育費の時効は原則として5年間ですが、後述するように裁判や調停など裁判所の手続きで決まった場合、過去の未払い養育費の時効が10年に延長されます。

取り決め内容 将来分の養育費 過去の養育費 備考
当事者間の協議による合意 5年
(月ごとに時効が進行)
5年 口頭の合意や不適切な書面は合意の存在が否定される可能性あり。
公正証書 5年
(月ごとに時効が進行)
5年
調停 5年
(月ごとに時効が進行)
10年間
判決 5年
(月ごとに時効が進行)
10年間

 

養育費の取り決めなしの場合の時効

将来の養育費について

養育費の取り決めがない場合は、時効は進行しないと考えられます。

したがって、養育費をもらう側は、いつでも相手に養育費を請求できます。

ただし、養育費は基本的に20歳までです。

※子供が大学等に進学している場合、20歳を超えても認められるケースもあります。

例えば、子供が10歳で、これまで養育費を請求してこなかった方は、今後少なくとも20歳までの養育費を請求できます。

 

過去の養育費について

上の現在子供が10歳のケースで、これまで養育費を請求してこなかった方が、過去の養育費を請求できるのでしょうか。

過去の養育費について、裁判所は否定する傾向です。

すなわち、養育費は、請求の意思が明確になった時点から請求できると考えられます。

例えば、「請求の意思が明確になった時点」とは、養育費の調停を申立てる、弁護士名で内容証明郵便を送付する、などです。

したがって、これまで養育費を請求してこなかった方は、できるだけ速やかに、専門家に相談するようにしましょう。

 

 

養育費が調停や裁判で決まった場合の時効

具体例で分かりやすく説明したいと思います。

例えば、養育費の調停において、以下のような条項が定められることがしばしばあります。

第1項
相手方は、申立人に対し、(当事者間の子)の令和4年12月までの未払い養育費として、30万円の支払義務があることを認め、申立人が指定する口座に振り込む方法により支払う。

第2項
相手方は、申立人に対し、(当事者間の子)の養育費として、令和5年1月から同人らがそれぞれ20歳に達する月まで、1人あたり月額3万円を支払うこととし、毎月末日限り、申立人が指定する口座に振り込む方法により支払う。

第1項

過去の養育費についての規定です。

これが、調停調書になっていますので、過去の未払い分についての消滅時効は、10年になるわけです。

もっとも、前述のとおり、この消滅時効が5年から10年に延長されるのは、あくまでも、過去の未払い分についてだけです。

第2項

第2項で定められた将来分の養育費については、調停調書で定められたとしても、消滅時効は5年のままということになります。

 

 

公正証書で取り決めた場合の養育費の時効

これに関連して、過去の未払い分の養育費の支払義務について、公正証書で定めたとしたら、消滅時効はどうなるのでしょうか。

養育費を取り決める公正証書には、通常、強制執行の認諾文言を入れることが多く、その場合は、訴訟を経ないでも直接、強制執行が可能です。

そのため、前述の「確定判決と同一の効力」の要件を満たすとも思えるため問題となります。

この点、養育費ではなく、賃金の例で、東京高裁(昭和56年9月29日)は、強制執行認諾文言付きの公正証書について、「執行力があっても既判力がないから、民法174条の2第1項(※民法改正後は169条1項)に規定する確定判決と同一の効力を有するものにより確定した権利には該当しない」旨の判断を示しています。

執行力と既判力については、ここでは扱いませんが、要するに、公正証書と調停調書等は、時効との関係では別ということです。

 

 

養育費をもらう権利の消滅も注意

将来発生する(毎月もらうことができる)養育費については、上述のとおり、5年間の消滅時効にかかります。

具体例 令和5年1月から月額3万円の養育費を毎月月末までに支払う

この場合、令和5年1月の養育費は支払期限である令和5年1月31日の翌日である2月1日から時効期間がスタートすることになり、令和10年1月31日の経過をもって、令和5年1月分の養育費は消滅時効にかかるということになります。

