解決事例
更新日2020年8月21日

人身傷害保険を利用して過失の部分も賠償を得られた事例

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。

ご相談者Eさん

受傷部位首(頸椎捻挫)、腰(腰椎捻挫)
等級14級9号
ご依頼後取得した金額
約330万円(約3倍)

内訳
損害項目 保険会社提示額 弁護士介入後
傷害慰謝料 70万円 97万円(裁判基準 通院7ヶ月)
後遺障害慰謝料 75万円(自賠責限度額) 110万円(14級 裁判基準)
後遺障害逸失利益 約130万円(5年間分)
結果 約330万円増額(人身傷害保険含む)

 

状況

Eさんは、福岡市内の交差点で青信号に従って直進していたところ、反対車線から右折してきた加害者の車両と衝突する事故に遭いました。

この事故でEさんは頚椎捻挫、腰椎捻挫と診断されました。

Eさんはその後、半年間ほど痛み止めを処方してもらったり、注射を打ったりして治療を続けましたが、腰痛が改善しませんでした。

MRI検査の結果、腰椎にヘルニアが見られたこともあり、後遺障害の申請の結果、腰痛で14級9号が認定されました。

その後、相手方保険会社から賠償金の提示を受けましたが、Eさんはその提示が妥当なものかわからず、弁護士に相談されました。

 

弁護士の対応

解説図相談時にEさんが持参された賠償額の提示を確認したところ、後遺障害に対する賠償金額が75万円となっており、自賠責保険の限度額のみの支払いにとどまっていました。

そのため、Eさんに賠償額の見込みを伝え、弁護士費用特約を用いて依頼すべきとアドバイスしました。

この事故では、Eさんにも15%ほど過失があると見込まれたため、相手方保険会社と交渉する前にEさんが加入していた人身傷害保険から保険金を受領しました。

その上で、相手方保険会社に裁判基準での賠償を交渉しました。

相手方保険会社は、当初逸失利益の期間を2年間と短く主張してきましたが、最終的には腰椎捻挫等で裁判上一般的に認められる5年間分の逸失利益を認めました。

その結果、Eさんは人身傷害保険からの支払いも含め、当初の提示額であった約100万円から3倍以上増加した330万円を受けとることができました。

 

弁護士のアドバイス

通常、被害者に過失がある場合には、その過失の割合に応じて賠償金は減額されます。

例えば、損害の総額が200万円で、被害者に過失が30%あったとします。

この場合には、200万円 × 30% = 60万円 が過失相殺として減額されるので、請求することができる金額は140万円ということになります。

今回のケースでは、こうした過失割合による減額分を人身傷害保険を使用することで賄うことができたケースです。

少し難しい問題ですが、具体的にどういう理屈なのか、以下のとおり説明します。

人身傷害保険は、被害者の過失に関わらず、保険会社の定める基準に従って支払いを受けることができる保険です。

人身傷害保険金を受領した場合、原則、その金額分は相手への請求はできなくなります(損益相殺)。

つまり、損害額が200万円で、その内140万円を人身傷害保険から受け取った場合、相手に請求できる金額は60万円になるということです。

しかし、本件のように過失がある場合には考え方は変わります。

被害者の損害額が200万円で過失が30%、人身傷害保険金として140万円を受領しているケースで考えてみます。

200万円から30%の過失割合分を差引くと140万円になり、人身傷害保険金として140万円受領しているので、相手にはなにも請求できないとも思えます。

しかし、最高裁判所は、そのような考え方をとっていないのです。

最高裁判所は、人身傷害保険の全額を損害額から控除するのではなく、過失相殺によって控除される金額(上記ケースでは60万円)を除いた金額を控除するという考え方をとっ
ています(訴訟基準差額説)。

つまり、上記のケースでは、200万円の30%である60万円は、相手への請求の際に控除されないのです。

したがって、人身傷害保険金として140万円を受け取りつつ、相手に対して、残りの60万円を請求することができるので、結果的に、過失相殺がされなかった場合と同額の金
額を受領することができるのです。

かなり複雑な説明になりましたが、大切なことは、人身傷害保険を利用することで、本事例のように過失割合がない場合と同額の賠償金を受け取ることができるケースがあるということです。

この訴訟基準差額説は、保険会社の担当者も知らないことがあり、中々理解してもらえず、交渉が難航することもありますが、ケースによっては被害者の手元に残るお金に大きな差が出ることもありますので、注意しなければなりません。

 



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