親権喪失とは?要件や手続きの流れを解説
親権喪失とは、期限の定めなく、親権者から親権を失わせる制度です。
虐待がある場合など、事態が深刻なとき、子どもやその親族、児童相談所長などの請求により、家庭裁判所は親権喪失の審判をすることができます。
親権喪失の審判を受けた親権者は、審判が取り消されない限りは親権を行使することができなくなります。
ここでは、親権喪失について、要件や手続きの流れなどについて解説していきます。
親権喪失とは?
親権喪失とは、期限の定めなく、親権者から親権を失わせる制度です。
親権は、子どもの利益のために行使されなければなりません。
親権者が虐待や育児放棄をしている場合など、親権の行使が困難又は不適切なときは、子どもの利益を守るために親権を制限する必要があります。
親権喪失は、「親権の行使が著しく困難又は不適切で子どもの利益が著しく害されるとき」という深刻・重大な事態の場合に、審判(裁判所の決定)によって親権を制限する制度です。
親権喪失の審判を受けた親権者は、審判が取り消されない限りは親権を行使することができなくなります。
(親権喪失の審判)
第八百三十四条 父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。ただし、二年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない。
参考:民法|e-Gov法令検索
親権とは
親権とは、子どもと一緒に生活して子どもを育てたり、子どもの財産を管理したりするために、その父母に認められる権利や義務のことをいいます。
親権の内容
親権の内容は、身上監護権と財産管理権に大きく分けられます。
身上監護権とは、子どもと一緒に生活をして子どもの身の回りの世話(監護)をしたり、教育をしたりするための権利義務です。
監護教育権(民法820条)の他、居所指定権(同法822条)や、職業許可権(同法832条)が含まれます。
財産管理権とは、子どもの財産を管理し、かつ、子どもの財産に関する法律行為を代理で行う権利義務です(同法824条)。
なお、養子縁組や氏の変更など、身分に関わる行為については、法律に定めがあるもののみ親権者が代理で行うことができます。
参考:民法|e-Gov法令検索
親権は子の利益のために行使されなければならない
親権は、子の利益のために行使されるべきものとされています(民法820条)。
行使態様は親権者の自由ではあるものの、それが子どもの利益を害するものであってはいけません。
”しつけ”のつもりであっても、子どもの身体や人格を傷つけてはならないのは当然のことです。
また、例えば、子どもを有害・危険な職業に就かせたりすることは職業許可権の濫用となります。
なお、監護教育に当たり、「子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない」ことは明文で規定されています(民法821条)。
参考:民法|e-Gov法令検索
この規定は、児童虐待防止を目的に、令和4年(2022年)の民法改正で、懲戒権の削除と同時に新設されたものです。
以上のように、現在では、親権はもっぱら子どもの利益のために行使されるべきものであり、子どもの利益を害するような親権行使は禁止されるということが法文上でも明確に示されています。
親権を行使する人
親権は子どもの父母に認められた権利義務ですが、誰が親権を持ち、親権を行使するのかは、子どもの父母の状況によって異なります。
子どもの父母が婚姻中の場合は、父母双方が親権を持ち、原則として父母が共同で親権を行使します。
父母の一方が行方不明や長期入院などにより親権を行使することができない場合は、他方が単独で親権を行使します。
なお、子どもが養子縁組をした場合は、養親が親権を持つことになり、実親は親権を行使することはできなくなります。
子どもの父母が婚姻中の場合は、父母双方が親権を持ち、原則として父母が共同で親権を行使します。父母の一方が行方不明や長期入院などにより親権を行使することができない場合は、他方が単独で親権を行使します。
なお、子どもが養子縁組をした場合は、養親が親権を持つことになり、実親は親権を行使することはできなくなります。
子どもの父母が離婚した場合は、父母の一方又は双方が親権を持ち、単独又は共同で親権を行使することになります(※)。
父母の一方を親権者とするか、双方を親権者とするかは、父母の協議によって決め、協議によって決めることができない場合は裁判所が定めます。
(※)2024年の民法改正により離婚後も共同親権が選択できるようになり、改正後の法律は2026年5月までに施行されます。この記事では共同親権施行後の場合を前提にしています。なお、共同親権の施行前においては、離婚後は必ず単独親権となります。
子どもが生まれたときに母が父と結婚していない場合は、原則として母が単独で親権を行使します。
ただし、父が認知した子については、父母の協議もしくは裁判所の決定により父母の双方又は父を親権者と定めることができます(※)。