養育費の消滅時効

この消滅時効は、あくまで令和5年1月分の養育費(毎月発生する権利・これを「支分権」といいます。)についてのみ適用されます。

しかし、仮に、養育費がその後も一切支払われず、10年間(令和15年1月31日まで)放っておいた場合、養育費をもらう権利そのもの(これを「基本権」といいます。)が時効で消滅してしまう可能性があります(民法168条1項)。

つまり、養育費については、「権利を行使することができることを知った時」から「毎月発生する養育費の請求権」は5年で時効にかかり、「養育費をもらう権利そのもの」は10年で時効にかかります。

「権利を行使することができることを知った時」に該当するか否かについては争いの余地があるかと思いますが、養育費については長期間放置しないことをおすすめいたします。

10年間何も手を打たないと、その後に発生する養育費についても請求できなくなるおそれがあるため注意してください。

根拠条文
(定期金債権の消滅時効)
第百六十八条 定期金の債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から十年間行使しないとき。
二 前号に規定する各債権を行使することができる時から二十年間行使しないとき。
(略)

引用元:民法|e-Gov法令検索

 

民法168条についてのワンポイント:法律家向け

養育費は定期的に受け取ることができる金銭なので、支分権(毎月請求できる養育費)にも民法168条が適用されそうにも見えます。

しかし、上記民法168条をよく見ると、①「定期金の債権」(1項柱書)と②「定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権」(1項1号)が使い分けられています。

①「定期金の債権」が基本権で、②「定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権」が支分権と位置づけられています。

②を行使できることを知ったときから10年間何もしないと、①の基本権(養育費をもらう権利そのもの)が時効消滅するという条文構造となっていることがわかります。

すなわち、民法168条はあくまで基本権に関する規定であり、毎月発生する養育費の請求権については、民法166条が適用されます(5年間の消滅時効)。

なお、改正民法が施行された2020年4月1日より前に債権が生じた場合の消滅時効期間は、改正前の規定が適用されるので注意してください。

改正前の民法の条文については下記をご参考にされてください。

改正前民法168条は基本権(養育費そのものの権利等)で、改正前169条は支分権(毎月請求できる養育費等)に関する条文となります。

【参考:改正前民法】
(定期金債権の消滅時効)
第百六十八条 定期金の債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
第百六十八条 定期金の債権は、第一回の弁済期から二十年間行使しないときは、消滅する。最後の弁済期から十年間行使しないときも、同様とする。
2 定期金の債権者は、時効の中断の証拠を得るため、いつでも、その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。(定期給付債権の短期消滅時効)
第百六十九条 年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、五年間行使しないときは、消滅する。

 

 

養育費と時効の問題点

養育費と時効のケースでは、共通の問題点が見受けられます。

養育費に精通した離婚弁護士が時効の問題点について解説するので参考にされてください。

 

養育費は書面による取り決めがなかった場合は請求できない?

当事務所には、養育費に関する多くの相談が寄せられています。

養育費に関する相談の中で多いのは、「過去の養育費を遡って支払ってもらえますか?」というものです。

養育費について、公正証書など、法的に有効な書面で決めをしていなかった場合は、支払ってもらえる可能性は低くなってしまいます。

すなわち、養育費は、法的には書面ではなくとも、口約束であっても、合意が成立し、その合意で定めた額の支払い義務が発生すると考えられます。

しかし、養育費について、適切な合意書を交わさず、口約束で済ませた場合、後々、相手(養育費の支払い義務者)が合意の存在を否定することがあります。

この場合、言った言わないの争いとなり、合意の存在を立証できないため、未払い養育費の請求は認められない可能性があるのです。

 

 

