7c5ace1ccfc799758dfa5e2f2ab3e521_s2015年9月4日、個人情報保護法とマイナンバー法の改正法が成立しました。

 

新聞報道等では、マイナンバーの銀行口座との連結による、漏洩リスクなどが大きく取り上げられています。

 

確かに、マイナンバーは、個人情報の漏洩や成りすましによる悪用等の問題が懸念されます。
したがって、通常、一般市民の関心としてはこのマイナンバー法の改正の方が大きいといえます。

 

しかし、今回の改正法の成立によって、企業にとっては、個人情報保護法の改正の方が大きいと思えます。

 

中でも、中小企業にとって影響が大きいのは5000件要件の撤廃です。
あまり、大々的には報道されていないので、ここではこの問題について紹介します。

 

そもそも5000件要件とは何でしょうか。

 

個人情報保護法は、主として、個人の権利利益の保護のために、個人情報と取扱事業者に対して、順守すべき義務等を定めた法律です。

 

その中身については多岐にわたりますが、例えば、個人情報取扱事業者は、安全管理措置(個人データの漏えい、滅失又はき損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置)を講じなければなりません。

 

個人情報保護法が制定されたのは、平成15年ですが、当時、上記のような義務をすべての事業者に対して負わせるのは、あまりにも負担が大きく、現実的ではないことから一定の例外が設けられていました。

 

それが5000件要件です。

 

これは、大雑把に言えば、保有する個人情報の件数が5000件を超えない小規模事業者については、「個人情報取扱事業者」には該当しないという内容です。

 

したがって、これまでは、業種にもよりますが、通常の中小企業規模の事業者であれば、個人情報保護法の各種義務を負う必要はありませんでした。ほとんどの中小企業はあまり関係がないという状態でした。

 

62c0ef8b245d996ad6bbd17a24b0a544_sところが、今回の改正では、この5000件要件を撤廃することとなりました。

 

この背景には、欧州連合(EU)から日本の情報保護の不十分さを指摘されていたこと等への配慮があると考えられます。
すなわち、欧州連合は、これまで日本と欧州との個人情報の行き来を禁じており、日本企業は現地子会社の従業員データさえ簡単には持ち出せない状況でした。今回の改正でEUが措置を撤回すれば、日本企業は海外で活動しやすくなります。

 

ただ、改正の恩恵はグローバル企業であり、小規模事業者への負担は大です。
今回の改正により、法文上は、町の八百屋さんや魚屋さんも入ってくることになります。

 

特に個人情報データベースを作成していると思われる、各種サービス業、医療機関、各種士業(弁護士、税理士、社労士等)等については、ほぼ個人情報保護法を順守しなければならなくなります。

 

しかし、これは現実的に難しいと思います。

 

例えば、町のラーメン屋さんが配達先数件の名前、住所、電話番号が記載された顧客名簿(紙)を持っている場合に、大量データを扱う大企業と同じレベルの安全管理措置を負うというのは無理を強いるものです。

 

そこで、改正法は附則(11条)を設け、「(小規模事業者)が新たに個人情報取扱事業者になることに鑑み,特に小規模の事業者の事業活動が円滑に行われるよう配慮するものとする。」と規定しています。

 

これにより、例えば、国会答弁を見ると、上記のような例では、顧客名簿を鍵の掛かる引き出しに管理をすれば足りるという程度の安全管理措置に軽減するようです。

621dc99a0154d54cb92a6f013441b674_s

とはいえ、やはり今回の改正が中小企業に与える影響は極めて大きいと思われます。

 

また、マイナンバー法との関係も注目されます。
すなわち、マイナンバー法では、従業員数100名以下の中小企業で、個人情報取扱事業者に該当しない事業者については、マイナンバーの安全管理措置に関して簡易な軽減措置が認められています
ところが、今回の個人情報保護法改正によって、個人情報取扱事業者ではなくなる事業者が激増するはずです。したがって、どのように調整するのかが気になります。

 

今回の改正法が実際に施行されるのは、公布の日から2年以内の政令で定める日とされています。

 

今後、施行までの間に行政から小規模事業者向けのガイドライン等が出されることと思いますが、情報集収を行っていただき、早めの対策をとられた方がよいでしょう。

当事務所においても、今後、個人情報保護法関連のセミナーを開催する予定です。

ご不明な点等あればお気軽にご相談ください。

 

 

弁護士コラム一覧