自身の氏名と都道府県を検索サイトのGoogleで入力すると児童買春での逮捕歴が表示されるのはプライバシー権の侵害であるとして、Googleに対し削除することを求めていた裁判で、最高裁は、平成29年1月31日に、削除を認めない決定を行いました。
この件について、弁護士が解説いたします。
忘れられる権利
インターネットの普及に伴い、憲法で明記されていない新しい人権に注目が集まっています。それは、「忘れられる権利」というものです。
自身や親族などに犯罪歴がある場合、それに関するニュースがインターネット上で流れてしまうと、そのニュースが永続的に掲載されるので、大きな不利益を受けます。昔であれば、軽微な事件で、新聞の片隅に載って人知れず済んだものでも、今は、Google等の検索にひっかかってしまいます。
そこで、犯罪が行われて一定の年数が経過したら、Google等の検索結果に記事を表示しないようにしてもらう権利としての「忘れられる権利」に注目が集まっています。実際、この「忘れられる権利」は、欧州連合(EU)が認めています。
では、日本の法律や裁判実務では、どのように考えられているのでしょうか。
平成26年12月22日さいたま地方裁判所
この点、本件の第一審であるさいたま地方裁判所は、平成26年12月22日に、犯罪が行われてからある程度の期間が経過すると、過去の犯罪事実について社会から「忘れられる権利」があるとし、検索結果から男性の逮捕歴を削除するように仮処分を命じました。
この判断に対し、Googleが抗告したところ、東京高裁は、さいたま地裁の決定を取消し、検索結果の削除を認めませんでした。
そこでは、罰金を納付してから5年以内の現段階では、いまだ公共性は失われていない旨を指摘するとともに、「忘れられる権利」については、検索結果の削除自体は名誉権やプライバシー権に基づく差止め請求の可否で議論すれば足りることであり、「忘れられる権利」として独立して判断する必要はないという指摘も行っています。
そこで、最高裁の判断に注目が集まっていましたが、冒頭で述べたとおり、最高裁は、検索結果の削除を認めませんでした。
平成29年1月31日最高裁
もっとも、最高裁は、検索結果の削除は認めませんでしたが、検索結果の表示の社会的意義と比較し、個人のプライバシー保護が明らかに優越する場合には削除が認められる旨の判断基準を示しました。そして、その判断にあたっては、①情報の内容、②被害の程度、③社会的地位等を考慮すべきと指摘しています。
そのうえで、本件においては、「児童買春の逮捕歴は今も公共の利害に関する。男性が妻子と生活し、罪を犯さず働いていることなどを考慮しても、明らかにプライバシーの保護が優越するとはいえない」としました。
なお、最高裁は、「忘れられる権利」にはまったく触れませんでした。
忘れられる権利については、今後も議論が続くことが予想されますが、少なくとも、現在の最高裁のスタンスでは、忘れられる権利という新しい人権を正面から認めるのには消極的で、東京高裁と同じく、名誉権やプライバシー権という従来から認められている人権の問題としてとらえているようです。
ともあれ、本件において、最高裁は、検索結果の削除について、前述の一定の基準を示しました。これは、実務上も意義があります。
今後は、検索結果の削除の判断にあたっては、上記の基準が用いられることになるでしょう。
弊所に相談に来られた方にも検索結果の表示について、同種の悩みをもっておられる方が決して少数ではありません。
上記の基準の適用の可否を判断するには、個別の事情を伺ったうえで、慎重に検討する必要があります。
弊所には、IT事業に詳しい弁護士も在籍しております。このようなお悩みをお持ちの方は、まずは、弊所の弁護士にご相談ください。
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