この場合は、父母が共同で、又は父が単独で親権を行使することになります。子の出生前に父母が離婚した場合も同様です。
(※)共同親権の施行前においては、父を親権者と定めたときに限り、父が単独で親権を行使します(民法819条4項)。父母が婚姻していない場合は必ず単独親権となります。
参考:民法|e-Gov法令検索
親権に服する子ども
親権に服するのは「成年に達しない子」です(民法818条1項)。
そして、現在では成年年齢は18歳とされています(民法4条)。
参考:民法|e-Gov法令検索
したがって、親権を行使できるのは、子どもが満18歳に達するまでであり、子どもが満18歳に達すると親権は消滅します。
親権喪失の要件
① 父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき
親権喪失の審判ができるのは、「父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」とされています。
親権の行使が著しく困難又は不適当であることの例示として、「虐待又は悪意の遺棄」が挙げられています。
「虐待」とは、子どもを身体的又は精神的に過酷に扱うことをいいます。
「悪意の遺棄」とは、正当な理由がないのに著しく監護養育の義務を怠ることをいいます。
児童虐待の防止等に関する法律では、児童虐待には次の4つの類型が定義されています。
類型 | 定義 | 具体例 |
---|---|---|
身体的虐待 | 身体に外傷が生じ又は生じる恐れのある暴行を加えること | 殴る、蹴るなど |
性的虐待 | 子どもにわいせつな行為をしたりさせたりすること | 子どもへの性交、性的暴行、性的行為の強要など |
ネグレクト | 保護者としての監護を著しく怠ること | 食事を与えない、長時間放置する、保護者以外の者による虐待行為を放置するなど |
心理的虐待 | 子どもに著しい心理的外傷を与える言動を行うこと | 自尊心を傷つける言動、拒絶的な態度、子どもの面前で配偶者に暴力を振るうなど |
「親権の行使が著しく困難」とは、精神的又は身体的故障等により適切な親権の行使が不可能であるか又はこれに近い状態にあることを意味します。
親権喪失は、子どもの利益を守るためのものであるため、親権者が重病の場合など、親権者に落ち度がない場合でも、この要件に該当し得ます。
また、「親権の行使が著しく不適当である」とは、子を虐待し、又は通常未成年の子の養育に必要な措置をほとんどとっていないなど、親権行使の方法が適切を欠く程度が高い場合であることや、父又は母に親権の行使をさせることが子の健全な成育等のために著しく不適当であることを意味します。
虐待や悪意の遺棄が典型例とされていますが、これらに限定されているわけではありません。
ポイントは、親権行使が困難又は不適当な程度が「著しい」ということです。
親権喪失は、無期限で親権を失わせるという強力な効果を持ちます。
いったん親権を喪失すると、親子関係を修復することが難しくなり、将来に渡り親子関係に重大な影響を及ぼすことになる恐れもあります。
そのため、親権喪失の要件は厳格に設定されており、深刻・重大な事案に限って認められるようになっています。
親権を喪失させるほどではない比較的程度の軽い事案や、一時的に親権を制限すれば子どもの利益を守ることができるような事案では、2年以内の期限付きで親権を制限する親権停止の制度が活用されています。
統計によると、令和5年(2023年)1月~12月の親権喪失の審判申立事件(既済)は81件、対して親権停止は218件だったとのことです。
なお、親権喪失の81件のうち認容されたのは24件とのことです。
虐待や悪意の遺棄がある場合は、子どもの利益が害されることは明らかですが、それらが子どもに与えた影響や子どもの意思など、その他の事情も考慮されたうえで、子どもの心身の成長や人格形成に重大な影響を与えるものかどうか判断されます。
② 2年以内に親権喪失の原因が消滅する見込みがないこと
親権喪失の原因がある場合であっても、それが2年以内に消滅する見込みがある場合は、親権喪失の審判をすることはできないとされています。
2年以内に消滅する見込みがある場合は、期間を区切って親権を制限すればよいため、親権喪失ではなく、親権停止の制度を活用することが考えられます。
③ 子、その親族、児童相談所長などの請求によること
親権喪失の審判の申立てができるのは、民法上は子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官とされています。
これに加え、児童福祉法33条の7により児童相談所長にも申立権が与えられています。
親権喪失と親権停止との違い
親権停止とは、2年以内の期間に限って親権を行使できないようにさせる制度です。
親権喪失との違いは次のとおりです。
親権停止 | 親権喪失 | |
---|---|---|
程度 |
|
|
制限期間 | 2年以内 | 無期限 |
