財産分与をしないで離婚できた夫の事例|請求拒否のポイントを解説

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  




ご相談者Oさん
職業:会社員
婚姻期間:1年
解決方法:調停
子どもあり (長男(0歳))
離婚を求められた

※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。

 

依頼前 依頼後 利益
離婚 ×不成立 ○成立
養育費 8万円 4万円 約950万円
面会交流 ×
財産分与 40万円 0円 40万円

 

 

離婚を切り出されたOさんは弁護士へ依頼

Oさんは、1年前に結婚した妻との間に、長男(当時0歳)をもうけました。

しかし妻は、里帰り出産のために帰った実家から戻って来ることはなく、別居状態が続きました。

そして妻から、Oさんの言動に精神的苦痛を受けたと、離婚を切り出されたので、困り果てたOさんは、弁護士に、夫婦関係修復の調停申立てを依頼しました。

 

弁護士の交渉でOさんに有利な条件での離婚が成立

弁護士は、Oさんの意向を汲み、当初は、夫婦関係修復へ向けて交渉・調停対応を行いましたが、妻の離婚の決意はかなり固いものでした。

Oさんは、妻の頑なな態度をみて、迷いながらも、もはや離婚は避けられないと思われるようになりました。

そのため、弁護士は、基本的には修復を希望するという主張を行いつつも、離婚条件を限りなくOさんに有利なものにすることを目標に、出来るだけ時間をかけて調停対応を続けました。

その結果、調停において、離婚が成立しました。

財産分与について

妻が主張する額が客観的にみて支払うべきものかどうかは検討を要する事項でした。

もっとも、妻は強く離婚意思を有していたため、これを放棄してもらうことによってOさんは財産分与をすることなく早期に合意に至ることができました。

 

養育費について

弁護士は、特に大きな出費を迫られることになる養育費額を、限りなくOさんに有利なものにすることを目標に、時間をかけて調停対応し、相手方が要求していた額の半額の養育費を支払うことで合意ができました。

 

面会交流について

調停において、当初は相手方が拒否していた面会交流を行う合意をしたうえで、離婚が成立しました。

 

 

財産分与しないで離婚することも交渉によっては可能

早期離婚を希望した妻は、財産分与請求をあきらめました。

離婚するとき共有財産を2分の1で分けるという原則は、あくまで原則に過ぎませんので、交渉によって減額、さらにはOさんのようにゼロにすることも可能です。

離婚するのは本意ではないにもかかわらず、財産も半分分与しなければならないのか…と思われている方は、一度弁護士にご相談されるといいかと思います。

財産分与の請求は拒否できる?

財産分与を請求することは各人の自由です。

相手方配偶者が財産分与の請求をしない場合、あるいは請求してもこれを放棄した場合は、財産分与をする必要はありません。

相手方配偶者が財産分与の請求をして放棄もしない場合、請求額が客観的に認められるべきものであるかどうかは検討が必要です。

夫婦の共有財産でない個人の財産(特有財産といいます。)が含まれるのであれば、そこに対応する分について財産分与をする必要はないことになります。

まずは夫婦の総財産としてどのようなものがあるか把握しなければなりません。

そのうえで、何が分与の対象となるのか検討します。

財産分与をさせないようにするであるとか、放棄を強制させるといったことは法律上できませんので、十分に話し合いを行うことは必須です。

もし放棄することが決まれば、その内容を書面(合意書、公正証書など)に残しておくべきです。

 

 

財産分与しなくてもいいケース

特有財産が含まれている場合

特有財産はその人の固有の財産であり、言い換えると夫婦で築いた財産ではありませんので、財産分与をする必要がありません。

たとえば、親族から贈与をされたもの、相続で得たものなどです。

ただし、夫婦名義の財産は原則として共有と推定されます(民法762条2項)。

ですので、特有財産であることを証明する資料が必要になります。

具体的には、贈与の場合は贈与契約書、相続の場合は遺産分割協議書などが作成されていることが望ましいです。

よく争いになるもののひとつが、婚姻前に存在していた財産です。

預貯金の場合、ひとつの口座で出金と入金を繰り返しますし、婚姻後の財産が混入していく(婚姻後の給与が振り込まれるなど)わけなので、どの範囲が婚姻前に存在していた財産であるのかがわかりにくくなります。

