(1)日本における解雇の難しさ
外国の企業から日本を見たときに、まず、異質に感じるのは解雇の問題です。
日本以外の多くの国では、程度の差はあれ、解雇はそれほど難しくないと思われます。
ところが、日本では、解雇はそう簡単にはできません。
例えば、会社が期待する成果を出せない能力不足の従業員や問題行動を繰り返す従業員がいたとしましょう。このような場合、会社は労働者を解雇できるでしょうか。会社はボランティアで人を雇って賃金を支払っているわけではありません。会社が期待している労働力を提供できない以上、労働契約を解消するのは当然のように感じます。また、能力不足や問題社員をそのままに放置しておくと、周りの従業員のモチベーションが下がる等の悪影響が生じるおそれもあります。したがって、解雇は問題がないように思えます。
しかし、日本では、このような場合でも、解雇は基本的には認められません。日本には、契約自由の原則という考えがあり、契約の締結や解消は、通常は自由に認められます。ところが、労働契約においては、立場が弱い労働者保護の観点から、労働契約法という特別法により、この契約自由の原則が修正されています。すなわち、労働契約法は、解雇する場合、①客観的に合理的な理由を欠き、②社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする旨規定しています。したがって、解雇した後、もしも労働者から裁判を起こされ、不当解雇と主張された場合、会社は①客観的合理性と②社会通念上の相当性の要件を満たすことを主張・立証していくがあります。日本では、裁判所がこの要件を満たしていると判断してくれるケースは多くなく、解雇のハードルはとても高い状況です。仮に、裁判で解雇が無効と判断されると、その労働者を復職させなければなりません。また、復職だけでなく、解雇してから復職するまでの賃金相当額の支払いを命ぜられることが多くあります。裁判で何年も争っていた場合、この額は決して低くなく、数百万円となることが予想されます。また、その他に、裁判の費用(弁護士費用を含む。)や裁判に応じることによる会社担当者の負担、敗訴の場合の社会的信用の失墜等のデメリットがあります。
日本において、このように解雇が難しいのは、労働契約が基本的には終身雇用制と考えられていることに起因しています。終身雇用制とは、同一企業で定年まで雇用され続けることをいい、日本の正社員雇用においての慣行です。
この終身雇用制については、人員整理や転職が難しく、経済の変化に伴う企業間・産業間の適正な労働力配置の妨げになるなどの批判もあり、解雇規制を緩和しようという動きも見られています。例えば、近年、安倍政権下において、金銭補償で雇用契約を終了させることのルール化をしようとしていました。しかし、反対派の抵抗感が強く、現在のところ、解雇は困難な状態が続いています。したがって、海外企業が日本に進出する場合、このような雇用情勢を踏まえておくべきです。
(2)トラブル予防のポイント
ア 採用
前記のとおり、日本では、解雇はとても困難です。そのため、正社員(ここでは、契約期間の定めのない従業員のことをいいます。)を採用する場合、書類審査だけではなく、面接、作文、適性検査等により、良い人材を採用することがポイントとなります。特に、面接は応募者の人柄を知る上で大切です。
また、正社員ではなく、パートタイマーを採用するような場合、契約期間を定めるか否かを検討すべきです。契約期間に定めがある場合(例えば、半年契約で、更新ありの場合)のメリットは、採用後、従業員が問題社員等であったことが判明した場合、契約期間満了にともなって更新しないことで、雇用契約を終了させることが可能です。反面、デメリットは、安定性を求める優秀な人材が自社に応募してくれない可能性があることです。ただし、パートタイマーの場合、契約期間に定めがあっても、人材にさほど大きな差はないと考えられます。要は、企業が必要とする人材とその人材を獲得するための待遇や条件について、よく検討することです。
ィ 雇用契約の終了方法
雇用契約を終了させる方法は、解雇だけではありません。すなわち、雇用契約を終了するには、基本的には①自主退職、②合意退職、③解雇の3つの方法があります。
このうち、③解雇はハードルが高く、リスクがあります。そこで、可能であれば、退職勧奨を行い、従業員に退職届を提出してもらう(①)か、示談によって退職を合意する(②)方法がリスクは少ないでしょう。退職勧奨とは、会社が従業員に対して、会社をやめてくれるように説得することを言います。退職勧奨自体は違法ではないので、適切な方法で実施し、従業員が納得するのであれば問題ありません。ただし、相手方の意志に反する執拗な退職勧奨などは、違法となり得ますので注意してください。
従業員が退職勧奨に応じてくれない場合は、②③はできません。この場合、解雇を検討しますが、解雇の場合は訴訟リスク等が高まることを踏まえて解雇を実施するか否かを判断してください。
解雇問題について、よりくわしくは労働特化サイトをごらんください。
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