後縦靭帯骨化症の手術歴があったが素因減額されなかった事例
※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。
受傷部位 | 頸椎捻挫,腰椎捻挫 |
等級 | 14級9号(頸部痛) |
ご依頼後取得した金額 |
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約300万円 |
損害項目 | 保険会社提示額 | 弁護士介入後 |
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治療費 | 事故後5か月まで | 事故後8か月まで |
傷害慰謝料 | – | 96万円 |
後遺障害慰謝料 | – | 100万円(裁判基準 90%) |
後遺障害逸失利益 | – | 100万円(裁判基準 5年間) |
結果 | – | 総額約300万円(+治療費) |
状況
Jさんは、福岡市内にて信号停止中に後続車から追突される事故に遭いました。
Jさんの車の後部部分は大きくへこみ、修理費として 50万円弱かかりました。
Jさんには事故の2年前に国指定の難病である後縦靭帯骨化症(OPLL)という症状により、首の手術を受けていました。
そのため、事故に遭ったときも手術した病院で定期検診を受けている状況でした。
事故に遭ってから、手術をしてよくなっていた首の痛みや両手のしびれが生じ、整形外科を受診していました。
ところが、Jさんは事故から5か月ほどたったときに相手方の保険会社から治療の打切りを受けました。
それでも、首の痛みと両手のしびれが改善しなかったJさんは自費で通院を継続しました。
そして、事故から半年ほど経過して後遺障害のことが気になったJさんは当事務所に相談し、弁護士に依頼しました。
弁護士の対応
弁護士はJさんのけがの状況を聞き取り、自費での治療を継続してもらいながら、症状固定時期をJさんや主治医の医師と相談し、事故から8か月経過した時点で後遺障害診断書を作成してもらいました。
その際、Jさんが2年前に手術を受けていたため、主治医の医師にJさんの術後の経過が良好であったことを後遺障害診断書に記載してもらいました。
また、弁護士が必要な画像や診断書を収集するとともに、Jさん本人の症状経過をまとめた資料を作成し、被害者請求を行いました。
その結果、自賠責保険は後縦靭帯骨化症について既往症と判断せず、頸部痛と両手のしびれで14級9号の認定を受けることに成功しました。
この結果を踏まえ、相手方の保険会社と症状固定までの8か月の治療を前提とした慰謝料や後遺障害慰謝料、逸失利益を請求しました。
交渉においては、後縦靭帯骨化症により裁判で素因減額を受ける可能性が十分に考えられたため、治療費なども含めた全損害から一定割合を減額されるリスクを踏まえ、慰謝料については裁判基準の90%で示談しました。
保険会社は、当初、慰謝料について裁判基準(裁判をした場合の水準で最も高い水準)の80%程度を提示してきましたが、交渉を重ねた結果、裁判基準の90%で合意することとなりました。
確かに、裁判基準の100%を回収するために裁判をするという手段もありました。
しかし、裁判となれば、相手保険会社も弁護士を立てて徹底的に争ってくることになります。
そうなった場合、Jさんの後縦靭帯骨化症を理由に素因減額(※「補足」にて説明します)される可能性がありました。
素因減額された場合、交渉時点よりも賠償額が低額になることも予想されたため、慰謝料は裁判基準の90%ではありましたが、早期解決のため合意することとなったのです。
また、後遺障害逸失利益については、14級9号で裁判において多く認められる5年間の補償を認めてもらえたことや、治療費についても8カ月分全て認められたことも、示談交渉で合意することになった理由です。
弁護士のアドバイス
素因減額
Jさんのように、事故に遭うよりも前に、ケガをして手術をしているような場合、現にある症状が、事故によるものなのか、過去のケガによるものなのか大きな問題になることがあります。
仮に、過去のケガが原因であると判断された場合、現にある症状と事故との因果関係が否定されるので、そもそも補償を受けることができなくなる可能性があります。
また、因果関係が認められたとしても、素因減額される可能性があります。
素因減額とは、事故当時、すでに被害者が、損害が発生・拡大する要因(既往症や身体的特徴、心因的な要素)を持っており、それが原因で損害が発生・拡大したときには、一定の割合について賠償額を減額するという考え方です。
素因減額される可能性がある場合には、無理に裁判をするのではなく、本件にように示談交渉で終了した方が良いケースもあります。
後縦靭帯骨化症における素因減額
本件では、Jさんの後縦靭帯骨化症が素因減額の対象になる可能性がありました。
後縦靭帯骨化症は、背骨の椎骨をつなぐ後縦靭帯が骨のように硬くなってしまう病気であり、難病として国の指定も受けています。
靭帯が骨化してしまったことで、健康な状態のときと比べて、少しの衝撃で脊髄を損傷する可能性が増えるため、素因減額として主張されることがあるのです。
過去の裁判例では、20%の素因減額をした裁判例(名古屋地判平成28年2月26日)、50%の素因減額をした裁判例(大阪地判平成24年9月19日)などがあります。
それぞれ事案特有の事情があるため、一概にどの程度の素因減額がなされるかはケースバイケースですが、事故前に後縦靭帯骨化症がある場合には、素因減額される可能性を考えておかなければなりません。
今回、Jさんの術後の経過をまとめた資料などを被害者請求の段階で用意して提出したこともあって無事に後遺障害の認定を受けることができました。
Jさんも「本当に認定してもらえてよかった。」、「正直認定されるのは難しいと思っていた。」とお話ししていました。