削除請求とは
- インターネット上で、会社のありもしないことを流されている
- 社長の悪口が多数書き込まれた
- 会社名で検索すると、ブラック企業などと書かれている
誰もがパソコンやスマートフォンでインターネットを楽しむ現代社会では、こうした名誉毀損や信用を害するような情報を掲示板などに書き込まれる被害が後を絶ちません。
インターネットの特徴として、匿名性があります。
そうした性質から、特に2ちゃんねるなどの掲示板には、毎日無数の書き込みがなされています。
ネット上の誹謗中傷が企業に向けられた場合、その企業の信用を大きく損なう危険性が潜んでいます。
そうした情報を放置すれば、検索システムでその企業を検索すると、誹謗中傷サイトが上位にくることも大いにあります。
誹謗中傷サイトが企業に与える悪影響の具体例としては、以下のようなものがあります。
- その情報を見た取引先から突然取引の停止を申し入れられた。
- 企業の商品の売れ行きが悪くなった。
- 新規に従業員を採用しようとしてもなかなかいい人材が集まらない。
こうした被害を防ぐためには、早急に当該情報をインターネット上から消去する必要があります。
それが削除請求です。
削除請求の流れ
削除請求の流れは、以下のとおりです。
まず、削除権限のあるサイト管理者に対して、誹謗中傷の書き込みがなされていることを伝えて、任意に削除するように交渉を行います。
これにより、サイト管理者が削除に応じてくれれば、当該書き込みは削除され、侵害は停止できます。
しかし、任意の交渉で、削除に応じてもらえなければ、法的な手続をとる必要があります。
なお、サイト管理者に削除要請を行えば、当該書き込みをした発信者に対して、削除について意見照会をするケースもあります。
これによって、発信者が新たな投稿を自主的に控えたり、場合によっては、自ら当該書き込みを削除したりする場合もあります。
サイト管理者が任意での削除に応じない場合には、裁判所に対し、削除を求めて、仮処分ないし訴訟を提起します。
裁判で削除請求が認容されれば、これに従って、サイト管理者が削除することになります。
万が一、裁判所の判断があったにもかかわらず、削除しない場合には、強制執行を行うことで削除させることになります。
削除請求の要件
削除請求の法的根拠としては、主に人格権に基づく妨害排除請求権としての削除請求権とされることがほとんどです。
具体的な削除請求の可否については、過去の裁判例(大阪高判平成17年10月25日)において、「表現の自由の重要性に鑑みると、表現行為の差止が認められるためには、単に表現行為によって、人格権が侵害されるというだけでは足りず、当該表現によって、被害者が事後の金銭賠償によっては回復が不可能か、著しく困難になる程度の重大な損害を被るおそれがあることが必要である。」と判断されています。
つまり、本来的には自由である表現行為と当該表現により被害者が受ける損害の程度とを比較考量して削除の可否を判断するケースが多いということです。
そのほかの構成として、民法723条の名誉回復措置としての削除請求という法的構成も考えられますが、人格権に基づく場合と異なり、不法行為の要件である相手方の故意、過失を主張立証しなければならないという違いがあります。
開示請求とは
開示請求とは、プロバイダ責任制限法第4条に基づくものです。
具体的には、プロバイダなどに対して、保有している当該発信者の特定に関する情報を開示するように求めることです。
インターネット上の違法な書き込みにより名誉毀損や誹謗中傷を受けた場合、そのような記事やコメントを掲示板などのサイトに掲載した人(発信者)は、被害者に対して、不法行為に基づく損害賠償責任を負います。
したがって、誹謗中傷等の被害を受けた人は、発信者に対して、損害賠償請求をすることができるわけです。
しかし、そのためには発信者を特定しなければ、被害者は誰に対して請求できるのかわからず、結局、賠償を受けることはできずに終わってしまいます。
つまり、開示請求は、発信者を特定し、損害賠償請求を可能にするために必要な手段ということになります。
開示請求の要件(1)
開示請求の要件は、以下のとおりです。
- ① 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が
- ② 特定電気通信役務提供者に対して、
- ③ 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであり、かつ、
