福岡市が、平成30年4月2日より、札幌市に続いて、LGBTの方のために「パートナーシップ宣誓制度」の運用を開始することが決定しました。
現在、福岡市は性的マイノリティに関する支援方針なるものも策定しており、今後、パートナーシップ宣誓制度のみならず、LGBTのための施策を展開していくものと思われます。
今回のコラムでは、福岡市のパートナーシップ宣誓制度がどのようなものなのか、他の自治体との比較も含めて、解説していきたいと思います。
パートナーシップ制度とは
パートナーシップ制度自体の定義はありませんが、同性カップルないしLGBTの方々で結婚ができない方のために、パートナーであることを対外的に表明するための制度といえるでしょう。
しかし、後述のように、パートナーシップ制度自体は、自治体の取り組みであって、法律上の効果は生じませんので、婚姻制度に代替するものではありません。
平成30年3月現在、パートナーシップ制度を持つ自治体は、渋谷区、世田谷区、伊賀市、宝塚市、那覇市、札幌市の6自治体のみですが、福岡市が7番目の自治体となりました。
宣誓のための要件
宣誓をするためには、宣誓者が以下の要件を満たしている必要があります。
① 宣誓をする双方が20歳以上であること
② 双方とも福岡市民であること、ただし、転入予定者も含む
③ 婚姻していないこと
④ 宣誓者以外の方とパートナーシップ関係がないこと
⑤ 宣誓者同士の関係が近親者でないこと(近親者とは、直系血族、三親等内の傍系血族又は直系姻族のこと)
⑥ 一方又は双方が性的マイノリティであること
必要書類
宣誓のために必要な書類は以下のとおりです。
① 福岡市パートナーシップ宣誓書(当日窓口での記載が求められます)
② 住民票の写し(3ヶ月以内に発行されたもの)
③ 独身証明書・戸籍抄本など独身であることを証明できる書類(3ヶ月以内に発行されたもの)
④ 個人番号カード、運転免許証など本人確認書類
法的な効力
法的な効力はない
パートナーシップ宣誓制度は、法律上の制度ではなく地方自治体の要綱で定められたもので、あくまで「宣誓」するものですから、特に法的な効果を伴うものではありません。
まれにですが、パートナーシップ制度が婚姻に代替する制度のように報道されている場合もありますが、完全な誤解です。
そのため、「婚姻制度」とは全く別物です。
法的な効力がないということは、婚姻と異なって、「同居義務」、「扶助義務」などの婚姻に伴う権利義務関係は生じず、仮に一方が亡くなった場合でも、相続権が発生するものでもありませんので、注意が必要です。
仮に、上記のような効力を得ようとする場合には、双方で契約書を交わしたり、遺言をお互いに書いておく必要があります。
また、税金の関係でも効力がありませんので、配偶者控除などの法的な婚姻関係を前提として制度の利用はできません。
無意味な制度なのか
もっとも、法的な効力はありませんが、市の取り組みですので、市としてはパートナーシップ宣誓をしている人への配慮は行っていく予定です。
例えば、今まで同性カップル等の場合には申込みができなかった市営住宅への申込みを可能とし、婚姻関係のあるカップルと同様の取り扱いを実施します。
また、市立病院において、診療内容や手術への同意などの手続を配偶者と同様の扱いで受けることができることになるそうです。
さらに、現在は民間でも、携帯電話の家族割の適用や航空会社のマイルの家族向けサービスの利用などLGBTのカップルを異性のカップルと同様に取り扱うような事例が増えております。
そのため、このようなサービスを利用する際に、パートナーシップ宣誓をしていると、よりスムースにサービスの利用ができるものと思われます。
制度についてよくある相談QA
プライバシーは守られるのか?
LGBTの方々は、自らがLGBTだと家族や友人などに話している人ばかりではなく、オープンにしていても一部の人にしかしていないという方が少なくありません。
そうすると、パートナーシップ宣誓をしたことが外部に漏れたりするおそれがあるのでは、安心して制度を利用することができません。
この点については、市側としても配慮しており、電話やメールで予約をして、宣誓をする日時場所を知らせてもらって、個室で宣誓を行うことになります。
そのため、窓口に行ったことで自らがLGBTだと分かってしまうことや、宣誓をしている姿を見られてしまう危険性はほとんどありませんので、ご安心して利用いただけるものです。
パートナーシップの解消はできる?
