最近、ニュースなどで、「マイナンバー」という言葉をよく聞かれるようになったのではないでしょうか。これは、ざっくり言うと、国がすべての国民や法人等に対して、個人番号(マイナンバー)を指定するというものです。マイナンバーは、行政事務に利用されます。利用の目的は、住民の利便性向上と、行政運営の効率化を図るといいうものです。

さて、一見、便利で行政の無駄をなくせるのであれば、問題はないように思われます。しかし、このマイナンバー制度を導入する代償として、民間企業には極めて大きな負担が生じます。また、個人情報の漏洩による賠償問題といったリスクも生じてきます。

そこで、このマイナンバー制度の概要について、解説致します。

 

マイナンバー制度導入の背景

例えば、専業主婦である鈴木花子さんが国民年金の保険料の負担がない第3号被保険者の資格取得の届出を行う場合、市役所で課税証明書を発行して、年金事務所に届出る必要があります。これは、第3号被保険者の資格要件として、年収130万円以下であること求められているからです。この場合に、市役所と年金事務所において、鈴木さんの所得情報の授受を行ってくれれば、鈴木さんはわざわざ市役所で課税証明書を取得する必要はありません。

他方で、所得情報などの情報の授受を行う場合、同一人であることを確実に識別することが必要です。例えば、鈴木花子という同姓同名の者が他に存在する場合、氏名だけでは識別が困難となります。

そこで、国は、マイナンバーを指定し、同一人であることを確実に識別することができるようにしたのです。なお、マイナンバーは、個人は12桁、法人は13桁が指定され、原則として変更されません。

 

マイナンバーの利用範囲

マイナンバー制度は、まず、次の①社会保障分野、②税分野、③災害対策の3分野に導入することが決まっています。

①社会保障分野
・年金の資格取得や確認、給付
・雇用保険の資格取得や確認、給付
・ハローワークの事務
・医療保険の保険料徴収
・福祉分野の給付、生活保護など

②税分野
・税務当局へ提出する確定申告書、届出書、調書などに記載
・税務当局の内部事務など

③災害対策
・被災者生活再建支援金の給付など

したがって、民間企業がマイナンバーを取り扱うのは、具体的には次の場合などです。

・従業員へ給与等を支払った場合の源泉徴収票への記載。
・弁護士や社労士等へ報酬の支払いをした場合の支払調書への記載。
・健康保険、厚生年金、雇用保険の被保険者資格取得届への記載。

 

マイナンバーを取り扱う際の企業の事務

企業のマイナンバーの取り扱いは、次の3段階となります。

①マイナンバーの取得


②源泉徴収票等の書類への記載


③税務署や市区町村への提出

 

① マイナンバーの取得

税務や社会保険関係の書類にマイナンバーを記載する前提として、企業は、従業員やその扶養家族等からマイナンバーの提示を受けて、取得しなければなりません。

ここで、注意しなければならない点が2つあります。

 

・利用目的を明示すること
マイナンバーを取得する際は、利用目的を特定して明示する必要があります。例えば、「源泉徴収票作成事務」「健康保険・厚生年金保険届出事務」などです。なお、源泉徴収や年金・医療保険・雇用保険など、複数の目的で利用する場合は、まとめて目的を示しても構いません。

・厳格な本人確認が必要
マイナンバー制度は、個人番号の不正利用等(例:他人の個人番号を用いた成りすまし)により財産その他の被害を負うのではないかといった懸念があります。
そのため、マイナンバーを取得する際は、他人の成りすまし等を防止するため、厳格な本人確認が求められています。

本人確認では、①正しい番号であることの確認(番号確認)と、②手続を行っている者が番号の正しい持ち主であることの確認(身元確認)が必要です。

 

② 源泉徴収票等の書類への記載

上述したとおり、企業は、源泉徴収票等の税務書類、雇用保険被保険者資格取得届等の社会保険関係書類にマイナンバーを記載しなければなりません。そのため、制度導入後は、これらの書類は、様式が変更され、「個人番号」蘭が追加される予定です。なお、変更後の様式のイメージについては、ガイドライン等でも公表されていますが、まだ確定ではありません。

 

③ 税務署や市区町村への提出

書類へのマイナンバーの記載開始時期及び提出期限については、対象となる業務ごとに法定されています。例えば、金銭等の支払等に係る法定調書の場合、来年1月1日からマイナンバーの記載の対象となり、平成28年分特定口座年間取引報告書であれば、平成29年1月31日までに提出しなければなりません。

 

個人情報漏洩の防止策

マイナンバーの制度導入にあたっては、マイナンバーを用いた個人情報の追跡・突合が行われ、集約された個人情報が外部に漏えいするのではないか、といった懸念があります。このような事態を防止するため、国は、利用、収集、保管等について厳しい制限を事業者に課しています。

また、事業者に対して、マイナンバーや特定個人情報の漏えい等の防止のために、多岐にわたる安全管理措置を講じるよう義務付けています。

 

個人情報が漏洩した場合のリスク

企業の安全管理措置が不十分で、個人情報が漏洩した場合、企業のリスクとしては、次のものが考えられます。

①民事上・刑事上の責任
・慰謝料などの損害賠償責任
・刑事罰

②調査・対応による損失
・事実関係の確認や調査などの負担
・マスコミ会見
・謝罪広告費
・クレーム処理における人件費

③経営上の損失
・社会的信用の失墜、企業イメージのダウン
・従業員の士気や社内のモチベーションが低下
・生産性は上がらずに業績の悪化
・優秀な人材の流出

 

制度導入のタイムスケジュール

今年10月にはマイナンバーが個人に通知されます。そして、来年1月1日以降は実際に企業がマイナンバーを調書等に記載することが求められています。したがって、企業は、今の時点から、社内規程の見直し、システム対応、安全管理措置の実施等の準備を進めていかなければなりません。

以上のようにマイナンバーの導入にあたって、企業は、様々な事前準備を行わなければならず、大きな負担となります。また、万一、マイナンバーが漏洩した場合、賠償責任等のリスクがあるため、トラブル防止のための対策を講じておく必要があります。

なお、当事務所では、企業をサポートするために、マイナンバー対策のセミナーを随時開催しております。

セミナー情報については、こちらをごらんください。

 

 

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