- ④ 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある場合に、
- ⑤ 発信者情報の開示を請求することができる。
①の要件のうち、特定電気通信とは、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信を指します(プロバイダ責任制限法第2条第1号)。
具体的には、誰もが閲覧することができるウェブサイトや掲示板はもちろん、チャットルームにおける書き込みも特定電気通信に該当します。
ただし、メール送信は、「不特定」の者に受信されることを目的としてはいないので、特定電気通信には該当しないとされています(東京地判平成16年11月24日)。
「自己の権利を侵害された」という要件については、名誉毀損やプライバシー侵害といった法的に保護された権利利益に対する侵害をいいます。
⑤の発信者情報とは、発信者を特定するために参考となる情報をいいます。
具体的には、以下のようなものをいいます(平成14年5月22日総務省令第57号)。
- 発信者その他の侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称、住所
- 発信者の電子メールアドレス
- 侵害情報に係るIPアドレス
- 侵害情報が送信された年月日及び時刻
こうした発信者に関する情報の開示を受けることで、誹謗中傷や名誉棄損を行った人物を特定することになります。
③と④の要件の詳しい内容については、次の開示請求の要件(2)で説明します。
開示請求の要件(2)
プロバイダ責任制限法第4条は、開示請求をすることができる場合について、
- 侵害情報の流通によって開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき
- 発信者情報が開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受ける正当な理由があるとき
という2つの要件を課しています。
前者の要件については、発信者に認められているプライバシーや書き込み等を自由に行うことができるという表現の自由と被害者の権利の回復を図る必要性との均衡を図るために、権利侵害が明白であることが必要であるとされています。
この点については、これまで多くの裁判例が出されています。
なお、掲示板特有の判断要素として、当該書き込みが事実を適示したものかどうか、その書き込みだけでなく、前後の書き込みと併せて読んで事実を適示したものといえるか、仮に事実を適示していないとすれば、侮辱的な表現により他人を誹謗中傷する内容かどうかを総合的に考慮しています。
後者の「正当な理由」とは、開示を請求する者が発信者情報を入手することの合理的な必要性が認められる場合をいうとされています。
具体的には、
①損害賠償請求権の行使
②謝罪広告等の名誉回復措置の請求
③一般民事上、著作権法上の差止請求
④発信者に対する削除要求
を行う場合などです。
被害に遭った時の注意点
ネット上で名誉毀損や誹謗中傷といった被害を受けたことがわかった場合には、まず、当該スレッドをプリントアウトして証拠を保全することです。
その際には、誹謗中傷の書き込みの部分だけでなく、スレッド全体を保存するのが望ましいでしょう。
その部分だけでは、誹謗中傷に該当するか不明確な場合も多く、その場合には前後の文脈も踏まえて、侵害の有無を判断することになるからです。
また、できれば、データとして保存しておいた方がよいと思います。
そして、当該書き込みから発信者を推測できないか、確認しておくことも有益です。
例えば、プライバシー侵害の事案であれば、「この話は、○○さんにしか伝えていないはず。」という場合もあるでしょう。
また、掲示板等の管理者を特定するのに、URLが必要になりますので、早急に、誹謗中傷の書き込みのなされたサイトのURLを控えておくべきでしょう。
なお、被害に遭っていることがわかった場合には、速やかに専門家である弁護士に相談すべきです。
サイト管理者やプロバイダが発信者を特定しうる情報を保有している期間はせいぜい数か月程度です。
時間が経過すればするほど、発信者を突き止めることは非常に難しくなりますし、それだけ長い期間インターネット上に誹謗中傷等の書き込みが残ってしまうことになります。
お悩みの方は、ぜひ一度デイライト法律事務所にご相談ください。
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