親権を放棄できる?お互い「親権はいらない」と主張できる?
親権を自由に放棄することはできません。
ただし、やむを得ない事情がある場合は裁判所の許可を得て辞任することができます。
また、離婚する場合は、父母の一方を親権者と定めれば、他方は親権を手放すことができます。
しかし、父母双方が「親権はいらない」と主張し、親権を押し付け合うケースもあります。
ここでは、親権を手放すことができるのか、子どもの父母がお互いに親権を手放したい場合はどうなるのかについて、解説していきます。
親権とは?
親権とは、簡単に言うと、子どもの身の回りの世話をしたり、子どもの財産を管理したりするため、その父母に認められる権利や義務のことをいいます。
親権は、①身上監護権と②財産管理権の2つの内容に大きく分けられます。
①身上監護権とは、簡単に言うと、子どもと一緒に暮らして子どもを育てるための権利義務のことをいいます。
具体的には、次のような権利義務を内容とします。
監護教育権 | 子どもの監護(身体的な育成を図ること)と教育(精神的な発達を図ること)をする権利義務(民法820条) |
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居所指定権 | 子どもの住む場所を決める権利義務(民法822条) |
職業許可権 | 子どもの職業を許可、取消、制限する権利義務(民法823条) |
②財産管理権とは、子どもの財産を管理したり、その財産に関する法律行為(契約など)を代理で行う権利義務のことをいいます(民法824条)。
なお、財産に関するものではない行為(「身分行為」といいます。)は、民法上に明文規定がある場合に限って親権者が代理で行うことができるとされています。
例えば、15歳未満の子の養子縁組の代諾(民法797条1項)などです。
参考:民法|e-Gov法令検索
親権を放棄できる?
親権には、権利のみならず義務の側面もあります。
そのため、親権を自由に放棄することはできません。
ただし、「やむを得ない事由があるとき」は、家庭裁判所の許可を得て親権を辞任することができます。
また、離婚する場合は、一方が単独で親権者となることで、他方は親権を手放すことができます。
離婚後は、親権者変更の手続により親権を手放すことができる場合があります。
以下、ケース別に見ていきましょう。
1 父母が婚姻中の場合
子どもの父母が結婚している間は、原則として父母双方が共同で親権を持つものとされています(共同親権)。
そして、父母の一方又は双方が親権を放棄したいと思っても、自由に放棄することはできません。
ただし、「やむを得ない事由があるとき」は、家庭裁判所の許可を得て、親権を辞任することができます(民法837条1項)。
参考:民法|e-Gov法令検索
「やむを得ない事由がある」と認められ得るのは、重病による長期入院、刑事施設への収容、海外転勤などによって長期間に渡り親権を行使することが困難な事情があるような場合です。
上記のような客観的な事情なく、単に「子育てをしたくない」などといった主観的な事情があるだけでは、辞任は認められません。
なお、親権を辞任した場合は、「やむを得ない事由」が消滅したときには、同様に家庭裁判所の許可を得て親権を回復することができます(民法837条2項)。
参考:民法|e-Gov法令検索
虐待や育児放棄、あるいは重病などで親権の行使が困難又は不適切な場合は、子どもの利益を守るため、親権者の意思にかかわらず、裁判所の決定により強制的に親権が制限される場合があります。
このような親権を制限する制度には、2年以内の期間に限って親権を失わせる親権停止(民法834条の2第1項)と、期間の限定なく親権を失わせる親権喪失があります(民法834条)。
参考:民法|e-Gov法令検索
2 父母が離婚する場合
子どもの父母が離婚をする場合は、父母の双方又は一方を親権者と定める必要があります(※)。
その際、父母の一方を単独で親権者と定める場合は、他方は親権を手放すことができます。
親権は、夫婦間の協議によって決めることができます。
したがって、相手が相手の単独親権とすることに合意してくれる場合、自分は親権を手放すことができます。
一方、協議によって決めることができない場合は、裁判所が子どもの利益の観点から、共同親権か、単独親権か、単独親権の場合は父母のどちらを親権者とするべきかを判断することになります。
その結果、相手の単独親権とするべきとの内容の判決が得られれば、自分は親権を手放すことができます。
(※)親権を定める民法は、改正法が2024年5月に成立し、2026年5月までに施行されます。ここでは、改正法の施行後の場合を前提に解説しています。なお、改正前においては、父母の離婚後は必ず単独親権となります。
3 父母が既に離婚している場合
相手(子どもの父又は母)と既に離婚しており、自分が子どもの単独又は共同の親権者となっている場合、親権者変更の手続によって相手の単独親権に変更することができれば、自分は親権を手放すことができます。
親権は、いったん取り決めをした後でも、家庭裁判所の手続(調停又は審判)により変更をすることができます(民法819条6項)。
参考:民法|e-Gov法令検索
変更が認められるためには、「子どもの利益のために必要がある」と認められる必要があります。
この点、状況にもよりますが、相手も親権者変更に同意しており、かつ監護体制もきちんと整えているような場合であれば、変更が認められる可能性は高いでしょう。
他方で、相手が親権者変更を拒否しているような場合は、変更が認められるのは難しくなると考えられます。
また、相手が死亡している場合や、相手が親権喪失又は停止の審判を受けている場合、その他相手に親権者として不適切な事情があるような場合も、相手の単独親権への変更はできません。
このように親権者変更が困難・不可能な場合、親権を手放す手段としては、親権の辞任(民法827条)が考えられます。
ただし、先にも述べたように、親権の辞任には「やむを得ない事由」が必要になります。
離婚後の場合は、重病や服役などの他にも、再婚により子どもの養育環境が悪くなる(再婚相手が子どもに虐待しているなど)といった事情も、「やむを得ない事由」として認められる可能性があります。
一方、親権の辞任が認められるかどうかの判断においては、一方の親権者の存否も考慮要素となりますから、一方の親が親権者になることができない場合は、辞任が認められにくくなる可能性もあります。
子どもの父母双方が親権を辞任したり、親権の制限を受けたりして、親権者が一人もいない状態になった場合は、未成年後見が開始されます(民法838条1項)。
未成年後見とは、親権者が不在となった未成年者を保護するために、裁判所に選任された未成年後見人が当該未成年の身上監護や財産管理を行う制度です。
両親とも親権を押し付けあったらどうなる?