その他 | ― | 喪失の原因があっても、それが2年以内に消滅する見込みがあるときは親権喪失の審判はできない |
親権停止の制度は、平成23年(2011年)の民法改正で新設された制度です。
かつては親権喪失の制度しかなく、その規定も、「家庭裁判所は、父又は母が、親権を濫用し、又は著しく不行跡であるときに親権喪失の宣告をすることができる」というものでした。
親権喪失については、親権を無期限で失わせるという強力な効果を持つため、要件も厳格で、いったん親権を喪失すると親子関係を再構築することが難しくなる恐れもあるため、活用しにくいとの指摘がありました。
それを受けて、要件・効果を緩和し、親権を喪失させるほどではない比較的軽微な事案や、一時的に親権を制限すれば足りる事案などでも、柔軟に活用できるようにと創設されたのが親権停止の制度です。
そのため、親権停止の要件は、親権喪失よりも緩和されたものになっています。
なお、親権停止の制度の創設に伴い、親権喪失の原因も見直され、現在の規定に改められました。
しかし、これは要件が明確化されたものであり、親権喪失の制度趣旨が変わったわけではありません。
(親権停止の審判)
第八百三十四条の二 父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる。
2 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。
引用:民法|e-Gov法令検索
親権喪失と管理権喪失との違い
管理権喪失とは、父又は母の管理権を喪失させる制度です。
管理権とは、親権の内容のうちの財産管理権を指します。
父又は母による監護養育は問題なくても、子どもの財産管理や法律行為の代理をするのが困難又は不適当である場合があります。
例えば、親権者が子どもの財産をギャンブルに費消して減少させたり、その恐れがあるような場合です。
そのような場合は、子どもの利益を守るため、子やその親族等の請求により、裁判所が管理権喪失の審判をすることができます。
管理権喪失の審判を受けた親は、その審判が取り消されない限りは、子どもの財産管理や法律行為の代理をすることはできなくなります。
共同親権者の一方のみが管理権喪失の審判を受けた場合は、審判を受けていない他方が単独で管理権を行使することとなり、審判によって管理権を行使する者が不在になる場合は、未成年後見が開始されます。
なお、管理権喪失の親権を受けても、身上監護権は制限はされませんので、子どもと一緒に暮らして監護をし続けることは可能です。
親権喪失 | 管理権喪失 | |
---|---|---|
制限の対象 | 親権(身上監護権、財産管理権の全てを含む) | 財産管理権のみ |
(管理権喪失の審判)
第八百三十五条 父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、管理権喪失の審判をすることができる。
引用:民法|e-Gov法令検索
親権が喪失する事例
親権者が子どもを虐待している事例
虐待がある場合は「親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」の典型例といえます。
参考判例 名古屋家裁岡崎支部平成16年12月9日審判法改正前(親権停止の制度が創設される以前)のものですが、子どもが親権者らから顔面殴打などの身体的虐待を受けて一時保護され、児童相談所長が親権喪失を申し立てた事案です。
子どもの親権者らへの拒否感情に照らして子どもを親権者らに引き渡すことが子どもの福祉を害することに加え、児童相談所に虐待を指摘されたことに強く反発するばかりであり子どもを顧みない親権者らの態度は子どもの福祉を損ない親権の濫用に当たるとして親権の喪失が宣告されました。
こちらも法改正前のものですが、子どもらが親権者から日常的に性的、身体的な虐待を受けており、児童相談所長が親権喪失を申立てた事案で、親権者が子の福祉を著しく損なっていたことは明らかとして親権の喪失が宣告されました。
養育実績や親権者自身の生活ぶりなどから親権行使が不適当とされる事例
虐待や悪意の遺棄といった典型例に当てはまらない場合でも、これまでのの養育実績や親権者自身の生活ぶりなどから、親権の行使が子どもの健全な成育のために著しく不適当といえる場合も親権喪失が認められる場合があります。
参考判例 大阪高裁令和元年5月27日決定親権者がかねてから飲酒や暴力をやめることができず、服役をしたこともあり、子どもはほとんど施設で過ごしていたという事案で、児童相談所長が親権喪失を求めたものです。
親権者が生活態度を改めず、養育環境を整えないことや、その暴力性から子どもと同居すると子どもに暴力を振るう恐れが高いことなどから、「その親権の行使の方法において適切を欠く程度が著しく高く、その親権を行使させると、子の健全な成育のために著しく不適当である」と判断され、かつ、親権者の状況は、2年程度では改善は望めないとして、親権喪失が認められました。
親権を喪失するとどうなる?
