経営を引き継ぐ方法

事業承継においては、どのようにすれば、経営をスムーズに引き継ぐことができるかを考えなければなりません。

ここでは経営について、①経営権、②経営ノウハウ、③経営理念に分けて、引き継ぎの方法をご紹介いたします。

 

①経営権の承継

経営権とは、会社の経営方針を決める権限です。

株式会社の場合、経営方針は、通常、取締役会決議で決めることになります。

ただし、会社法上若しくは定款上、「株主総会で定めるべき事項」とされている重要なものについては株主総会の決議で決めることになっています。

また、取締役会のメンバーである、取締役の選任・解任についても、基本的に株主総会決議で決めるものと定められています。

したがって、経営権は、株主総会決議において影響を及ぼすことができる株式数を取得することで引き継ぐことができます。

株主総会決議に影響を及ぼすことができる株式数

株主総会決議は、過半数で決めるのが原則です(普通決議・普通決議の例は下表を参照されてください。)。

そうすると、発行済株式数の過半数を取得すれば良いように思えます。

ところが、重要な事項については、さらに多数の株式を有する株主が賛成しなければなりません(これを「特別決議」、「特殊決議」といいます。例は下表を参照。)。

したがって、事業承継では、これらの重要事項についても後継者に支配させるか否かを意識して計画を立てなければなりません。

普通決議 特別決議 特殊決議
定足数 議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席 議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定款で3分の1以上の割合を定めた場合は、その割合以上) 定めなし。
可決要件 出席株主の議決権の過半数の賛成 出席株主の議決権の3分の2以上の賛成(定款でこれを上回る割合が必要と定めた場合は、その定めによる) 議決権を行使できる株主(人数)の半数、かつ、株主議決権の3分の2以上あるいは4分の3以上の賛成(定款でこれを上回る割合が必要と定めた場合は、その定めによる。)
具体例 役員(取締役・監査役)の選任、剰余金の配当、計算書類の承認等 合併、募集株式の発行(株式譲渡が制限されている会社のみ)、事業譲渡、定款の変更等 株主議決権の3分の2以上の賛成を要する例
・・・株式譲渡を制限していなかった会社が、株式譲渡には会社の承認が必要とする定款の変更株主議決権の4分の3以上の賛成を要する例
・・・議決権制限株式や優先配当株式に関する定款の変更

株式を後継者へ集中させる方法

経営者の方が株式を後継者に引き継がせる方法には贈与や遺言があります。

 

 

②経営ノウハウの承継

後継者は、経営者として必要な業務知識や経験、人脈、リーダーシップなどのノウハウを習得することが求められます。

具体的には後継者教育を実施することにより、現経営者の経営ノウハウを後継者に承継します。

後継者教育には、内部での教育と外部での教育があります。

内部での教育

内部での教育例としては、次のものがあります。

教育方法 期待できる効果
各部門(営業・財務・労務等)をローテーションさせる 会社全般の経験と必要な知識を習得
役員等の責任ある地位に就ける 重要な意思決定やリーダーシップを発揮する機会を与えることで経営に対する自覚が生まれる
現経営者による指導 経営上のノウハウ、業界事情を承継できる

外務での教育

外部での教育例としては、次のものがあります。

教育方法 期待できる効果
他社での勤務を経験させる 人脈の形成や新しい経営手法の習得ができ、従来の枠にとらわれず、新しいアイデアを獲得
子会社・関連会社等の経営を任せる 経営者としての責任感を醸成するとともに資質の有無を確認
後継者を対象とした研修やセミナー等の活用、MBA取得 経営に必要とされる知識全般を取得し、幅広い視野を育成

 

③経営理念の承継

事業承継の本質は、経営者の経営に対する想いや価値観、態度、信条といった経営理念をきっちりと後継者に伝えていくことにあります。

現経営者が自社の経営理念を明確化し、何のために経営をするのかを後継者にきちんと承継します。

 

 

 