そのため、婚姻前の口座とは別の口座を開設し使用することが望ましいです。

他方、婚姻前に購入していた車や不動産といたものは、明確に区別することが比較的容易ですので、分与の対象外とすることで合意が形成されやすいです。

 

夫婦財産契約をしている場合

夫婦財産契約とは、婚姻の届出前(結婚前)において、財産の分け方をあらかじめ取り決めをしておくものです。

適切に取り決めをしていれば、それに従って財産を分けることになります。

逆に言えば、取り決めと異なる分け方をしなくてよいということになります。

 

 

財産分与したくない場合|おさえておくべきポイント

特有財産の立証のポイント

上述のとおり、特有財産であることが認められれば、その財産については財産分与の対象から外すことが可能です。

しかし、特有財産であることを立証しなければならないのは、それを保有している側の配偶者です。

立証が果たされなければ、財産分与の対象から外すことができないこととなります。

イメージしやすいように具体例を用いて解説いたします。

具体例 夫の婚姻時の預金700万円、別居時が1000万円の場合

妻の主張:財産分与の対象になるのは別居時の1000万円
夫の主張:婚姻後に増えたのは300万円(1000万円-700万円)だから、財産分与の対象になるのは300万円

争点
夫が婚姻時に保有していた700万円は、夫の特有財産となるか
立証

立証をしなければならないのは夫側
妻:夫には婚姻時に預貯金がなかった←あらゆる可能性を否定しなければならないので、証明ができない
夫:婚姻時に700万円の預貯金があったことは、通帳の取引履歴などを提出することで容易に証明可能

裁判の見通し

夫が通帳の取引履歴を提出した場合


700万円が特有財産であると考えることができるので、夫の主張が認められる可能性がある

夫が通帳の取引履歴を提出した場合


700万円が特有財産であるという裏づけがないため、夫の主張を採用出来ない以上、妻の主張が認められる可能性がある

※上記の「裁判の見通し」はわかりやすくするための一例です。同居期間の長さなどによっても結論は変わりますので、あくまで参考程度にしてください。

特有財産の立証方法は、それが預貯金なのか、不動産なのかなど、財産によって異なります。

 

立証活動における注意点

分与の対象となる財産が存在する場合、その財産は相手方配偶者に開示することになります。

開示は任意に行うことが通常なので、こちらは相手に開示を求め、相手はこちらに開示を求めてきます。

任意の開示を拒むことはできます。

ただし、①裁判手続きのなかで、裁判所が金融機関等に財産状況の照会を求める手続(「調査嘱託」といいます。)が実施される場合、②弁護士会が金融機関等に照会を求める手続(「弁護士会照会」または「23条照会」といいます。)が実施される場合は、ご本人の意思に関係なく開示される場合があります。

状況によっては、財産を隠匿していたことが不利に扱われる場合がありますので注意が必要です。

まずは特有財産がどの範囲なのかを明確にし、婚姻後に築いていく財産と明確に区別しておくことです。

また、区別されることがわかる資料(預金であれば新たな口座と区別する、遺産分割協議書や贈与契約書を確認する。)の準備を行うことが重要です。

 

夫婦財産契約のポイント

次に夫婦財産契約ですが、取り決めと異なる分け方をしなくてよくなるということがメリットになるわけですが、①必ず婚姻前に契約すること、②婚姻届の提出後は原則として返納できないことに留意する必要があります。

また、不動産の譲渡など、離婚問題が表に出てきたときに第三者も登場するということが出てくる場合は、③夫婦財産契約を登記する必要もありますので注意が必要です。

 

財産分与の分与割合を争うポイント

財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して形成・維持してきた共同財産を清算し公平に分配するものです(清算的財産分与)。

