親権者を変更できる?条件や必要な手続きを弁護士が解説
親権者の変更は、子の利益のために必要があると認められる場合に、家庭裁判所の手続きによってすることができます。
共同親権の施行前は、離婚後は必ず単独親権となるとされていたため、親権者を父親から母親に、又は母親から父親に変更するパターンしかありませんでした。
それが共同親権の施行後は、単独親権から共同親権に変更するパターンや、共同親権から単独親権に変更するパターンもあり得ます。
また、共同親権の施行前に離婚が成立し単独親権となった場合も、施行後に共同親権に変更することは可能とされています。
そこで、ここでは、親権者を変更できる条件や、必要な手続きについて解説していきます。
※親権を定める民法は、2024年5月に離婚後も共同親権を選択することができるとの内容等を含む改正法案が成立し、改正後の民法は2026年5月までに施行されます。この記事は、共同親権の施行後の場合を前提にしています。
親権者を変更できる条件
親権者を変更できる条件は、次の2つです。
- 1 子の利益のために必要があると認められること
- 2 家庭裁判所の手続きによること
1 子の利益のために必要があると認められること
法律(民法)では、親権者を変更できる条件として、「子の利益のために必要があると認めるとき」と定められています(改正後の民法819条6項)。
すなわち、子どもの健全な成長や幸せの観点から親権者の変更が必要かどうかが、親権者の変更が認められるかどうかの大枠の判断基準となります。
そして、判断の際には、次のような事情が考慮されます。
- 父母側の事情
(これまでの監護状況、監護意欲、子どもに対する愛情の程度、健康状態、生活状況、居住環境、教育環境、親族等の監護に対する支援体制等) - 子ども側の事情
(年齢、性別、心身の発育状況、生活環境等への適応性、子ども自身の意思、父母及び親族との情緒的結びつき等) - 親権者指定の経緯
- 親権者指定後の事情の変更の有無
また、父母の協議によって定められた親権者を変更する場合は、当該協議の経過や、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとされています。
そして、父母の協議の経過を考慮するに当たっては、父母間での暴力等の有無、家庭裁判所での調停の有無、裁判外紛争解決手続(民間型のADR)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとされています(改正後の民法819条8項)。
改正後の民法819条6項
「子の利益のために必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。」改正後の民法819条8項
「第6項の場合において、家庭裁判所は、(略)当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(略)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする。」
親権者の変更の3つのパターン
共同親権の施行後は、親権者の変更には次の3つのパターンがあり得ます。
- パターン1 単独親権から共同親権への変更
(例)変更前:母親の単独親権 → 変更後:父親と母親の共同親権 - パターン2 共同親権から単独親権への変更
(例)変更前:父親と母親の共同親権 → 変更後:母親の単独親権 - パターン3 単独親権者の変更
(例)変更前:母親の単独親権 → 変更後:父親の単独親権
共同親権の施行前の離婚後単独親権制のもとでは、一方の親から他方の親への親権者の変更(パターン3)しかありませんでした。
共同親権の施行後は、単独親権から共同親権への変更(パターン1)や、その逆で共同親権から単独親権への変更(パターン2)もあり得ます。
また、共同親権の施行前に離婚をして単独親権となっている場合も、施行後に共同親権に変更することは可能とされています(パターン1に含まれる)。
いずれのパターンであっても、子どもの利益のために必要かどうかが判断基準となりますが、その際の考慮要素等はパターンによって異なる可能性があります。
具体的には実際の運用を見る必要がありますが、特にポイントとなるのは次の①②と推察されます。
いずれのパターンであっても、親権者となることを希望する親が親権者としてふさわしいことは必須の条件となるでしょう。
もっとも、親権者としてふさわしいかどうか判断される際に重視される考慮要素は、パターンにより異なるでしょう。
単独親権から共同親権に変更する場合(パターン1)は、監護実績や監護能力よりも、父母の子どもへの愛情の程度や子どもと父母との情緒的結びつきなどの方が重視されると考えられます。
このパターンでは、親権者の変更後も、今までも親権者だった方の親が引き続き子どもを監護するケースがほとんどであり、親権者変更により子どもの監護環境が大きく変わることはあまりないと思われます。
そのため、この場合は、親権者の変更を希望する親の監護能力や、監護の安定性は、あまり重視されないと考えられます。
一方、共同親権から単独親権に変更する場合(パターン2)や、単独親権者を他方に変更する場合(パターン3)は、親権者となることを希望する親の監護実績や監護能力、さらには今後の監護方針や監護環境などが重要な考慮要素になると考えられます。
これらのパターンでは、親権者の変更後は、変更後の親権者が実際に子どもを監護するケースがほとんどであると思われます。
