2020年に行われる東京オリンピックですが、開催までいよいよ5年後に迫ってきましたが、先日発表された東京オリンピックのロゴについても、議論がなされています。

発表されたロゴがベルギーのリエージュ劇場のロゴと似ているとリエージュ劇場のロゴを制作したデザイナーが問題視しています。

 

商標権と著作権

こうしたデザインに関する法的問題について考えるに当たっては、知的財産権の分野で取り扱われている、「商標権(商標法)」や「著作権(著作権法)」の観点から検討が必要です。

商標権と著作権の特徴、違いは主に以下のとおりです。

商標権(商標法)

  • 商標(マーク)に権利を与えることで当該商標を使用する者の業務上の信用を与え、産業の発展と需要者の利益に資することを目的としている。
  • 登録制(特許庁への申請と登録決定が必要)
  • 著作権のような創作性は不要。文字商標も登録可能。

 

著作権(著作権法)

  • 著作物を保護することにより、著作者の権利保護と文化の発展を目的としている。
  • 無方式主義(申請は不要。創作した時点で権利は発生)
  • 著作権(複製権など)と著作者人格権の2つがある。

 

このように商標法は産業の発展という経済的な側面を実現するために規定された法律で、他方著作権法は文化的な側面を実現するために規定された法律です。

著作権法の典型的な保護対象は小説や音楽、映画、絵画などですが、商標(マーク)についてもデザイン的な要素があるので重複する部分が生じてきます。

商標権と著作権のどちらも、権利を侵害されている場合には、損害賠償請求に加えて、使用の差止めを求めることができます。

したがって、東京オリンピックのロゴがリエージュ劇場のロゴの商標権若しくは著作権を侵害していると認められる場合には、ロゴを使用することができないということになります。

 

 

商標権からの検討

5124ca45731c876a3196f1c2c90e5086_s商標については、先願主義というルールがあります。文字通り、先に商標登録出願をして、登録されたものに優先的な効力が認められるというルールです。

登録されている商標については、特許庁のデータベースで検索することができます。

報道によれば、今回のリエージュ劇場のロゴは商標登録をしていないようです。

したがって、東京オリンピックのロゴは、商標権の侵害にはならないということになります。

では、仮に、リエージュ劇場のロゴが商標登録されていたとしたらどうでしょうか?「全く似ていない。」、「全然違う。」ともいえないと思われます。皆様はどのようにお考えでしょうか?

この点、商標の類似性については、商標の「外観」、「呼称」及び「観念」のそれぞれの判断要素を総合的に考慮して、判断されます。

「外観」は、当該商標の見た目、
「呼称」は、商標の呼び名、
「観念」は商標の構成から読み取れる意味です。

この3点の考慮事項を用いて、「一般的な取引者、需要者」を基準に類似しているかどうかを判断します。

「一般的な取引者、需要者」とは、商標(マーク)を見て買い物をしたり、サービスを受けている消費者です。

今回のロゴについて検討すると、まず、呼び名や観念の同一性はありません。

そこで、外観上の類似性、同一性の問題になりますが、図形の部分については右上の赤い丸が東京オリンピックのロゴには入っており(日の丸の赤だといわれています。)、消費者から見て識別困難だとはいえないと考えられます。

また、このロゴには、「TOKYO2020」という文字とオリンピックのマークが下に付されており、こうした点からしても、商標の類似性はないと判断される可能性が高いでしょう。

 

 

著作権からの検討

では、著作権侵害にはならないでしょうか。

著作権の侵害に該当するかどうかについては、「問題とされている作品を見たときに、著作物に依拠していることが直接感得できるか」という基準で裁判実務上検討されています。

言葉をかえると、「この作品はあの作品をマネして作ったんだ。」と一般の人が判断するようなものであれば、著作権の侵害になります(複製権若しくは翻案権の侵害)。

今回のロゴに当てはめてみると、リエージュ劇場のロゴと東京オリンピックのロゴは確かに似ている点もありますが、上述した右上の赤い丸や三角部分が離れていることなどもあって、直ちにマネしていると断言することは難しいといえます。

また、リエージュ劇場のロゴは、アルファベットの「T」と「L」を重ねたものとされており、誰もマネできない独創性に優れたものとまでは評価できず、そもそも著作権で保護されるかどうかも微妙なものです。

つまり、キャラクター等のように具体的な特徴が多ければ多い程、保護される範囲は広くなるのです。

したがって、東京オリンピックのロゴは、リエージュ劇場の著作権も侵害していないと考えられます。

IOCも現時点では、デザイナー側の問題視に対して、批判は当たらないという態度をとっています。

もっとも、デザイナー側は差止めを法的に求めたとの報道もあり、今後の動向が注目されます。

 

 

商標登録のメリット

logo企業活動において、自社の商品やサービスに用いるロゴはとても重要なものです。

多くの企業では、ロゴに意味を込め、理念を表すものとしても使用しています。

当事務所のロゴも深刻な悩みを抱えるクライアントに対し、「希望の光を与えたい」という思いが込められています。(→ 当事務所のロゴに込めた思いについては、こちらをご覧ください。)

このような重要な役割を果たしているロゴについては、著作権法よりも商標法で保護することを考えるべきです。

先ほど説明したとおり、著作権は無登録で発生するという特徴があるために、保護範囲が不透明になりがちです。

また、ロゴは企業のイニシャルを用いて作られることも多く、文字のロゴの場合は、そもそも著作権で保護されない可能性もあります。

したがって、企業のロゴについては、商標登録を検討すべきです。

ご不明な点は当事務所にご相談ください。

 

 

新たな問題

なお、この問題の後、オリンピックのロゴをデザインしたデザイナーにバッグのデザインの盗作が判明しました。

こちらの方は、スタッフが第三者のデザインを使用したことを認めています。

したがって、自主的に第三者のデザインを使用したものについては、懸賞の対象から除外することになりました。

こうした問題が起これば、東京オリンピックのロゴも模倣したのではないかという疑いがかけられることになってしまいます。

そうすると法的な問題を離れて使用を控えるべきだという声も挙がってくるかもしれません。

国を挙げての一大事業なだけに、国立競技場のデザインも含めて今回のロゴも一般公募としたようですが、ここにきて問題が噴出しています。

 

 

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