そして、財産の形成・維持に対する夫婦の貢献度に偏りがあるにもかかわらず、一律に2分の1にすると、かえって公平性を欠く場合があります。

そこで、貢献度に偏りがある場合は、2分の1の分与割合を修正する(6:4であったり7:3など)場合があります。

自身の才覚で得た財産(たとえばタレント業によって得られた報酬によって形成された財産、経営者としての手腕・能力によって築いた財産)については、その人固有の能力による性質が強くなるため、2分の1とは異なる割合で分けることになる可能性もあります。

この場合、自身の固有の能力によるものであることがわかる資料が必要になります。

ただし、それを証明することは容易ではないケースがほとんどと思われますので、固有の能力の性質がどういったものなのかを考えておく必要があります。

なお、偶然の事情によって財産が著しく増大したという場合、夫婦の一方が貢献したともしていないともいえないケースがあります。

この場合、2分の1の割合とするのか、修正をすべきなのか、明確な線引がしにくいケースといえます。

たとえば、800万円の原資を3倍以上の約2500万円に増大させたケースにおいて、第一審は2:8での分与を認めましたが、高等裁判所はこれを原則通り5:5(2分の1ずつ)とする判決をしました。

他方、夫婦の一方が競馬により1億9000万円の利益を得たケースでは、運によることが大きいとして1:2に修正した判断も出ています。

このようなケースの場合、2分の1と異なる割合に修正するかどうかは、財産が増大した要因やその他の事情を考慮しなければなりません。

 

合意書を適切に作成するポイント

協議の結果、財産分与を行わないことで合意をした場合、その旨を必ず合意書に記載しておくことが重要です。

財産分与は、離婚後2年で時効を迎えますが、それまではいつでも請求が可能です(民法768条2項)。

合意書の作成がなされていなかった場合、せっかく合意が整っていたのに紛争を蒸し返される危険があります。

また、口頭のみの合意だと、当時の合意の成立を立証することができません。

ですので、たとえば、「夫と妻は、互いに相手方に対し、財産分与の請求をしない。」などの条項を記載して合意書を作成することが重要です。

また、合意書には清算条項を必ず記載しておくことも重要です。

清算条項とは、「当事者双方は、本合意書に定めるものの他、なんらの債権債務がないことを確認し、名目を問わず金銭的請求を行わない。」
といった条項のことです。

※清算条項の書き方は上記に限られるものではありません。

この清算条項が欠けていた場合、合意後に追加で請求されるリスクを回避することができません。

逆に、清算条項を入れておくことで、事後に追加請求を防ぐことができますし、蒸し返しも防止できます。

 

 

補足

離婚の成立について

Oさんのケースのポイントは、強い離婚原因がないという点でした。

妻は、Oさんの言動により精神的苦痛を被ったと主張していましたが、確たる証拠はなく、かえってOさんの方が辛辣な言動を受け、心身の健康を害してしまったほどでした。

このような場合に、離婚を希望する配偶者が離婚訴訟を起こしたとしても、すぐには離婚を認める判決は出されませんので、離婚までに数年がかかることになります。

そして、離婚拒否の対応を続けた結果、妻は、離婚に消極的だったOさんの意向を汲む形で、離婚に同意したのです。

相手方から強く離婚を迫られると、その対応に疲れて、相手方の言いなりの条件で離婚に応じてしまうという方もいらっしゃいますが、弁護士が間に立つことで、離婚が回避できたり、相談者様に有利な条件で離婚が出来たりする可能性もあります。

 

 





なぜ離婚問題は弁護士に相談すべき?弁護士選びが重要な理由とは?   

続きを読む



あなたにおすすめの事例

検索条件: 会社員

  • 1
  

離婚後、婚氏続称していたが氏の変更許可の申し立てを行った事例

Kさんは、20年前に夫と結婚し、長男をもうけましたが、離婚しました。当時、長男が小学校に通っていた為、婚姻中の氏を称することとしました。長男が、無事に高校を卒業し、大学に進学したことから、旧姓に戻りた[...]

依頼結果:

氏の変更○旧姓に戻した


/ 会社員 /



詳細を見る
解決事例一覧ページ


事例を探す