そのため、変更を希望する親の監護能力や、監護の安定性が重視されると考えられます。
いずれのパターンであっても、共同親権と単独親権のどちらが子どもの利益となるといえるかは、重要なポイントとなるでしょう。
単独親権から共同親権への変更(パターン1)は、共同親権の方が子どもの利益になる場合に認められ、共同親権から単独親権への変更(パターン2)は、単独親権の方が子どもの利益になる場合に認められると考えられます。
また、単独親権者の変更(パターン3)も、共同親権とするのでは不適当な事情が必要になると考えられます。
そして、単独親権と共同親権のどちらが良いかの判断においては、父母双方に虐待などの親権者として不適切な事情がないことを前提とする場合は、父母が共同して親権を行使することができるかどうかが重要な基準となります。
父母が共同して親権を行使することができるかどうかは、離婚の経緯・方法、親権者指定の経緯・方法、離婚後の状況(養育費の支払い状況、面会交流の実施状況なども含む)など様々な事情が考慮されたうえで判断されることになるでしょう。
父母の間でDVがあったような事案では、父母が共同して親権を行使することは困難とされる可能性があります。
もっとも、DV事案に限らず、父母間の感情的対立が大きかったり、父母で教育方針が大きく異なったりする場合も、状況次第では父母が共同して親権を行使することが困難とされる可能性はあると考えられます。
2 家庭裁判所の手続きによること
親権者の変更は、必ず家庭裁判所の調停・審判という手続きによって行う必要があります。
父母の間で合意をするだけでは親権者を変更することはできません。
また、親権者の変更の手続きを申し立てることができるのは、「子又はその親族」です。
父母に限定されてはいませんが、自分が親権者になることを希望する父又は母が申し立てるのが一般的です。
共同親権の施行前の場合も、親権者の変更ができる条件は次の2つです。
- ① 子の利益のために必要があると認められること
- ② 家庭裁判所の手続きによること
ただし、離婚後は必ず単独親権となるため、単独親権者を他の一方に変更するパターン(パターン3)しかありません。
そして、子どもの生活環境や法律関係の安定性の観点から、監護状況が大きく変わった場合など、親権者指定後に事情変更があるようなケースではないと、親権者の変更は簡単には認められない傾向にあります。
なお、親権者の変更の手続きを申し立てることができるのは「子の親族」とされており、子ども自身は含まれていません。
民法819条6項
「子の利益のために必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。」
引用元:民法|e-Gov法令検索
親権者を変更するための手続
親権者変更の調停
調停とは、家庭裁判所において、調停委員会を仲介にして話し合い、合意による解決を目指す手続きのことをいいます。
親権者を変更するためには、まずは親権者変更の調停を申し立てる必要があります。
(相手が行方不明などの事情がある場合は、調停を経ずに審判を申し立てることもあります。)
申し立てる先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
調停を申し立てると、裁判所で話し合いをする日(期日)が指定され、その日に当事者双方が裁判所に出向いて話し合いをすることになります。
弁護士に依頼している場合は、弁護士も話し合いに同席します。
調停での話し合いの結果合意が成立したら、裁判所により調停調書という書面が作成され、これにより親権者が変更されます。
一方、合意が成立しなかった場合は、調停は「不成立」として終了し、引き続き「審判」という手続きに移行します。
親権者変更の審判
審判とは、裁判官が一切の事情を考慮して一定の判断を下す手続きのことをいいます。
調停が不成立となった場合は、自動的に親権者変更の審判という手続に移行します。
そして、裁判官が当事者双方の言い分や提出資料、子どもの意思(※)を踏まえ、親権者を変更するか否かを判断します。
出された審判に不服がある場合は、2週間以内に即時抗告という不服申し立てをすることができます。
不服がない場合は審判は確定し、これにより親権者が変更されます。
(※)子どもの意思について
子どもが満15歳以上のときは、裁判所は、親権者変更の審判前に子どもの陳述を聴かなければならないとされています(家事事件手続法169条2項)。
また、15歳未満であっても、裁判所は、子どもの意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子どもの年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならないものとされています(同法258条1項・65条)。
実務では、事案によりますが、子どもが10歳くらいに達している場合は、自分の意思が表明できるものとして子どもの意思が尊重される傾向にあります。
子どもの意思の確認の方法には、子どもによる陳述書の作成、家庭裁判所調査官による調査、裁判官による書面照会や直接の聴取などがあります。
親権者変更の届出
調停の成立や審判の確定によって法律の上では親権者が変更されるものの、戸籍の記載をその通りに変えてもらうためには役所への届出が別途必要です。
親権者になった人は、調停が成立又は審判が確定した日から10日以内に、市区町村役場に親権者変更の届出をしなければなりません。