親権者を決めなければ離婚することはできない
子どもの父母が離婚する場合は、共同親権とするか、単独親権とするか、単独親権にするとして父母のどちらを親権者とするかを決める必要があります。
このとき、父母の双方が「親権はいらない」と言って、お互いに相手方が単独で親権者となるべきだと主張する場合があります。
このように、お互いが親権を押し付け合い、親権をどうするかを決められない間は、離婚をすることはできません。
離婚をするためには、必ず親権をどうするか決めなければならず、父母の協議で決められない場合は最終的には裁判所が決めることになります。
裁判所は、父母双方の監護能力・意欲、これまでの監護状況、子どもの意向など様々な事情を考慮した上で、子どもの利益の観点から親権をどうするか決めることになります。
その際、父母が親権者となることを拒否しているという事情は考慮されますが、拒否しているというだけでは親権者に選ばれないということにはなりません。
したがって、裁判において、親権者となることを拒否したとしても、裁判所に親権者にふさわしいと判断されれば、親権者に指定されることになります。
子どもを育てられない場合はどうする?
親権の放棄はできないものの、実際に子どもを育てることができない場合は、父母以外の第三者に養育監護を頼むことが考えられます。
例えば、父母の両親(子どもの祖父母)や親戚に養育監護を委託する、児童養護施設に入所させる又は里親制度(親もとでは育てられない子どもを他の一般家庭で受け入れて育てる制度)を利用することなどがあります。
また、養育監護を引き受けてくれる人に、子どもと養子縁組をしてくれるよう打診することも考えられます。
第三者に養育監護を頼むだけでは、親権を手放すことにはなりませんから、親権者としての義務は引き続き全うしなければなりません。
他方で、養子縁組をする場合は、養親が親権者となりますから、実親は親権を手放すことになります(民法818条2項)。
参考:民法|e-Gov法令検索
もっとも、養子縁組をすると養親と養子の間には法律上の親子関係が生じ、その関係は子どもが成人し親権に服さなくなった後も継続することになります。
養親や子どもの将来に及ぼす影響は大きいため、養子縁組については、具体的な状況を踏まえて慎重な検討をする必要があるでしょう。
なお、経済的な事情で子どもが育てられないという場合は、養育費の請求、生活保護の受給、母子生活支援施設への入所、その他公的扶助の受給などにより、子育てができる環境を整えることも考えられます。
お困りの場合は、離婚問題に詳しい弁護士や自治体の子育て支援の窓口などに相談されることをおすすめします。
親権の放棄についてのQ&A
親権を手放すデメリットは?
親権を手放しても、親であることに変わりはなく、子どもとの関係が切れるわけではありません。
子どもの利益を害する事情がない限りは、面会交流(子どもと離れて暮らす親が子どもと会うなどして交流すること)もすることができます。
しかし、親権がないと、当然には子どもと一緒に暮らして日常的に子育てをすることはできないため、子どもと過ごす時間は限られます。
また、子どもの生活状況や親権者との関係性などによっては、面会交流もスムーズに行うことができず、子どもと疎遠になってしまうこともあります。
親権を父親に譲るのは間違っていますか?
重要なのは、「母親だから・父親だから」ということではなく、具体的な状況をもとに、子どもにとっては何が一番よいかを考えることです。
子どもの利益を最優先に考えた結果、父親に親権を譲るのがよいとの結論に至ったのであれば問題はありません。
まとめ
以上、親権を手放すことができるのか、子どもの父母がお互いに親権を手放したい場合はどうなるのかについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。
親権は自由に放棄することはできませんが、やむを得ない場合は裁判所の許可を得て辞任することができます。
また、子どもの父母が離婚する場合、一方の親のみを親権者と定めることで、他方の親は親権を手放すことができます。
さらに、離婚後も親権者変更の手続きにより、親権を手放すことができる場合があります。
適切な解決方法は状況により異なりますので、親権についてお困りの場合は離婚問題に詳しい弁護士にご相談ください。
当事務所には、離婚問題を専門的に扱う弁護士のみで構成される離婚事件チームがあり、親権問題にお困りの方を強力にサポートしています。
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