養育費の時効を中断できるのに中断しない

養育費は、何もしないと時効が進行してしまいますが、実は、この進行を中断することができます。

イメージとしては、ストップウォッチの一時停止ともいえます。

時効中断の方法には、①請求、②差押え、仮差押え又は仮処分、③承認の3つがあります(民法147条)。

また、催告すれば、6ヶ月間時効が中断されます。この催告の場合は、6ヶ月以内に、裁判上の請求や調停の申立て、差押え等をしなければ、時効の中断の効力が生じません(民法153条)。

これらの内容等についてまとめると下表のとおりとなります。

時効中断の種類 内容 具体例
請求 裁判上の請求をいう。
※単なる口頭の請求等は含まれないので注意。
養育費分担調停の申立て

離婚訴訟の提起(附帯処分として養育費の申立て)

差押え、仮差押え又は仮処分 養育費の支払い義務者に対する強制執行 給与の差し押さえなど
承認 養育費の支払い義務者が支払い義務の存在を認めること。 支払い義務を認める書面の作成、誓約書など。
「支払う」など、口頭の場合は立証が問題。
催告 養育費を支払うよう督促する。 内容証明郵便等によって養育費を請求

養育費は、上記の中断措置を取らなければ、時効が進行し、支払ってもらえなくなる可能性が高くなっていきます。

しかし、このような中断措置を知らない方が多いため注意が必要です。

 

 

養育費と時効の3つのポイント

上記の問題点を踏まえて、養育費と時効のポイントについて、解説します。

養育費と時効の3つのポイント

 

【POINT①】養育費について法的に有効な合意書を作成する

養育費については、トラブルを防止するために、口約束ではなく、法的に有効な合意書を作成すべきです。

必ずしも、公正証書にする必要はありませんが、専門家に助言をもらって適切な書面を作成するようにされてください。

素人判断で、適当な書面を作成すると、合意書としての効力が認められない可能性があるため注意が必要です。

なお、当事務所は、離婚協議書や公正証書についてのサンプル(書き方の見本)をホームページに掲載しており、無料でダウンロード可能です。

サンプルについては以下のページをご覧ください。

ただし、あくまで参考程度にとどめ、離婚の専門弁護士の助言をもらうことをお勧めいています。

 

【POINT②】養育費の時効を中断する

養育費は、時効が進行すると、回収可能性が低下してしまいます。

相手が養育費を支払ってくれない場合、泣き寝入りするのではなく、まずは時効中断の措置をとるべきです。

特に、支払い期が到来してから5年近く経っている場合、時効が完成する可能性が高いため注意が必要です。

また、中断の方法については、上述したとおり、離婚調停のほか、給与の差押えなどでも可能です。

どの方法が適切かは離婚専門の弁護士に助言をもらとよいでしょう。

 

【POINT③】養育費は時効が完成していても諦める必要はない

養育費は、時効が完成していても、法的には当然に請求できないわけではありません。

すなわち、時効によって、支払い義務を消滅させるためには、養育費の支払い義務者側が時効を援用しなければなりません。

例えば、養育費の支払い期が到来してから5年以上経っていても、相手に養育費を請求し、相手が任意に支払ってくれれば問題はありません。

したがって、時効が完成しているからといって諦める必要はないのです。

 

 

未払い養育費が発生している方はお早めに弁護士へご相談ください

このように、過去の未払い養育費がある方は、特に、消滅時効に注意が必要です。

養育費について、以下もあわせてご覧ください。

詳しくは、この問題に詳しい、当事者の弁護士にご相談ください。

弁護士へのご相談は以下からどうぞ。

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まとめ

養育費の時効が問題となるケースでは、上記のように、専門的知識やノウハウを必要とします。

問題点やポイントについて、一通り解説しましたが、具体的な状況に応じてとるべき戦略は異なります。

そのため、離婚専門の弁護士に具体的な状況を伝えて、適確なアドバイスを受けるようにされてください。

当事務所では、離婚事件チームに所属する弁護士が離婚問題について親身になってご相談に応じております。

ご相談については以下をご覧ください。

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