届出の際は、調停調書謄本や審判書謄本・確定証明書などが必要です。
親権者の変更に必要な費用
手続きに必要な費用
親権者の変更の調停・審判の申立手数料は、子ども1人につき1200円です。
調停等の申立書に1200円×子どもの人数分の収入印紙を貼付します。
また、連絡用の郵便切手も裁判所に納める必要があります。
必要な金額は裁判所ごとに異なりますが、大体1000円分くらいです。
その他の実費として、必要書類(戸籍謄本など)の取得費用(1000円程度)や調停調書の交付手数料等(1000円程度)、裁判所に出頭する際の交通費等がかかります。
弁護士費用
親権者の変更手続きを弁護士に依頼する場合は、弁護士費用がかかります。
弁護士費用は、依頼する弁護士(法律事務所)により異なりますが、おおよその相場は以下のとおりです。
項目 | 内容 | 相場 |
---|---|---|
法律相談料 | 正式な依頼前、法律相談の際に支払うお金 | 30分5000円~1万円程度 ※初回の相談60分間は無料の事務所も多い |
着手金 | 弁護士に依頼するとき最初に支払うお金 | 20万円~50万円程度 |
報酬金 | 終了時に結果に応じて支払うお金 | 20万円~100万円程度 |
参考:(旧)日本弁護士連合会弁護士報酬基準|弁護士法人デイライト法律事務所
詳しい金額は、依頼を検討している法律事務所のホームページや法律相談でご確認ください。
当事務所の弁護士費用については、以下のページをご覧ください。
親権者変更のポイント
15歳以上の子どもがいる場合は意見を聞かれる
先に述べたように、審判の際には、親権に服する子どもが満15歳以上である場合、子どもは必ず裁判所に意見を聞かれます。
また、実務では、10歳くらいに達している場合は自分の意思が表明できるものとして子どもの意思が確認される運用がされています。
子どもの意思は、それのみが唯一の判断基準となることはありませんが、重要な考慮要素となります。
そこで、親権者の変更においては、子どもの意思を尊重した取り決めをすることが重要になります。また、ある程度の年齢に達している子どもでも、双方の親に気を遣ったり、同居している親の影響を受けやすかったりして真意を伝えられないということもあります。
そこで、親権者の変更の手続きの中では、子どもの真意を慎重に確認するということもポイントとなります。
子ども作成の陳述書や書面照会のみでなく、必要に応じて、家庭裁判所調査官による調査(子どもとの面接)を求めることなどを検討するとよいでしょう。
離婚問題に詳しい弁護士に相談する
共同親権の施行後は、親権者変更のパターンが一つではなくなるため、事案に応じてどのような変更パターンが適しているのか検討する必要が生じます。
また、それぞれのパターンにおいて重視される考慮要素を意識した主張立証も必要になってきます。実際の事案で、裁判所がどのような判断を示すかなど、施行後の運用についても注意する必要があります。
このような法改正を踏まえた対応は、専門家でなければ難しいと思われます。そのため、親権者の変更をお考えの場合は、離婚問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめいたします。
親権者の変更についてのQ&A
親権の変更は合意だけでできますか?
親権者の変更は、当事者間の合意のみによって行うことはできません。
必ず家庭裁判所の手続き(調停又は審判)によって行う必要があります。
通常は、自分が(自分も)親権者になることを希望する親が家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
親権の変更は難しいですか?
共同親権の施行前は、親権者の変更が認められるのは、親権者指定後に子どもの監護状況が大きく変わったケースなどに限られる傾向にありました。
共同親権の施行後も、基本的には親権者変更の難しさは大きくは変わらないと思われます。
もっとも、共同親権の施行後は、単独親権から共同親権に変更するパターンもあり得ます。
このパターンでは、子どもの監護状況に大きな変化があったかどうかは、親権者の変更が必要かどうかの判断においてはあまり問題にはならないと考えられます。
そのため、親権者指定後の事情変更がないケースでも親権者変更が認められやすくなる可能性があります。
ただし、父母で親権を共同することが難しい事情がある場合は、共同親権への変更が認められない可能性があります。
したがって、単独親権から共同親権への変更も、簡単にできるものではないと言えそうです。
まとめ
以上、親権者を変更できる条件や、必要な手続きについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。
親権者の変更は、子の利益のために必要があると認められる場合に、家庭裁判所の手続きによってすることができます。
共同親権の施行後は、父親から母親もしくは母親から父親への親権者変更のみならず、単独親権から共同親権、又は共同親権から単独親権への親権者変更もできるようになります。
いずれにしても、法改正を踏まえた適切な対応が必要になりますので、変更を検討されている方は、離婚問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめいたします。
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