離婚後未払い婚姻費用を請求されたが、請求を遮断した事例

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
ご相談者Tさん
職業:会社員
解決方法:裁判
子どもなし


相手:20代主婦

※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。

サポート無 サポート有 減額利益
婚姻費用 64万円 0円 64万円

 

 

状況

Tさんは、半年前に、離婚訴訟において、元妻と清算条項をつけたうえで裁判上の和解をおこない、離婚しました。

しかし、半年ほど後、突然、元妻は、離婚成立前の別居期間中の未払いの婚姻費用があるとして、婚姻費用を請求してきました。

とまどったTさんは、弁護士に相談しました。

 

 

弁護士の関わり

元妻の請求内容を分析すると、おおよそ以下のとおりでした。

元妻の請求

元夫は、別居期間16ヶ月分の婚姻費用を一切支払っていない。双方の収入及び子どもを自分が養育していることを考慮すると、婚姻費用の分担金は、月額4万円が相当であり、元夫は自分に対し、16ヶ月分の未払い婚姻費用として、合計64万円を支払う義務がある。

そこで、この内容が事実なのか、事実だとして請求が認められるのかを検討するために、弁護士はTさんにヒアリングを行いました。

その結果、
①別居期間が16ヶ月あること
②婚姻費用を裁判所が用いる計算式を用いて計算すると適正額が4万円が相当であること
③ところが、別居期間中は婚姻費用は一切支払っていないこと
④もっとも、この審判の申立て以前に、婚姻費用の請求が明示的に行われたことはなかったこと
がわかりました。

そこで、弁護士は以下のとおりの主張を裁判所に対して行いました。

元夫の反論

まず、元妻はが婚姻費用の審判を申立てた以前に、婚姻費用の請求が明示的に行われたことはないから、婚姻費用の分担の始期がそもそも到来していない。
仮に、婚姻費用の分担義務があるとしても、その調整は財産分与で行われるところ、裁判上の和解には清算条項が入っているから、未払い婚姻費用の請求も当然に遮断されるべきである。

それぞれの主張に対し、裁判所は、以下のとおり、元夫側の主張を認める判断を行いました。

裁判所の判断(要約)

民法760条の婚姻費用分担の始期は、特段の事情がない限り、婚姻費用の分担を請求したときであり、請求時以前の未払い婚姻費用についてはその支払い義務を形成することはできない。

そして、この請求の時とは、婚姻費用の分担を求める調停又は審判を申し立てた時や、内容証明郵便の方法により婚姻費用の分担を求めた時などがこれに当たるものと解される。

したがって、本件では元妻の主張する16ヶ月分の婚姻費用について、元妻が請求の意思を明示したことは認定できないから、その分担の始期は未だ到来していない。

よって、元妻の請求は認められない。

 

 

 

補足

婚姻費用とは、別居期間中の生活費のことで、民法760条を根拠に認められるものです。

これは、夫婦である以上、夫婦(子がいる場合には子も)は、同じレベルの生活を送ることができるようにすべきだという考え方を背景としています。

その結果、収入が高い方が低い方に対して、一定額を支払う必要があります。

これを婚姻費用の分担義務といいます。

ところが、この婚姻費用の分担義務は、別居していれば当然に認められるわけではありません。

上記の裁判所の判断にもあるように、請求の意思を明確にしておく必要があります。

そして、請求の意思が明確になったといえるためには、婚姻費用を求める弁護士からの内容証明を送付したり、婚姻費用の調停の申立てを行うなどをしなければなりません。

逆にいえば、夫側としては、妻から婚姻費用を明示的に請求されない限りは、婚姻費用の支払い義務は生じませんので、請求の意思明示前の分の婚姻費用の支払いについては、拒むことが可能です。

もっとも、この場合も、上記の裁判所の判断にあるように、「特段の事情がない限り」という留保がつきますので、事情によっては、請求の意思明示前の分の婚姻費用の分担の支払いが命じられる可能性はあります。

したがって、裁判所に対して、適切な主張を伝えていくことが重要です。適切に争わなければ、裁判所に、別居期間中の婚姻費用を請求の意思明示前に遡って払いなさいと言われてしまう可能性があります。

このように、婚姻費用の分担義務の始期については、法的な解釈を伴うものですから、婚姻費用の問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめいたします。

婚姻費用について、くわしくはこちらをごらんください。

 

 

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