親権を行使することができなくなる
親権喪失の審判が確定すると、親権を行使することはできなくなります。
そのため、子どもと一緒に生活して子どもの面倒をみたり、子どもの財産管理、法律行為の代理等をしたりすることはできなくなります。
もっとも、親権喪失は親子関係をも奪うものではありませんから、扶養義務や相続権など、親子であることによって生じる法律関係がなくなることはありません。
子どもの監護・財産管理は他方の親権者や未成年後見人が行う
父母が共同で親権者となっている場合は、父母の一方が親権喪失の審判を受けたときは、審判を受けていない他方の親が単独で親権を行使することになります。
父母の双方が親権喪失の審判を受けた場合や、単独親権者である父又は母が親権喪失の審判を受けた場合など、審判により親権者が不在となった場合は、未成年後見が開始されて未成年後見人が身上監護や財産管理を行うことになります。
父又は母が親権喪失の審判を受けたことにより、未成年後見人を選任する必要が生じた場合は、その父又は母は遅滞なく未成年後見人の選任を裁判所に請求しなければならないものとされています。
なお、子どもが児童相談所に一時保護されている場合は、親権喪失により親権者不在となった際、親権者又は未成年後見人があるに至るまでの間は、児童相談所長が親権を行うこととされています(児童福祉法33条の2)。
親権喪失の手続きの流れ
親権喪失の審判の申立て
親権喪失は、必ず「審判」という手続きによって行われます。
「審判」とは、裁判所が当事者からの提出証拠や調査の結果等を踏まえて判断を下す手続きです。
親権喪失の審判の申立てができるのは、次の人たちです。
- 子
- その親族
- 未成年後見人
- 未成年後見監督人
- 検察官
- 児童相談所所長
申立ては、子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に申立書を提出して行います。
申立人は、子どもや親権者の戸籍等の必要書類とともに、親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときであることを示す必要があります。
具体的には、虐待等の事実や子どもの生活状況等を申立書に記載し、それを示す診断書、相談記録などの資料も提出することになります。
申立費用は、子ども一人につき800円です。
に人数を申立書に貼付します。
また、裁判所から書類を送る際などに使用する郵便切手も、各裁判所所定の金額分を予め納める必要があります。
裁判所による調査と審理・審判
申立てが受理されると、裁判所による調査と審理が開始されます。
裁判官は、申立人や親権者から話を聴き、申立ての理由や、親権行使の状況や心身の状況などについて把握します。
そのうえで、家庭裁判所調査官によって親権行使の状況等についての調査が行われるという流れになることがほとんどです。
家庭裁判所調査官とは、心理学や社会科学等の行動科学の専門家で、裁判官の命令を受けて必要な調査を行う役割を担う裁判所職員です。
調査官は、子どもや親権者との面接や、家庭訪問、必要に応じて保育園・学校・病院・児童相談所などの関係機関からも話を聴くなどして調査を行います。
また、子どもが15歳以上の場合、子どもの意見は必ず聴取されます(家事事件手続法169条1項)。
子どもの意思は、子どもが15歳未満の場合に限らず、その年齢や発達の程度に応じて考慮されなければならないものとされています(同法65条)。
実務では、子どもが5、6歳くらいに達していれば調査官との面接を実施し、10歳くらいに達している場合はその意思が尊重されるという傾向にあります。
上記のような調査が行われたうえで、裁判所は、親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害すると認めた場合は親権喪失の審判を下します。
一方、そのような事情が認められない場合は審判申立ての却下の審判を下します。
不服申立て、審判の確定
親権喪失の審判又は申立却下の審判に不服がある場合は、審判の告知を受けた日から14日以内に高等裁判所に即時抗告という不服申立てをすることができます。
不服申立てをせずに14日が経過した場合や、高等裁判所で不服申立てが認められなかった場合は審判は確定します。
審判前の保全処分
親権喪失の審判の手続きは、申立てから審判が下るまでに時間がかかります。
子どもの利益に関わることであるため、他の事件よりも迅速な対応が要求されるものの、親子関係に大きな影響を及ぼす恐れもあるため、慎重な審理が行われ、結論が出るまで数か月要する場合もあります(※)。