資産を引き継ぐ方法

中小企業の経営者の場合、その個人資産の大部分が自社株式や事業用資産です。

万一、現経営者が高齢化や病気等によって判断能力が低下した場合、これらの資産の譲渡(売買や贈与等)の効力が問題となります。

そのため事業承継を円滑に行うためには、現経営者が元気なうちに、資産を計画的に引き継いでいく必要があります。

資産を引き継ぐ方法としては、①売買、②生前贈与、③遺言、④死因贈与などがあります。

ここではこれらの方法のポイントについてご紹介いたします。

 

①売買

売買によって資産の承継を考えた場合、問題となるのは、まず、後継者が買い取りの資金を準備できるかと言うことです。

また、資産の評価を適切に行うことも重要です。

すなわち、親族間の売買では、時価よりも低い価格で資産を譲渡することが往々にしてあります。

このような場合、時価と実際の価格との差額について贈与と評価される可能性があり、その場合、遺留分の問題が発生します。

したがって、時価算定については、第三者の専門家に鑑定を依頼するなどして適切な対価を決定することがポイントとなります。

 

②生前贈与

生前贈与によって資産を承継させる場合、まず気にしなければならないのは、遺留分による制約です。

万一、相続開始後、遺留分権利者から遺留分侵害額請求を行使されると、経営者が思い描いていたとおりに資産の承継が進まなくなります。

また、生前贈与でポイントとなるのは、経営者が元気なうちに、計画的に実施するということです。

この点、経営者の方の中には、元気なうちに贈与を行うことに対して、抵抗を感じる方が少なくありません。

しかし、現経営者の方が突然不慮の事故や病気等による亡くなることも考えられます。

また、高齢等により判断能力が低下した場合、事後の対応が困難となります。

一度にすべての資産を譲渡する必要はなく、贈与契約の時点で、一定の条件を設けたり、段階的に権利を移転させたりする等の方法を取ることで、経営者の方の不安もなく、円滑な事業承継が可能となります。

 

③遺言

自社株式や事業用資産を後継者に相続させる旨又は遺贈する旨の遺言を作成し、経営者の死亡時に後継者にこれらを取得させる方法です。

遺言には、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。

それぞれの特徴についてはこちらからどうぞ。

遺言についても、生前贈与と同様に遺留分による制約に注意が必要です。

生前贈与と遺言

遺言の場合、経営者はいつでも遺言の撤回ができるので、経営者にとっては使い勝手が良いといえます。

しかし、反面、生前贈与の場合に比べて、後継者の地位が不安定となります。

いずれを選択すべきかについては事業承継に詳しい弁護士へご相談ください。

遺言執行者の指定

遺言の場合、遺言内容の実現を確実にするため、遺言執行者を指定しておくことが重要です。

また、利害関係者を遺言執行者とすることはなるべく避け、弁護士等専門知識を有する第三者を指定しておく方が望ましいといえます。

 

④死因贈与

死因贈与とは、贈与者の死亡を原因として効力を生じるという内容の条件付贈与契約です。

死因贈与も遺言と同じく、現経営者が死亡するまでは効力を生じないため、それまでは変更や撤回が可能です。

したがって、他方では後継者の地位が不安定となります。

遺贈との違い

遺贈(遺言による贈与)は遺言者が一方的に行う意思表示であるのに対して、死因贈与は、贈与者と受贈者の意思表示の合致によって成立する契約であるという違いがあります。

また、「遺贈」は、遺言によってなされるため、遺言書の作成が必要になりますが、「死因贈与」は、必ずしも書面によって行う必要がありません(しかし、実際には書面を作成しておかないとトラブルの原因となりますので、書面を作成しておく方が望ましいです。)。

次に、贈与の効力を撤回したいとき、「遺贈」は書面によって撤回しますが、「死因贈与」は必ずしも書面によって撤回する必要がありません(もっとも、撤回が制限される場合があります。)。

「遺贈」は、遺言という原則として後継者に公開されないものによってなされるので、贈与の内容を知られたくない場合などに使用されます。

これに対し、「死因贈与」は、契約によってなされるため、後継者に贈与の内容を知らせるメリットがある場合などに使用されます。

なお、死因贈与についても、生前贈与と同様に遺留分による制約に注意が必要です。

遺留分について、くわしくはこちらをごらんください。

 

 



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