個人事業主で、賃金センサスを基礎として逸失利益を得た事例
※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。
受傷部位 | 頸椎捻挫 |
等級 | 14級9号(頸部痛) |
ご依頼後取得した金額 |
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約340万円 |
損害項目 | 弁護士介入後 |
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傷害慰謝料 | 120万円(通院19か月 裁判基準) |
後遺障害慰謝料 | 110万円(裁判基準) |
後遺障害逸失利益 | 約105万円(4年間、5%喪失) |
結果 | 約340万円 |
状況
Xさんは、自分の前を走っていたバスが横断歩道手前で停止したためにそれに引き続いて止まったところ、後ろからトラックに追突される交通事故に遭いました。
Xさんは、事故の翌日に整形外科を受診してレントゲンを撮影した結果、頸椎捻挫と診断されました。
その後、Xさんは整形外科と整骨院を併院して治療を続けていましたが、首の痛みが取れない状態が続きました。
相手方保険会社からも特に連絡がなかったこともあり、通院を継続していたところ事故から1年半ほど経過した段階で一括対応を終了されてしまいました。
その後、Xさんは保険会社からすぐに示談の話も来なかったこともあり、自費で治療を継続していました。
事故から2年以上経過した段階でXさんは今後の手続がどのように進むのか不安になり、弁護士に相談するために当事務所に来られました。
弁護士の対応
Xさんが相談に来た段階ですでに事故から2年以上経過していました。
しかしながら、Xさんは保険会社から特に説明もなされていなかったこともあり、後遺障害のことや賠償のことについてわからない状態で、ただ治療をしているという状態でした。
そこで弁護士は、Xさんに一括対応の制度や今後の流れを細かく説明した上で、すぐに後遺障害の手続に向けた準備を始めました。
相談に来られた時点でまだ整形外科の受診があったため、病院宛に後遺障害診断書の作成をお願いしました。
しかしながら、出来上がった後遺障害診断書を確認したところ、自覚症状の欄に「頸部の違和感」としか記載されておらず、検査結果でも「特に異状なし」との記載があり、このままでは認定が得られる可能性はかなり低い状況でした。
そこで、弁護士は主治医に面談し、後遺障害の制度やXさんから聞いていた自覚症状の補足をお願いしました。
面談の結果、検査項目の項目については変更できないと断られたものの、自覚症状の項目は、「痛み」ということをきちんと記載してもらいました。
修正してもらった後遺障害診断書でも認定を受けられるか微妙な状況でしたが、Xさんと話合い、できる限りの資料を集めて被害者請求をすることにしました。
その結果、頸部痛について症状の一貫性や治療が長期間に及んでいたことを理由に14級9号の認定を受けることができました。
この結果を受けて弁護士は保険会社と賠償の交渉を行いました。
Xさんは父親と二人で自営業を営んでおり、父親が確定申告を行い、Xさんは専従者給与として月10万円ほどの収入を得ているという形で税務申告をしていました。
そのため、税務上の収入をもとに賠償額を計算するとほとんど逸失利益は発生しない状況でした。
弁護士は、Xさんから父親の確定申告書などの書類を取得して検討した上で、賃金センサスを用いて保険会社と交渉することにしました。
そして、相手方保険会社にXさんの就労状況について説明したところ、基礎収入をXさんの年齢(40代)の賃金センサスで計算することで合意してもらいました。
最終的に労働能力喪失期間は4年となったものの、基礎収入を賃金センサスで認定してもらえた結果、逸失利益を 100万円以上獲得することができました。
弁護士のアドバイス
後遺障害逸失利益は、以下のような計算方法で算出されます。
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
後遺障害逸失利益について詳しくはこちらをご覧ください。
自営業(個人事業主)の後遺障害逸失利益の算出にあたっては、上記計算式の「基礎収入」の部分が特に問題になります。
個人事業主の場合、基礎収入は原則として、事故前年度の確定申告の所得金額によって決まります。
年度によって所得の金額の変動が大きい場合には、過去複数年の確定申告を参考にして基礎収入を決めることもあります。
個人事業主の方の中には、節税しており、実際の所得の金額は確定申告の所得金額よりも高額であるという方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、確定申告の所得金額よりも高額な所得を主張する場合には、厳格な証明が求められます。
確定申告は、実際の所得を申告していることが前提となるものだからです。
そのため、申告所得を超えた金額を基礎収入にすることは非常に困難で、保険会社との交渉や裁判手続でも帳簿や通帳の履歴、家族構成、生活状況などの証拠を丹念に用意する必要があります。
本件では、Xさんの就労状況等を具体的に説明することで、交渉により賃金センサスをによって基礎収入を定めることができましたが、裁判をしていたら、賃金センサスを前提にした逸失利益の賠償を得ることは難しかったと思われます。