パートナーシップ宣誓をした後、婚姻と同様に破綻をする可能性はあります。
その場合には、パートナーシップ宣誓書を返納するという手続になります。
この返納手続の際には、双方の同意が必要かが問題となってきますが、現状では双方の同意が必要ということで市側は考えているそうです。
もっとも、片方の同意がないと宣誓自体がそのままになってしまうことになるので、その不都合については、今後解消される必要があるでしょうから、市の方で返納制度の詳細な検討が求められるところです。
ただし、前述のとおり、この制度自体に法的な効力はないため、あまり問題が生じないのかもしれません。
通称名は利用できるのか?
トランスジェンダーの方などで、自らの性自認が身体の性別と異なる場合、例えば、身体は女性であるけれど、心は男性という場合に、自分の名前は違和感があるため、通称を用いたいという希望があると思います。
この点についても、市長が認める場合に限りますが、宣誓受領証には、通称を用いることができるようです。
ただし、本人確認時には戸籍上の氏名を用いる必要があります。
福岡市から引越す場合はどうするか?
福岡市のパートナーシップ制度は、福岡市の取り組みですから、福岡市内から宣誓をした一方でも引っ越す場合には、パートナーシップ宣誓受領証を返納する必要があります。
もっとも、転勤などの一時的な市外への移動の場合には、返納しなくても問題ありません。
外国籍の方はどうやって独身であることを証明するのか?
外国籍の方の場合には、独身証明書などは日本で発行できません。
そのため、自国で独身を証明できる書類を発行してもらい、その日本語訳を添付して提出する必要があります。
その証明書は、国ごとにことなるため、まずは証明書を取得して、その証明書で受け付けてもらえるかを市に問い合わせをするのが良いでしょう。
また、独身であることが要件ですが、外国で同性婚が認められている国などですでに宣誓をしようとしているパートナー同士で婚姻している場合には、その証明書を提出すれば、パートナーシップ宣誓も可能であると思われます。
他の制度との比較・特徴
福岡市以外では、現在6の自治体が何かしらのパートナーシップ制度を運用しています。
そして、その制度ごとに要件や対象の方などが異なりますが、福岡市の制度は、2017年にパートナーシップ制度を導入した札幌市の制度に近いものといえるでしょう。
福岡市のパートナーシップ制度の特徴としては、宣誓受領証がカード型であることが挙げられます。
これは、受領証を持ち歩いて提示できるように配慮したもので、受領証も2枚交付され、双方が持って置けるようになっているのが特徴です。
今後の福岡市の取り組みについて
福岡市のパートナーシップ宣誓制度は、平成30年3月20日より予約を開始しており、4月2日から実際に宣誓及び受領証の発行を開始する予定です。
福岡市は、パートナーシップ制度にとどまらず、弁護士会や当事者団体と共同しての専門相談電話の設置や、交流事業の実施などの支援事業を行うとともに、内部職員に対する研修、学校教育における取り組み、民間企業の取り組みを評価・情報発信する取り組みなどの教育・啓発事業を展開する予定です。
今後は、このパートナーシップ宣誓制度を契機に、LGBTのカップルの方も異性カップルと同様に民間のサービスが利用できたり、公務員としての福利厚生が受けられたりするような取り組みが進んでいくことが望まれます。
その一方、パートナーシップ宣誓をしていないと、上記の制度やサービスを利用できないような状態となるとすれば、本末転倒ですので、パートナーシップ宣誓をしていないLGBTの方々にも配慮できる体制作りが望まれます。
当事務所は、LGBT問題に真剣に向き合い、取り組んでいる数少ない弁護士事務所です。
基本的には来所しての相談を勧めておりますが、LGBT関連の相談では、弁護士といっても直接会うのは躊躇されるということがあるかと思います。
一人で悩まず、お気軽にご相談ください。
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