しかし、子どもが虐待を受け続けている場合など、親権をすぐに制限しなければ子どもの利益を守ることができないという場合もあります。
このような場合は、審判が効力を生ずるまでの間の暫定的な措置として、親権者の職務執行を停止し、又はその職務代行者を選任することができます。
これを「審判前の保全処分」といいます。
保全処分の必要がある場合は、審判(本案)の申立てと同時に又は後に審判前の保全処分の申立てを行います。
統計によると、令和5年(2023年)1月〜12月の親権喪失の審判申立事件の審理期間は下表のようであったとのことです。6か月超えの事件が全体の41.8%を占めています。
審理期間 | 件数 |
---|---|
1月以内 | 3件 |
1月超え2月以内 | 5件 |
2月超え3月以内 | 4件 |
3月超え4月以内 | 18件 |
4月超え5月以内 | 6件 |
5月超え6月以内 | 10件 |
6月超え | 33件 |
合計 | 79件 |
参考:親権制限事件及び児童福祉法に規定する事件の概要(令和5年1月~12月)|最高裁判所
喪失した親権を復活させることができる?
親権喪失は子どもの利益を守るための例外的措置ともいえるため、子どもの利益を害する事情が取り除かれれば、親権を復活させることができます。
すなわち、親権喪失の原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人又はその親族の請求によって、親権喪失の審判を取り消すことができるとされています(民法836条)。
参考:民法|e-Gov法令検索
この取消しの手続きも「審判」ですから、親権喪失の審判と同じく、申立て、調査・審理、審判という流れをたどります。
15歳以上の子どもの意見は必ず聞かれることなどについても同様です。
自らの親権を復活させたい場合は、取消しの手続きにおいて、必要な治療をしたことや生活を立て直したことなどを示す証拠(診断書等)を提出するなどして、親権喪失の原因が消滅したことを示す必要があります。
親権喪失についてのQ&A
親権喪失で戸籍はどうなる?
親権喪失の審判が出されると、その旨が子どもの戸籍に記載されることになります。
親権喪失の審判が効力を生じたときは、裁判所書記官が子どもの本籍地の市区町村長にその旨の戸籍記載をすることを嘱託します。
そのため、親権喪失の審判が出されると、当事者が特に届出等をしなくても、子どもの戸籍に親権喪失者や審判確定日の情報が載ることになります。
親権が喪失される期間はどれくらい?
親権を喪失する期間は定められておらず、親権喪失の審判が取り消されない限りは親権を失ったままとなります。
親権の剥奪とはなんですか?
親権者による虐待があるときなど、親権の行使が子どもの利益を害する場合は、子どもの利益を守るために親権が制限されます。
親権を制限する制度には、親権喪失と親権停止があります。
親権喪失は、「親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」という厳格な要件を満たす場合に、期限の定めなく親権を失わせるものです。
一方、親権停止は、親権喪失よりも要件が緩和されており、「親権の行使が困難又は不適切であることにより子の利益を害するとき」に、2年以内の期間に限って親権を行使できなくさせる制度です。
虐待がある場合など、事態が深刻な場合は親権喪失の審判申立てが検討されます。
他方で、親権を喪失させるほどではない比較的程度の軽い事案や、期間を区切って親権を制限すれば足りる事案では、親権停止の制度が活用されています。
まとめ
以上、親権喪失について、要件や手続きの流れなどを解説しました。
親権喪失は、虐待がある場合などに、子ども本人や児童相談所長などの請求に基づき、家庭裁判所の決定によって親権を無期限で失わせる制度です。
親権喪失が認められるには、「父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」という厳格な要件を満たす必要があります。
無期限で親権を失わせるという強い効果を持つため、事態が重大で深刻なケースに利用されることが想定されています。
親権喪失の制度は、虐待などから子どもを守るための重要な手段となります。
一方、親権喪失の審判が親子の関係に与える影響は大きいものです。
そのため、審判喪失の手続きについては、制度趣旨や仕組みを踏まえたうえでの適切な対応が必要となります。
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