妻の婚姻費用請求を大幅に減額できた医師Sさんの例
婚姻期間:20年以上
解決方法:調停
子どもあり (成人)
離婚を切り出した
相手:専業主婦
サポート無 | サポート有 | 利益 | |
---|---|---|---|
離婚 | ×不成立 | ○成立 | – |
婚姻費用 | 月額30万円 | 月額24万円 | 月額6万円 |
Sさんは専業主婦の妻とは、20年以上前に結婚しました。
Sさんは、医師で多忙な毎日でしたが、妻はSさんに対して、まったく無関心で会話もなく、家事もろくにしてくれませんでした。
そのため夫婦関係は形だけのものになり、家庭内別居の状態が続いていました。
子どもが就職し、自立したことをきっかけに、Sさんは離婚を決意しました。同居していた家を出ていき、妻に離婚調停を申し立てました。
ところが、妻は離婚に応じず、Sさんが他の女性と浮気していると言いだし、Sさんが有責配偶者にあたると主張しました。
また、妻は、弁護士を立ててSさんに対して婚姻費用分担調停を申し立て、月30万円の婚姻費用(生活費)の支払を要求してきました。
そこで、Sさんは弁護士に相談をしました。
弁護士は、受任後、Sさんの代理人として離婚及び婚姻費用分担調停に出席しました。
そこで、Sさんが不貞をしたという事実はないこと、妻の請求している婚姻費用が、夫婦の諸事情からすれば高額に過ぎることを主張しました。
特に婚姻費用に関しては、Sさんが妻の居住している自宅の住宅ローンを負担しており、実質的にSさんが妻の住居費相当分については支払い済みと同視できるものとして争いました。
その結果、Sさんの不貞は事実無根であること、婚姻費用については妻から請求されていた婚姻費用を月額24万円(月額あたりマイナス6万円)に減額することに成功しました。
婚姻費用を算出する際、実務上、算定表という早見表が用いられます(令和元年12月23日改定)。
この算定表は、双方の収入及び子どもの有無、人数によって、適正な月額の婚姻費用を導き出す表となります。
この点、一方配偶者が専業主婦又は専業主夫である場合は、ただちに収入をゼロとして考えるべきではありません。
実際に働いたとしたらいくら稼げるかという潜在的稼働能力を考慮する必要があります。
もっとも、0歳に近い乳幼児を養育している場合や、心身の事情により働けないというような診断が出ている場合には、潜在的稼働能力もないものとして扱うべきでしょう。
本件では、妻は健康であり、子どもも成人していることから、妻には潜在的稼働能力が認められます。
そして、Sさんの前年分の源泉徴収票から認定された収入より、月額30万円程度が算出されました。
原則として、婚姻費用を支払うべき義務者は、権利者に対して、婚姻費用を現金で支払うこととなります。
しかしながら、権利者の生活必需の費目を義務者が負担している場合で、直ちに支払方法を変更できない費目(家賃等)については、婚姻費用から当該費目の金額について控除する必要があります。
本件では、Sさんが妻の居住している自宅の住宅ローンを支払っていました。
この住宅ローンは妻の住居費といえますが、自宅不動産には資産形成の側面があります。
そのため、住宅ローンの全額が住居費として考慮されるとはいえません。
したがって、住宅ローンのうち、一定程度の金額が妻の住居費として、Sさんが妻に対して支払う婚姻費用の相当額から控除されることとなります。
この点、仮にSさんに不貞行為が認められ、Sさんと妻の婚姻関係の破綻が専らSさんの不貞行為等の有責事由によるものとされた場合、Sさんが妻に対して支払う婚姻費用相当額から住宅費の控除の主張をしても、権利の濫用として認められないケースがあります。
本件において、Sさんの不貞行為は認められず、毎月支払っている住宅ローンのうち6万円が妻の住居費として婚姻費用から控除することが認められました。
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